今田桧璃、「雨宮桧璃」になる。
男爵家編から学園編の手前までです。
もう少し突っ走ります。
クズ貴族は、想像以上にヤバかった。
あんな貴族ばかりでは無いとは思う。
それでも、公爵・侯爵・辺境伯・伯爵・子爵・男爵の内、クズ貴族は男爵で、男爵は貴族位の中だ1番低い位だ。つまり、クズ男爵以上に贅沢な暮らしをして育った貴族ばかりなのだ。
最早、貴族に一切の希望が持てない。
そこまで思ってしまうようなことを、あの男爵はしでかしてくれた。
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「此処がそうか。二年振りだな」
私の義理の両親(仮)ことクズ男爵は、孤児院に着くなりそう言って、偶々その場に居合わせてしまった私をジロジロと舐めるように見回した。
「ようこそお越しくださいました。お久しぶりでございます。この度はどういったご用件で御座いましょうか?」
すると、訪問者にいち早く気づいた、子供を率先して売り捌いている奴らの主犯格と言えるであろうシスターが出てきて、気持ち悪い猫撫で声と揉み手でそう言った。
「ああ、久しいな、二年振りだったか。先日、去年貰ったアレが壊れてしまったんで、代わりを見繕って欲しくて来たんだ。丁度、其処にいるアイツなんかはどうだ?まだ買い手はいないだろう?私が貰い受けよう」
シスターに答えつつ、男爵は私を指差した。分かりやすく簡潔に、私の前にも子供を引き取り、虐待の末に殺した事を暴露された。
内心涙目な私に向けられた瞳には歪んだ嗜虐心が滲んでおり、無意識に身震いしてしまう。礼儀である礼が出来ずに、「ヒッ」と小さな悲鳴を上げつつ尻餅を着いてしまった。
それはどうやら、男爵の逆鱗に触れる行動だったらしい。
「おい、貴様!無礼であろう‼︎貴族に対する最低限の礼儀も出来んのか‼︎‼︎よし、おまえは家でこき使ってやる!折角可愛がってやろうと思ったのに、失礼なガキだ!
其処のシスター、コイツは貰っていくぞ。養子縁組の方は頼んだから、いつも通りにやっておいてくれ。」
一人でいきなり怒りだすと、シスターに言付けて勝手に帰って行った。
「お前、なんてことしてくれたんだ‼︎折角大金毟り取ってやろうと思ったのに、あろう事かタダで貰われるだなんて!」
男爵が帰ると、シスターは私を殴り出した。数年おきに生贄を差し出す代わりとして、大量の金銭を貰っていたのに、今回は私のせいで一銭も貰えなかった事に腹を立てているようだ。
こうなると、私はうわ言のように「ごめんなさい」と、恐怖で震えるような演技をつけて言い続ける。様々な実験を行った結果、コレが一番殴るのを早く終をらせる方法だったのだ。
きっと、優越感と嗜虐心が満たされるからだと予想している。自分より弱い者が必死に媚び諂ってくる。それは、幼少期に劣等感を抱いて育った者にとって、何よりも心地良い事なのだろう。
事実、暴行はものの数分で終わった。
その日から3日後。私は、「今田桧璃」から「雨宮桧璃」になった。
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男爵家からの扱いは、今までとあまり変わらなかった。
大量の家事をこなし、時に義理の両親や3歳年上の義兄、1歳年上の義姉にちょっとした意地悪をされ、時に鞭打ちや軽い火炙り、食事を抜く等の虐待を受ける。
変わったのは、痕の残らない様に行われていた暴行が、痕をわざと残すようになった程度だ。
それも、この世界にある魔法で解決できている。
火・水・風・地・光・闇・無の7属性の内、せいぜい多くても3属性しか適正がない人が殆どの中、ヒロインには全ての属性に高い適正が備わっていた。光や闇、無の属性は非常に珍しい。
3つのうちの一つの属性でも、国に50人はいればいい方だ。同時にその内の2属性を持っている人物は、最早英雄扱いを受ける。
3つの属性だけで無く、全ての属性に適正のある人物は現在存在しない。
所謂、主人公補正というヤツである。
家事は、火・水・風の魔法を使用して時短を図った。お仕置きとして家から追い出されたら、雨風を凌ぐために地魔法で小さなかまくらを作った。痕が残りそうな怪我には光魔法で回復をかけた。ちょっとした報復として、二日酔いや馬車酔いが長引くデバフを闇魔法でかけた。大量の買い出しで、布の袋に無属性魔法で空間を拡張したり、消した傷の痕を幻で徐々に治ったように見せ、誤魔化したりもした。
そんなこんなで、孤児院の頃より若干悪化した環境にも、魔法を使う事で、あしらい方を含めて一年も掛からずに慣れていった。
そして、ゲームの舞台である、貴族の通う学園に入学する年齢の、16歳になった。
ありがとうございました。
次回は、入学式の前日のお話です。
よろしくお願いします。