08.20.蘇る記憶
「伊織……、何隠してる?」
「それは……、無理に思い出させたらダメだって、ドクターが。だから……」
「へえー、無理に思い出したらどうなるんだろうね。気にならないかい? マイ・プリンセス」
「十六夜 ……」
「てめえじゃどう頑張っても葉月に勝てねえよ。大人しく見てな、自分の女が目の前でヤられんのをよ」
「透、逃げ、きゃあ」
ドカッ
「大人しく見てろって言ってんだろ」
ううっ、背中が……
透は……
「伊織が彼氏……、私は……」
放心状態の透は抵抗すること無くコートを脱がされてしまう。
そんな……、無理に思い出さそうとしたから……
「そうだね。抵抗しても苦痛を伴うだけだからそれが賢明かな。でも、あんまり素直でも面白みがないからねえ。佐々木」
「へっへっへ。そういうわけだから諦めな。今日は俺にも回してもらうぜ」
事件の時、武神さんにいきなり足を折られた見張りの男。透を羽交い締めにし、体を擦り付けながら器用にスカートをめくり上げていく。
「さあ、あの時の続きをしようじゃないか、マイ・プリンセス」
「キャーーーーッ」
流石に悲鳴をあげる透。ブラウスのボタンがはじけ飛び、黒い下着が顕になってしまった。
「やめろーっ」
私の所為で透が……
「うーん。やっぱり口は塞がないほうがいいね。良い声だ」
そして、十六夜 が透の胸に手を伸ばした。
バチッ
ビビビビビビッ
十六夜 が触れた瞬間、衝撃音を伴って青白い光が放たれた。透の胸から。胸だけじゃない、お尻からもだ。
「ぐあああ」
「くっ」
不意を突かれた十六夜 が腕を抱えて後ずさる。
羽交い締めにしていた見張りの男は透から離れるとその場に倒れ込んだ。
「何っ、だっ、これっ、張りっ、付いっ、てっ、とれっ……、兄、貴、助、け……」
ビッ ビッ ビッ ビッ ビッ
私を突き飛ばした男が倒れた男に駆け寄っていくも、直ぐに飛び退く。
「うわっ、何だこれ……」
「兄、貴、早く、取っ、て、くれ」
「テメエら、僕の大切な人に……」
えっ、今、僕って……
「大丈夫? 凜愛姫」
「……うん。私は平気」
間違いない、凜愛姫って……
「つーっ、スタンガンとはねえ。まあ、触れなきゃいいだけだよね、触れなきゃ」
十六夜は手にしていたレンジ警棒を伸ばした。
「クソアマ、調子に乗るなーっ!」
シューッ
「うわっ、目が、目があああああっ、おへっ、おへっ」
殴りかかった十六夜 に透が何か吹き付けた。ううん、カチューシャから何かが吹き出したんだ。
「大丈夫か、葉月っ、テメエ、何しやがった」
「テメエこそ何しやがった」
透が鞄から何かを取り出す。警棒?
バチッ バチッ バチッ
じゃない?
「よせ、何する気だ」
「お前、突き飛ばしたよな、凜愛姫のこと」
「何のことだ。そんな奴、知らねえ。だから、止めろ」
「そうだったな。今のは忘れろ。いや、忘れさせてやる。子種諸消え失せろっ!」
ババッババババババババババババババ
「うがあああ、や、め……、ろ……」
「兄、貴、い、い、い、い」
男は気絶したみたいだ。でも透は暫く止めようとしなかった。
「バッテリー切れか」
そして、鞄から同じものを2本取り出す。
バチッ バチ バチ バチ バチ
「待たせたな、十六夜 、葉月。次はお前の番だ」
「止めろ、こんなことして只で済むと思うのか」
「はぁ? 正当防衛だろ、こんなの。 ううっ、無理矢理思い出した所為で、頭が……って事でも良いけどな?」
「頼む、止めてくれ。何が望みだ……、そうか、金か、金なら幾らでもやる。だから、助けてくれ」
「お前が……」
バチッ バチッ
「お前が邪魔しなければ、僕は凜愛姫のことを忘れなかった」
バチッ バチッ バチッ
「凜愛姫に悲しい思いをさせることも無かった」
バチッ バチ バチ バチ
「だから、お前だけは、絶対に許さないっ」
ババババババッバババババババババババッバババババババ
バッババババババババババババッバババババババババババ
「うごおおおおおおおおおおっ、や、め、め、め、やめ、て、く、れ、え、え、え、え」
「二度とこんな事出来ないように体で思い知れっ。欲望の源を焼き切ってやるーっ」
そして十六夜 も気絶した。見張りの男もいつの間にか気絶していた。
目の前には透が居る。私も痛みを堪えて立ち上がる。透が受けた仕打ちに比べればこんなのどうってこと無い。
それよりも、透に……、透を……
「待って、凜愛姫。これ、外さないと感電しちゃうよ?」
「透……、思い出したんだ」
「うん、全部思い出したよ……少なくとも君の名前と僕達の関係はね」
「透……」
うん、透だ。
「ただいま、凜愛姫。ちょっと苦しいんだけど」
「うん。もう離さない」
「わかったから。もう一人にしないから。凜愛姫は僕が守るからね」
「うん。私もずっと透と一緒に……」