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01.01.始まりは勘違い

 お母さんに騙されて連れてこられた会社主催の年末パーティー。凄く居心地が悪い。騙されて、というのは言いすぎかもしれない。転職したばかりだから知らなかったんだろうけど、もう、何が『皆んな家族連れで来てるから平気』よ。せいぜい小学校低学年までじゃない。中学生にもなって親の会社のパーティに来てるのなんて、私だけなんじゃないの? しかも、こんな仮装までして気合いれちゃってさ……。バルーンアートのおじさんと私だけだよ。


 「あの娘、凜愛姫(りあら)と同じぐらいじゃない? 話しかけてみれば?」


 お母さんの視線を追った先、会場の隅っこにまるで気配を消しているかのようにしてその女の子は佇んでいた。背の高さは多分私と同じぐらい。飾り気のない白いシャツに、黒いデニムかな? 黒髪はボサボサで女の子らしさの欠片も感じない。おまけに、ずっと俯いてるし、たまに視線を上げたと思えば不安そうに辺りを見てる。


 「女の子……だよね」


 「どう見ても女の子じゃない。確かにもう少し気を使ったほうがいいとは思うけどね」


 「少しどころじゃないと思うけど」


 身なりに無頓着な点を除けば、確かに女の子かな。手足もすらりとしてるし、顔立ちも整ってるのに勿体ないよ。


 「お母さん少し挨拶にいってくるから、パーティー楽しんでてね」


 「えっ、うん……」


 それにしても、さっきから小さな子供達の視線が気になる。バルーンアートにしようかこっちにしようか悩んでるみたいな……。 このままここに居たら行列作られちゃうのかも。私は何の芸もできないよ?

 それに、放っておけないのよね、ああいうの。だから、思い切って声を掛けてみることにした。


 「折角のパーティーなんだから楽しまないと」


 「……」


 そんな私? みたいに周りを見ても貴女しかいないから……

 ほら、こっち見て。


 「紅葉坂(もみじざか) 凜愛姫(りあら)。あなたは?」


 「えっと」


 そうそう、貴女。私は貴女に話しかけてるの。

 私は、じーっと彼女の目を見つめる。前髪に隠れた瞳が小刻みに揺れて……、頬を赤らめて下を向いてしまった。人見知り……なのかな。だったら悪い事しちゃったかな。そうだよね、こんな隅っこに居たんだもん。話しかけられるの嫌だったよね。


 「ごめんね、私――」


 「ひ、姫神(ひめがみ) (とおる)……です」


 俯いたままだけど、さっきよりも顔が真っ赤だけど、小さくて聞き逃しちゃいそうな声だけど、彼女はそう答えてくれた。


 「(とおる)さんっていうんだ。多分、同じぐらいの歳よね?」


 「う、うん。中2ですけど」


 「同じだねっ。ねえ、(とおる)って呼んでもいい? 私のことも凜愛姫(りあら)って呼んで! 宜しくね、とおる。料理が美味しいって言うし、みんな家族で参加してるって言うから来てみたんだけどさぁ、中学生なんて私達だけじゃない。だいたい、皆んな仮装してきてるっていうから……」


 何だか嬉しくて、畳み掛けるように話し続けちゃった。これが(とおる)との出会い。

 寡黙だけど私の話はちゃんと聞いてくれるし、ときどき見せてくれる笑顔はすごーく女の子っぽい。私と目が合うと恥ずかしそうに顔を赤くして俯いちゃうんだけど、それでも一生懸命私の目を見ようとしてくれて。

 もう、なんて可愛いんだろう、(とおる)ったら。

 私、(とおる)みたいな娘、大好きなのかも。もっともっと(とおる)と一緒にいたい。そしたら自分の事も話してくれるかもしれないな。


 「そうだ、夏の旅行も行くの?」


 お母さんの会社では毎年社員旅行に行くんだとか。勿論、費用は全額会社持ちでって、そこはどうでもいいんだ。肝心なのは行き先、何とディズニーリゾートが含まれてたりするらしい。しかも、一日目の都内観光とその夜の懇親会が終われば後は自由行動。会社の人たちと関係なくディズニーリゾートを満喫できるんだとか!

 半年以上も先なんだけど、まだ警戒してるっぽい(とおる)を誘うには丁度いいかも。


 「いや、僕は……」


 「えー、一人で行っても詰まらないじゃない、一緒に行ってくれないかな?」


 嫌だなんて言わせないんだから。だって(とおる)ともっと仲良くなりたいもん。


 「一緒に?」


 「そう、二人で一緒に」


 「……うん、僕でよかったら」


 少し間があったけど、答えてくれた。一緒に行ってもいいって。


 「やった~。約束だよ? じゃあ、ランドを選んで……、えっ、何で? 泣かないで、(とおる)


 「これは……そうじゃなくて、嬉しくて。こんな風に誘ってもらったこと無いから。ランドだね、解った」


 ううっ、ダメ、可愛すぎる。そんな事で涙を流せるなんて、何てピュアなの!


 そういえば、何故ランドかって? お酒が好きなお母さんはシーを選ぶに決まってるから。折角だから(とおる)と二人きりで楽しみたい。


 「あっ、ごめん。ご家族はいいの?」


 でも、(とおる)はそれでいいのかな。家族と一緒に行くんだから、一緒に過ごしたいのかも。


 「父さんもシーを選ぶんじゃないかな。見ての通りの酒好きだから」


 (とおる)の指差した方を見ると、まだ始まったばかりなのにすっかり出来上がった男性がお母さんと話してた。まあ、うちのお母さんもすっかり出来上がっちゃってるみたいなんだけどね。


 「お父さんだけ?」


 「うん」


 「そっか。隣りにいるの、私のお母さん。うちはお母さんだけなんだ。似てるね、私達」


 そして、親同士も何だかいい感じに見えてしまうのだけど……まあ、気の所為かな。

 それにしても、さっきから(とおる)が私のことを見つめてるんだけど……、ああ、これかあ。


 「これは、カラコンよ。こっちもウィッグ。バカみたいよね、こんなに気合入れちゃって」


 「そんなこと……ない。とっても似合ってる」


 「本当?」


 「うん、凄く可愛い……と思う」


 何、何、何なの、(とおる)って。そんなふうに照れながら言われたらこっちまで恥ずかしくなっちゃうよ。ううー、可愛い。抱きしめちゃいたいよ。


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