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1 魔王軍、辞めます

新作です。

まだ主人公の名前決まってないので、

3、4話あたりで出せればと思います。

「魔王様ぁぁぁぁああああああああああああああ!!」


「な、なんだっ!?」


 驚く魔王様を他所に、俺は魔王様のすぐ近くまで詰め寄る。


 俺は産まれた時からずっと魔王様の部下で、普通ならこんな無礼していいわけがないのだが今はそんなことさえどうだっていい。


 そんなことよりも重要な案件が今まさに俺の目の前まで迫ってきているのだ。


「魔王軍、辞めさせてください!!」


「はぁ!?」


 その重要な案件のためには、まず今自分が所属している魔王軍を脱退しなければならない。


 もちろんこれまでずっと共に戦ってきた仲間が脱退するなんて信じられない魔王様は目を見開いてこちらを見てきているが、これでも悩んだ末に決めたことだ。


 今更何を言われたところで揺らぐような柔な決意ではない。


「ち、ちょっと落ち着いてくれ!」


「俺は落ち着いてます!!」


 魔王様の部屋に入ってきた時から、いや、もっとずっと前から俺は落ち着きまくっている。


 むしろ落ち着いていないのは魔王様の方だろう。


 額には汗が浮かんでいて、その手はどこか空を彷徨っている。


 そしてそんな魔王様に釣られるようにして、暗い部屋を照らす蝋燭の火もゆらゆらと揺れていた。


「ま、まずどうして魔王軍を辞めたいのか聞いてもいいか?」


 しかしそんな中でも魔王様は自分のやるべきことを思い出したのか、ゆっくりと俺にそう聞いてくる。


 確かにこれまでの俺の魔王軍での活躍を考えれば、このまま手放してしまうのは惜しいのだろう。


 理由を聞いていない状態であるなら、尚更だ。


「…………」


 しかし、俺にも事情というものはある。


 別に言えないという訳では無いのだが、何というか恥ずかしい。


 これまで経験したことのないことだからこそ、どこか照れくさいのだ。


「……す、好きな人が出来たんです!!!」


 だがこれまでずっと仕えてきた魔王様に対し、嘘を吐く訳にもいかないので大人しく正直な理由を話すことにした。


「す、好きな人……だと?」


「はい! 好きな人です!」


 そうなのだ。


 俺も今年で二十歳。


 それなのに色恋沙汰に関しては親戚が持ってきてくれる縁談話以外縁の無かった俺。


 そんな俺が遂に、一人の異性に心を奪われてしまったのである。


「そ、そうか……好きな人か……」


 俺の言葉に難しそうに頷く魔王様。


 というのも、魔王様も俺のこれまでの色恋云々に関してはよく知っているのだ。


 実は縁談の内の一つには魔王様の娘さんも含まれていて、縁談としては破格の条件を蹴ってしまうような俺のことを陰ながら心配してくれていたらしい。


 そんな俺が異性を好きになったというのだから、魔王様も驚いているのだろう。


「……ん?」


 するとその時、魔王様がふと不思議そうな顔を浮かべながら首をひねる。


「好きな人が出来たとして……どうして魔王軍を抜けなくてはならんのだ? 仮に付き合い始めて結婚したとしても、そのまま魔王軍として働けばいいのではないか? あ、それか妻子がいるのに危険なことは出来ないというのなら、別に戦いに出なくていいようにくらいは手配するぞ?」


「……それじゃあダメなんです」


「な、なぜだ?」


 確かに、魔王様の言うことはもっともだ。


 しかも一部下でしかない俺にそこまで譲歩してくれるあたり、魔王様の優しさが窺える。


 でも、それじゃダメなんだ……!


 魔王様の言う譲歩は『俺の好きな人が魔族である』という条件下においては効果を持つだろう。


 でも俺には効果がない、なぜなら――




「――――俺が好きになったのは『人間』なんです!!」




「に、人間……!?」


 やはり魔王様としては魔族である部下が人間のことを好きになったという言葉に驚きを隠せないようだ。


 だが、これが事実。


 だからこそ俺は魔王軍として働くわけにはいかないし、辞めようと思っているのだ。


 そもそも俺が彼女と出会ったのはつい先日。


 俺は偵察の任務を任されて人間の都市にやって来ていた。


 そこで偶然見かけたのが彼女だったのだ。


 一目惚れ、という表現が正しいだろう。


 都市伝説か何かかと思っていたその言葉だったが、自分の身で体験してしまうと、中々に興味深いものだ。


「ど、どうして人間なのだ? 魔族にも一杯可愛い女はいるだろう?」


 慌てながら俺に言ってくる魔王様。


 だがそんなこと、二十年魔族をやっている俺でも知っている。


「魔族じゃ、ダメなんです」


 もし仮に、俺に好きな人が出来ていなかったとしても、俺が魔族の誰かを好きになるとは思えない。


 だって、魔族の女って言ったら……


「ビッチが多いじゃないですか……!!」


「な……っ」


 魔王様は、俺の言葉にあんぐりと口を開けて呆けている。


 だが俺の言ったことに嘘偽りはない。


 魔族の女にはビッチが多い。


 それは性格的な問題とか、環境的な問題とかそういうんじゃない。


 種族的な問題なのだ。


 知られているかどうかは分からないが、魔族の女と言ったらサキュバスが代表的だろう。


 俺の所属する魔族軍にもサキュバスのみで構成されている隊があるほどで、その数はかなり多い。


 サキュバスは夢を司る魔族で、その容姿は皆かなり良い。


 だがビッチ。


 周りの男の魔族がどう言おうが、俺はビッチな相手を好きになれるとは思わない。


「俺は、清楚系が良いんです……!!」


 もちろん魔族にも綺麗かつお淑やか、ビッチじゃない人だって沢山いる。


 魔王様の奥さんは良い人だし、良くしてもらっている。


 ただ、もう俺の中で『魔族の女=ビッチ』という方程式が成り立ってしまっているのだ。


 それは長年の積み重ねで、今更そんじょそこらの説得で変わるとも思えない。


「だから好きになったのが人間、と」


 唸るようにして魔王様が呟き、俺は頷く。


「だが、その人間の女がビッチじゃないとは限らないだろう?」


「……」


 俺は魔王様の言葉に黙る。


 確かに魔王様の言うとおり、俺は彼女のことをほとんど知らない。


「彼女は、ビッチじゃありません」


 でも俺はそう断言した。


 彼女について、唯一知っていることがあったから。


 それが俺に『彼女はビッチなんかじゃない、清楚系だ』と教えてくれているのだ。


「彼女は――」


 俺の好きになった人は――




「――――聖女様です」


【聖女の回復魔法がどう見ても俺の劣化版な件について。】

http://ncode.syosetu.com/n7298cu/

連載してます。


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