08.15.マッサージ
私と伊織、それに両親の合わせて四人は巨大なログハウス風の造りのホテルエントランスに居た。健保の講習会ということもあって、健保の所有する保養所での宿泊もセットになっているのだ。
「夕食、楽しみだね、透。まだ少し時間あるけど」
「コース料理って言ってたっけ。でも、もう待ちきれないかも」
「お風呂でも入って気を紛らすしか無いかな。今食べちゃったら食べられなくなっちゃうよ?」
「そうよね……。一緒に入る?」
「混浴じゃないし」
だよね。保養所なんだし。伊織と一緒に入りたかったんだけど、まぁ仕方ないか。何だろう、この気持ち。血は繋がってないけど、弟なのにね……
ともかく、一旦荷物を置いて、お風呂だ。
宿泊棟はエントランスとは別の建物になってるんだけど、偶々角の少し広めの部屋が割り当てられたみたいだった。
「へ〜、和室が2つあるんだ」
「じゃあ二人はそっちの部屋ね」
部屋には襖で仕切られた和室が2部屋。どちらもそんなに大きいわけじゃないから、二人ずつで丁度いいと思うけど、今日も伊織と二人なんだ。
「いいの、透」
「私は平気だよ? 実家でも一緒に寝たしね」
一緒の布団でねっ!
◇◇◇
しかし、今日は疲れたなぁ。
お風呂に入って、夕食終わったらもう寝るだけかなって思ってたんだけど……
「マッサージしてあげようか。体中痛いんじゃない?」
だって、伊織ったら。
「とか言ってぇ、お姉ちゃんのおっぱいとかお尻とか触りたいのかな? あの時みたいに」
「そんなこと……。じゃあいい、マッサージはしてあげない」
「冗談だって。おっぱいも触っていいからマッサージして〜。全身痛くてたまらないの〜」
「触らないから、そこは」
「はいはい。で、どうしてればいい?」
「じゃあ、俯せになって」
講習会の後、伊織に教えてもらって何とか滑れるようにはなったかな。急斜面は怖くて無理だけど、初心者コースなら何とか転ばずにはって程度にはね。
代償は全身の筋肉痛、なのかな。転んでぶつけた所為なのかな。分からないけど、もう全身痛くてどうしようもない。
「いっぱい転んだからね」
うん。転んで手を着く度に腕は痛くなるし、変な力が入って足はフラフラになるし……
「あ〜、気持ちいい〜」
「そのまま寝ちゃってもいいからね」
「うん。ありがと〜、伊織」
伊織が優しく全身を揉みほぐしてくれる。伊織に触れられてるってだけで気持ち良い。
でも俯せだからおっぱいは触れないか。お尻はしっかり触ってるけどね。ほんと全身痛いから、それも気持ちいいんだけど。
「(なあ、いいだろ? ちょっとだけ。ちょっとだけだからさ)」
「(ダメよ。二人に聞こえちゃうじゃない)」
「(静かにすれば大丈夫だって。それにあいつらだって今頃……)」
「(ああん、もう)」
声を殺してるつもりなんだろうけど、良くないよ、隣に子供が居るのにさ。しかも高校生だよ?
「透、お母さんたち……」
「気になる?」
「それは……、あんなの聞こえてきたら……」
和室だしね。襖なんて防音って意味では無いに等しいよね。
それより、『あいつらだって今頃』かあ。してたのかなあ、伊織と。
「どうしたの? 上を向いたら……、その……」
「おいで、伊織」
「わぁ、ちょっと」
「(大きな声出したら聞こえちゃうよ?)」
伊織を引き寄せ、耳元で囁く。
「(透、何を……)」
私に覆いかぶさったまま伊織も耳元で囁いてくる。ちょっと擽ったい。
「(私と伊織って、してたの? 父さんたちみたいに)」
「(するわけないよ……)」
「(そっか)」
そういえば、ドクターが『膜は無事だった』って言ってたんだっけ。
「(ねえ、キスはした?)」
「(……してない)」
「(じゃあ、こうやって抱き合ってただけ?)」
「(してないってば)」
なんだ、父さんの妄想か。エロ親父め。
「(綺麗な手だね、伊織。ちょっと触ってみる?)」
「(良くないよ、そんなの。そういうのはちゃんと記憶が戻ってから――)」
「(思い出すかも知れないよ?)」
なんてね。そんなことで思い出せたら簡単なんだけど。でも、伊織になら触らせてあげてもいいかな。血も繋がってないんだし。
「だめっ」
「(しー)」
そんなに拒否されるとちょっとショックなんだけどな……
「(だめだよ、透。もう寝るから離し――)」
「(もう少しだけ。もう少しだけでいいからこうしてて)」
ゲレンデも思ったんだけど、伊織にこうやって抱きしめられてると安心する。なんか懐かしい気も……
あったかくて、ほっとして、なんだか、眠くなってきて……
「(凜愛……姫)……」