プロローグ
よろしくお願いします!
時刻は午後6時57分。
時計を見た俺は読んでいた本に栞を挿み、部屋を出て玄関のドアの鍵が閉まってることを確認し、すぐに部屋に戻った。
そして机の上にあるPCのスリープモードを解除。PCの隣りに置いてある無機質なヘッドギアを着け、ベッドに仰向けに寝転がった。――ここ最近の俺の日課だ。
「『ImaginaryOnline』、起動。」
一連の準備が終わり、目を閉じながら起動トリガーを呟く。その瞬間、俺の意識は現実から仮想現実へと切り替わった。
――『ImaginaryOnline』。通称〈IO〉。
三ヶ月ほど前に正式サービスを開始した今俺がハマっているゲームで、様々なアビリティとステータス振り分けにより、オリジナリティのあるプレイスタイルができるのが売りのゲームだ。サービス開始早々にレベルをカンストさせた俺は、毎日だいたい同じ時間にログインし、ゲーム内であることをしている。
――ゆっくり目を開けると、俺にとって見慣れた光景が映る。
ここは始まりの街ウェンディリア。その中央広場だ。
まず目に入るのは大きい噴水、続いて辺りに並び建った西洋の街並みを連想させる石造りの建物。そして噴水周りの広場にたくさんのプレイヤー。
〈IO〉に初めてログインするプレイヤーが一番最初に目にする風景だ。――まあ俺の場合は初心者ってわけじゃなく、ログアウトする時はウェンディリアに戻って来ているだけだなんだが。
俺は目的地まで真っ直ぐに向かう。人混みを避けつつ、噴水から少し離れた中央広場の隅まで歩いて腰を降ろした。ここが俺にとっていつもの場所。
この中央広場の噴水の周りには、他にも多くの人が自分の露店を開いていて、露店巡りをするプレイヤーと呼びかけや交渉をする店主のプレイヤーでにぎわっている。中には看板だけで無人の露店も多くあるが。
『IO』の露店は本人が居らずとも大丈夫な仕様で、売りたいものを露店に出して自分は他のことをできるシステムだ。店に居れば呼びかけや素早い交渉ができるというメリットがある。だがオフライン中に露店を出せないこのゲームで、この露店放置の仕様はプレイヤーから好評である。
特に変わり映えしない街の様子を見ながら、〈メニューウィンドウ〉下部にある〈露店販売〉をタップ。そして開かれたアイテム欄から〈スモールヒールポーション〉を一つ選択し、価格を設定する。最後に、看板に書く文字を慣れた手つきで入力していく。これが俺の『IO』での日課。少し風変わりな露店を出すこと。売るのはもちろんポーションじゃないがね。
看板に書かれた文字は――〈依頼募集中〉
――さて、今日は誰か来るといいんだが。
俺のゲームでの名前は〈IRoy〉。『IO』でも評判の――自分で思っているだけだ――【何でも屋】だ。