第1話
俺が『IO』でやってるこの何でも屋だが、別にこれで稼ごうと思ってるわけじゃない。依頼自体そんなに無いし、稼ぐならフィールド狩りをしてクエストをこなし、そのドロップアイテムを売った方が遥かに金になる。
じゃあ何故なのか。
それは簡単な話、暇つぶしである。
普通はLv上げが忙しいとか、毎日ダンジョンに潜って装備強化とかやることが多いもんだが、サービス開始されたばかりのこのゲームは、カンストLvが今のところ50Lvなのだ。
50Lvは一ヶ月ほどプレイすれば可能だし、実際俺はサービス開始から三週間程でカンストしている。最速プレイヤーは二週間だったか。
そんなこんなで今このゲームはアップデート待ち。あまりやることがなく、各々が適当に毎日を過ごしている状況だ。
露店を開いてから二十分が経とうとした時だった。転移門を行き交うプレイヤーたちを眺めていると、一人の女性PCが転移して来た。
身にまとう装備からすぐに始めたてのプレイヤーだとわかる。新規さん一人ご案内だ。
――『IO』は国産のVRMMOではかなり勢いがあり、発売してから三ヶ月経つ今でもそれは衰えていない。むしろ入荷待ちが出てるくらいで、毎日新規プレイヤーが数多く入って来ている。おそらく彼女も入荷を待っていた一人だろう。
ブロンドのセミロングに澄んだブルーの目。身長は150cmくらいか、かなり小柄だ。――下手したら小学生か?――他のオンラインゲームにもよくあるが、このゲームも例に漏れず、キャラクターメイキング時にいくつかの種族が選べる。今は獣人とエルフが人気なのだが、彼女はシンプルなヒューマンのようだ。
その場に立ち尽くし、初めての風景を珍しそうに周りをキョロキョロしている彼女を見ていたら、ふと目が合う。俺は見過ぎるのも失礼だと思い、すぐに視線を人混みに戻した。
特に何か起こるわけでもなく、視線を定めずにぼーっとしていたら、閉店の時間が近くなってきた。
「そろそろか……」
メニューウィンドウを開き現在の時刻を見ると、19:28と表示されていた。あと二分で本日は店じまいだ。まあ何かあることの方が珍しいし、周りもあまり俺には関わろうとしない。依頼の無いところまでがいつも通りだ。
――今日も依頼は無しか――と思っていたその矢先の事。
「あの、こんばんは。少しいいでしょうか?」
一瞬自分が話しかけられてるかわからなかったが、女性の声を聞きウィンドウから顔を上げる。すると目の前には、さっき目が合った初心者プレイヤーがしゃがみ込んでいた。
「よろしければ、私の依頼を受けていただけませんか?」
俺と目を合わせたそいつは、笑顔で言った。