08.17.二つのネックレス
「例の事件だけど、天照君と鏡音君が犯人を見つけてくれてね」
久々に呼び出された校長室……みたいなんだけど、何の事やら。
「例の動画も同じ犯人によるものだったみたいでね、君を更迭する理由もなくなったんだよ、姫神君」
「はあ……」
記憶を無くす前に関わってたことみたいだけど、正直どうでもいいかな。
「こいつは規則を破って一人であの部屋に。そんな奴にシステムを――」
「それはシステムを再起動するためだったと何度も説明していると思うのだけれど、ねえ、鏡音君」
この人が会長かあ。綺麗な人だな〜。
「そうですね、会長。記憶力やばいんじゃないですか? 坂木先生」
「鏡音君……。何れにせよ、姫神は記憶を失ってるんですよ? 重要なシステムを任せるだなんて無謀ですよ」
何か私の事嫌ってる?
「そんな規則はありましたかね? 坂木先生」
「規則はありませんが……」
「心因性記憶障害といったかな? 一般常識まで失ってしまったわけではないんだよね、姫神君」
「どうでしょうね。私に訊きますか? それ」
失ってるんだとしたら私に訊いても意味ないじゃない。
「確かにそうだね。じゃあ、姫神君の更迭を解いて風紀委員長に――」
「待って下さい校長、問題を解決したのは姫神ではなく鏡音なんですよ? 彼の功績はどうなってしまうんですか」
「しかしだね、問題を解決したからといってそのまま風紀委員長になれるというわけでも無いんじゃないかな? 彼は評議委員ではないんですからね」
「そうですが――」
「そうだ、鏡音君を推薦したのは坂木先生でしたよね」
「そうですとも。私が自信をもって推薦したんです!」
「では、坂木先生から何かご褒美を差し上げて下さい。もちろん、規則の範囲内でね」
「ご褒美って、そんな……」
「鏡音君もそれでいいかね?」
「俺はそれで構わないですよ」
「では、今から風紀委員長として頑張ってね、姫神君」
「はあ……」
テスラは引っ越ししたから、もうこっちのシステムは必要ないんだけどな。
「ソルへは私から連絡しておくわ。覚えていないのでしょう? 担当者の事」
そうか、お金が貰えるんだった。
「えっと、有難うございます、会長」
「会長……、ね。以前は神楽と呼んでくれていたのだけれど……」
「そうなんですか? じゃあ……、ありがとね、神楽♪」
「ふあぁっ……、じょ、冗談よ。会長でいいわ。この後の評議委員会も逃げずに出席するようにね、姫神さん」
「はい……」
逃げてたんだ、私。確かに行きたくない気はするけど、伊織も一緒みたいだからいっかー、週に一度ぐらいは。
「(記憶を失っても能力は失っていないみたいだね。君なんだろ? 事件のフェイク動画を流したのは)」
校長室を出たところで鏡音君がひそひそと話しかけてきた。
「(えっと、何のこと?)」
「(とぼけなくてもいいよ。ああも容易く侵入されてしまったら俺も負けを認めざるを得ないさ)」
バレてる? 侵入したのバレちゃってる? 彼が管理してったぽいよね、セキュリティ・システム。
「(さ、さあー、私にそんなこと出来るのかなー)」
「(まあいいさ。再び攻守交代だね)」
攻守交代? 再び? えっ、そんなことしてたの? 私達。
「透さん」
「うわー、武神さん」
びっくりしたー、いきなり後ろから話しかけないでよね。
「ごめん、驚かせてしまったかな」
「ううん、大丈夫。で、何?」
「……これを」
ちょっとした沈黙の後、武神さんが差し出したのはネックレスだった。
「これって、私と同じの……」
「いや、これが透さんのだよ」
ん? 武神さんが持ってるのが私の?
「じゃあ、これは?」
「それは伊織さんのじゃないかな」
「伊織の?」
伊織も同じの持ってたの? ……そういえば、伊織が着けてたんだった、これ。
「透さんが伊織さんにプレゼントしたんじゃないかな」
「私が伊織に?」
どういうこと?
「体育祭の時にぼくのポケットに紛れ込んでしまったみたいでね。何度か返そうと思ったんだけどいろいろと邪魔が入って……、いや、この期に及んで隠しても仕方ない、返せなかったんだ。伊織さんが透さんにプレゼントしたものだと思ったら返せなくて……」
「伊織は私に……、私は伊織に……」
何それ、恋人同士みたいじゃないっ!!
「軽蔑されても仕方が――」
「ありがとう、武神さん。また明日ね」
「あ、うん。また明日……」
確かめなきゃ、伊織に確かめなきゃ、私達のこと。