Ⅴ
それぞれの大陸は行けないようになっているのだが、ひとつだけ、例外がある。
人間の住む大陸オメガから幻の大陸と呼ばれる《シュファル》は、ひとつの【扉】で繋がっている。
その【扉】を管理するのが〈扉の一族〉と言われているチヅキの一族だ。
神ではない存在に、その役目を与えられた一族は、【扉】が何のために存在しているのか、理由も知っている。
おそらく、他の人間よりも、天使よりも、知っている一族だろう。
実際、ミカエルたちは〈扉の一族〉のことも、【扉】の存在も知らない。
「────ここだよ」
ミカエルを巻き、奥深い森の中にチヅキはウリエルを案内した。
「これが・・・」
視線の先には【扉】がある。
漆黒に覆われた扉。
「そう、あんたの目的に繋がる扉だよ」
扉を見上げているウリエルにチヅキが答える。
チヅキが答え終わるのとほぼ同時に「そこまでだ、ウリエル」と二人の頭上から声が響く。
「やはり、お前たちか」
振り向いたチヅキに対し、振り向くこともせずに、ウリエルは言う。おそらく、夜になっているのも、振り向かない理由だろう。
「どうした? 空を見たらどうだ? 今日は満月……目覚めの時だ」
振り向かないウリエルにミカエルは言葉を続ける。
「あの時、わたしに傷をつけたあいつを出せ! その後で殺してやるウリエル!!」
ミカエルのその言葉にウリエルは振り向き、同時にミカエルは肩に掛かっていた布を取る。
ミカエルが布を取るのをウリエルは見ていない。彼が見ているのは満月だ。その満月を見て、ウリエルに変化が訪れる。
「さあ、出てこい傷をつけし者よ」
「ウリエル……」
チヅキはウリエルを見る。彼は一族故にウリエルの秘密を知っているのだ。