風間桧璃、学園へ復帰する。
一気に半年ほどの時を経過させました。
勉強してたり、トラウマを軽くしたり、といった場面は、今の自分ではあっという間に詰まりそうだと感じましたので。
私は、風間公爵夫妻と面会をした直後に、風間公爵家の孫として引き取られた。
そして、環境に慣れるという名分や、寮の部屋替えなどの理由から、入学早々に1学期は全て休むことになった。
休暇期間に関しては、4月から8月いっぱいの5ヶ月間で、公爵令嬢が身につけるべき作法や知識を詰め込むのは、かなり大変だった、とだけ言っておこう。
元々、男爵家で多少の礼儀作法を習っていたとはいえ、あくまでも簡単なものでしかなかったし、それこそ教え方も雑だったので、あまり役には立たなかったように感じた。
無属性魔法で思考を加速できるようなチート持ちのヒロインであったことを、これほどまでに感謝したのは、それこそ生存に必死だった頃以来だ。まあ、まだ解放から4ヶ月しか経ってないけど。
そして、今日は学園の2学期が始まる日だ。
「憂鬱だわ…」
馴染みつつあるお嬢様言葉で、起き抜けにふと弱音をこぼす。
昔なら、絶対に弱音を吐こうと思わなかったが、今の私は祖父母の手厚い出迎えなどその他諸々のおかげで、かなり一般的な感性の持ち主になれた…と思う。
ここへ来た当初は、自分が食事を作らないと味見と称してまともな物を口にすることが出来ず、一時期は餓死しかけた経験が尾を引いていたので、料理人さん達の仕事を取るという暴挙をしてしまった。以前の生活習慣から、料理人さんだけでなく、屋敷の掃除をしたり、雑草の処理をしたりと、使用人さん達や庭師さん達の仕事まで奪ってしまっていた。
一応その行動は、祖母から即座に注意され、割とすぐになくすことが出来た。
でも、未だにじっと世話だけされるのに離れていない。始めは、まるで石膏像のように、ガッチガチに固まっていた。
今では、すっかり侍女さん達に慣れ、弱音を吐いても良いと思えるまでになっている。
「ねえ、エミー。私、学園でもしっかりやっていけるかしら?何か失敗してしまったら、どうしましょう」
弱音を吐いた後に呼んだ、今私の身支度を整えてくれている、私専属の侍女、エミーに聞く。
「お嬢様…。ご心配なさらなくても、お嬢様はこの公爵家自慢の立派な御令嬢です。あれだけキツキツなスケジュールだった教育を難なく、完璧にこなし、家庭教師も驚いておりましたでしょう?失敗なんて、する筈がございません」
私の心配を拭い去るように、エミーが力強く頷く。
私が心配しているのは、あくまでマナーではなく、本来のストーリーから外してしまった今後の事。
ストーリーに流されて、なあなあで身の丈に合わない王妃になってしまってはダメだと思い、強制的に本来の軸からずらした事自体に、後悔は無い。
きっと、この一連の行動で、悪役令嬢達には私が記憶持ちであるとバレている。
そして、予測が不可能になった世界で、自分の未来が最悪にならないように、元凶である私をどうにかしようと算段を立てている筈。一つでも判断を誤れば、公爵家諸共没落や死刑があり得る程に、強力で強引な手を使って。
そしたら、私は恩を仇で返した不義理者として、私を愛してくれたこの屋敷の人達に罵倒され、恨まれ、呪詛の言葉を投げつけられる。
今の私は、それが何よりも恐ろしい。
でも、私を信頼してくれる存在がいると実感できるだけで、その心配や恐怖を覆い隠す程のが勇気湧いた。
「ありがとう、エミー。貴女に会えて、本当に良かったわ」
「…変なお嬢様。その言い方だと、私はお嬢様と一緒に学園へ行くというのに、まるで二度と会えなくなってしまうかのようです」
首を軽く傾げ、エミーが不思議そうに言う。
「…そうね。学園でも、一緒にいられるものね。この言い方はおかしかったわね」
私は、心の内にある『たとえ道を違えても、この屋敷の人たちには嫌われたくない』という浅ましい願いを隠し、化粧台の鏡越しにエミーへ微笑んだ。
ありがとうございました。




