Ⅱ
追ってを巻いた青年は森の中をひたすら歩いていた。
集落があった場所より更に離れた森の中なので、おそらく、人間は住んでいないだろうと思いながら歩いていた青年の耳に水の音が届く。
音の方向に歩いて行くと、森の中に湖があり、その真ん中らへんに人間が水浴びしている姿があった。
(こんな場所で水浴び?)
人間はいないと思っていた青年は少し驚き、それが体にも伝わったのだろう、草を踏んだ音が響き、水浴びをしていた人間が勢いよく振り向いた。
時間にして数瞬だろう、互いの視線が交差する。
「────誰だ?」
「俺は・・・・・・熾天使・ウリエル」
問いかけに青年は名を告げる。
「ふ~ん。じゃあ、《ロゴス》から来たんだ。」
「そうだ。お前の名前は?」
水浴びからあがった少年に、ウリエルが名前を聞くと「チヅキ」と返ってくる。
「チヅキ、どうしてここで水浴びをしていた?」
服を着出した、チヅキと名乗った少年に近付きながら、ウリエルは言う。
はっきり言って、二人がいる場所はとてもじゃないが、人が通れるとは言い難い場所だ。通れるには通れるが、好んで通ろうとは思わない。
「だって、ここの近くに住んでるから」
「ここの? 集落とは離れてか?」
「そう。ちょっとした事情で」
だから、仕方ないんだよね~、と話すチヅキ。
ウリエルとしては理由を聞きたいが、気配を感じたので、聞くのをやめる。
「その事情は後にして、とりあえず、今はここから去れ」
「なんで?」
彼が疑問に思うのも無理はない。
「────そういうところは、天使のままだな、ウリエル」
二人の頭上から言葉と共に一人の青年が現れる。
右肩から手首まで隠れるように布がかけられている青年の姿を見て、ウリエルは「ミカエル・・・」と呟く。
「天使のままというのは酷いね。これでも天使なんだがな」
「お前は《ロゴス》を追われた身だ。すでに天使ではない」
侮蔑を込める──実際、そうなのだろう── ようにミカエルはウリエルに言う。
「それでも俺は天使さ。天使達はどうした?」
先程、自分を見つけた時の気配は、ミカエルの他に彼の部下たちの気配もあった。だが今はミカエルしかいない。
「他の七大天使に使いを出した」
「なるほど。でも、自分の邪魔をするのは────・・・」
そこで一旦、言葉を区切り、ウリエルはミカエルの方を振り向きながら、言葉を発する。
「同じ四大熾天使だろう?」
────と。