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燦々々  作者: 原田昌鳴
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7/14

【7】

 翌日、笹山くんと会うのが怖かったので、自分はレジ周辺をうろうろすることをやめ、業務に忠実になり、きっちりと牛乳を補充した。それを八時まで無言でこなし、レジに近づき難いという理由からビールは帰りがけのコンビニで買おうと決めて、ロッカーでジャケットを着込んで、逃げるように守衛室の前までやって来た。そこで退店時間を記入する際、白髪だらけの守衛のおっさんが手を擦り合わせ、にこにこしながらこう言った。

「ひょーっ、今夜も寒いねぇ。熱燗をこう、くいっといきたいねぇ」

 なるほど。そりゃあいい。自分は居酒屋に寄って帰ろうと思った。ビールなんてしみったれた冷や酒は体に毒だ。そうだ、冬だ、男はやっぱり熱燗だ。そう心に決めた時、脳裏にデブの姿が浮かんだ。勘定係、松本である。

 自分は守衛のおっさんに訊いた。

「おじさん、仕事何時に終わるのよ」

「十時半、俺はいっつも十時半まで。体にくるったらありゃしねぇよ」

 守衛のおっさんは所々抜けた歯を見せ、豪快に笑った。すでに酔っぱらっているかのようであった。

 しょうがない。やはり今日も安いビールである。厚い扉を開くと、昨日よりも一層冷たい北風が、自分の惨めさを笑っているかのように不気味な音で渦を巻いていた。ああ、早く酔いたい。

 昨日と同様に全速力で走り始めると、背後から自分のものとは違う全速力の足音が聞こえる。カッカッカッとアスファルトを鳴らす音が。その足音は自分からまったく離れず、どうも自分はあとをつけられているようである。勇気を出してちらりと振り返ると、そこにはなんと、自分と同じく全速力で走る者がいるのである。それも女。ああ、恐ろしい。言い知れぬ恐怖を感じた自分は、さらにスピードを上げた。するとどうだろう、背後の女は軽々と自分に追いつき横に並んだのである。すごい速さである。そして女は超音波のような高い声で叫ぶのである。

「岡田さんっ!」

 自分は驚愕した。

「ささ、笹山くんっ!」

 そのものすごい速さの韋駄天女は、なんと笹山くんだったのである。

「なな、なにやってんだっ?」

「わたし、今日はバイト休みなんですっ!」

「じゃ、じゃなんでいるんだっ?」

「岡田さんっ!」

「なな、なにっ?」

「とりあえず止まりませんかっ?」

 笹山くんは自分の右腕を押さえ、速度を緩めた。自分はすぐさま膝に両手をついて、ぜぇぜぇと荒く息を吐いた。笹山くんは若く活発なようで、やはり自分よりも呼吸が荒くなく、少女らしい柔らかい呼吸をしていた。

「昨日、いなかったじゃないですか。待ってるって言ってたのに……」

 全速力の時は気づかなかったが、笹山くんはジーンズをブーツの中に入れ、しかも風の抵抗を受けやすいようにコートの襟を立てており、とても走りにくい格好であったにもかかわらず、速かった。いや、最初はそのような印象を持ったものの、そのファッションはとても大人っぽく、まるで高校生には見えない。エプロンをしてレジに立っている笹山くんとはほど遠いのである。しかも今日の唇ときたら、赤いうえにテカテカ光っていて、色っぽさこの上ない。自分はすぐさまこう言った。

「熱燗でもこう、くいっといこうじゃないか、笹山くん」

 この唐突な言葉に笹山くんは「わたし高校生ですよ?」と言った。「そんなこと知るか」と自分は言った。

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