国王陛下、話をする。雨宮桧璃、食事に歓喜する。
桧璃ちゃん、やっとお食事にたどり着けました!
国王side
桧璃嬢に雨宮男爵の今後の処遇を告げると、彼女は凪いだ瞳で、淡々とそれを事実として受け止めていたようだった。
取り乱す様子がないことから、桧璃嬢がストックホルム症候群といった精神疾患に罹っていなかった事に喜ぶと同時に、安堵が見られないことに不安を抱いた。
「桧璃嬢、もし公爵家で同じような目に遭ったら、遠慮なく相談するように。手紙でも構わない。君からの連絡は、最優先で私に届くようにしておこう。他に、何か希望や心配事はあるかい?」
様々な説明を終え、最後にそう聞いてみる。調べられた彼女の情報から、遠慮されてしまうだろうと分かってはいるが、それでも尚、感情の乏しい瞳から情報が得られない分聞かずにはいられない。
「ありがたい申し出では有ります。ですが、申し訳ございません。既にたくさんの事をして頂いているのです、これ以上願い事をするわけにはいきません。御心だけ、頂戴させていただきます」
予想通り、桧璃嬢は申し訳なさを変化の乏しい表情から器用に出しつつ、丁寧な口調で断りを入れてきた。
「そう、か。ならば、今回はそうしよう。だが、何か困ったことがあったなら、どんな些細なことせも遠慮せずに話しなさい」
実の愛息子にすら行ったことのない台詞だが、幼馴染みとそっくりな容姿の彼女だからか、自然と口をついて出ていた。
娘がいたら、こんな感じだろうか、などと考えつつ、そっと桧璃嬢の頭を撫で、優しく髪を梳く。
頭を触った時に長年の虐待の影響か、身体に僅かな硬直が見られたが、嫌がるでもなく、されるがままになっていた。
それだけで、桧璃嬢の苦労を懐って申し訳なさを抱き、同時に、拒絶されなかったことを歓喜した。
ーーーーー
桧璃side
(お腹すいたー!目の前に食べ物があるのに食べられないなんて、どんな拷問!?)
なんて事を考えつつ、上の空で国王の話を聞く。
内容がなかなか頭に入ってこないから話に対する反応が非常に薄くなってしまったが、それでも一応聞いてはいたので「他にして欲しいことは?」という質問には自然に答えられた。
が、そこで空腹がピークに到達してしまい、腹の虫を抑えることに集中力が全て持っていかれた。
(うぅ……。ここで鳴るのは流石にまずいー!なんか知らんけど、王様しんみりしてるっぽいし、なんとも言えない雰囲気になるのは勘弁!)
必死に、なけなしの魔力をも使って音を出させない様にしていると、急に頭の上に国王のものと思われる手が置かれた。
(うわっ!ビックリしたー。いきなりはやめて欲しかったんだけど!ついビクッってなちゃったじゃんか!)
思わず体を軽く跳ねさせたが、特に怒られることもなく、ホッと一息ついた。
それを見た国王の目元に光を反射するものがあった気がしたが、空腹に気を取られすぎた桧璃は気づくことなくスルーした。「なんか、余計にしんみりし出した様な…?」とは思ったが。
そのまま、何故か涙ぐんでいる国王に頭を撫でられること数分。
「陛下、そろそろ公務を再開していただかなければ期限に間に合わなくなってしまいます。執務室にお戻りを」
と、申し訳なさそうに声をかけてきた、国王よりやや年上に見えるロマンスグレーなおじさまにより、奇妙な頭撫でタイムは終了した。
名残惜しそうに手を私の頭から退けた国王は、「夕食は一緒に摂ろう」と約束を取り付け、こちらを数回振り返りながら退室して行った。
精神的疲労からこっそり一度ため息をつき、瞬き一つで気分を切り替える。そして、ようやく「よし」をもらったペットの様に、一心不乱にたまご粥を掻き込み始めた。
その時の桧璃の口元は、だらしない程に緩んでいた。
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