08.13.初夢
「おやすみ、凜愛……姫」
「えっ、透?」
「……」
今、私のこと凜愛姫って。記憶が戻ったの?
「ねえ、透、起きてよ」
「う〜ん」
「思い出したの? 私のこと」
「凜愛姫……」
「うん、凜愛姫だよ、私、凜愛姫だよ」
「大……好き……だ……」
「私も、私も透のこと大好き」
「……」
「透?」
寝ちゃったのか。でも、今大好きって。透も私の事……
◇◇◇
「伊織」
「……」
「伊織」
「透……、大……好き……」
「おはよう、伊織」
伊織……
「伊織?」
「うん……、おはよう、透」
「でさあ、お姉ちゃんが大好きなのは解るんだけどね、こういうのは良くないかなって思うんだけど」
「こういうの?」
柔らかい……
「ごめん、私、いつの間にか……」
慌てて手をどける。
「健康な男の子だからね。興味があるのはわかるんだけど」
「男の子……」
「ん?」
「ううん、ほんとゴメンね。わざとじゃなくて、その……」
思い出してくれたのかと思ったのに。そうじゃ無かったんだ……
「うん。許してあげる。だからそんなに暗い顔しないのっ」
「うん」
焦っても仕方ないよね。
「そういえば、どんな夢見た? お姉ちゃん出てきた?」
「お、覚えてないかな」
い、言えないよ、透と……、なんて……
「そっか。私の所には伊織が出てきたけどね」
「私が?」
「そう。でも、エプロンドレス着て、プラチナブロンドのウィッグ付けてたかな。あと青いカラコンも。学園祭でそんな格好したんだっけ、確か。よっぽど印象に残ってたんだね、伊織の女装姿。すごーく可愛かったよ?」
それ、出会った時の私だよ。カラコン着けたのはあの時だけだもん……
「むぎゅ……ひはひほ、ほほふ」
何故か私のほっぺたを摘まんで来るんだけど……
「うーん、もっと女の子ぽかったかなあ、顔も」
間違いないかな、出会った頃の私で。
「よし、じいちゃんにお年玉もらいに行こうか」
「えっ、貰う気でいるの? 透、いっぱい稼いでるんだから寧ろあげる方なんじゃないの?」
「いいの、いいの。じいちゃんだって楽しみにしてるんだから。ほら、早くぅ」
「う、うん」
既に明かりが灯っている居間へと向かう。
「「明けましておめでとうございます」」
「はい、おめでとう」
おじいちゃんがお茶を入れてくれる。
元旦の朝は家長が湯を沸かし、お茶を入れるというこれまた謎のしきたりによるものらしい。おじいちゃんは朝からお酒を飲んでるみたいなんだけどね。
「婆さん、お年玉を」
「はい、透。伊織もどうぞ」
「ありがとう、じいちゃん、ばあちゃん」
「ありがとうございます」
透が言ってた通り、笑顔で渡してくれる。
「じゃあ、これは私達からじいちゃんとばあちゃんに」
私達って……
「孫からお年玉貰えるようになるとはな。長生きしたもんだな、婆さん」
「そうだね。ありがとね、二人共」
「それは――」
「中身は商品券だよ。お金だと使わないからね、じいちゃんもばあちゃんも」
ウィンクしてるけど、言ってくれれば私だって少しは出せたのに……