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---78--- ラナ王国 最悪な目覚め(幕間2)

 数分間後、広場に冒険者組合所属の受付嬢と椅子がやって来た。

 持ってこられた椅子は、背凭れ部分がハートマークに模られてた、木で出来たピーコックチェアーだ。

 あまり可愛い要素は無いがこの国ではこれが精一杯の可愛い椅子だ。

 その椅子を石碑前に設置し、衛兵総纏め役のディデン・ラッドがその場で何処に向けるでもなく大声で叫ぶ。


「我等の偉大なる魔導王、リンテ・ラナ国王様、準備が出来ました。お戻りください」


 数秒後広場中央が輝き出し、少女、いやリンテ・ラナ国王が現れる。

 設置された椅子を見て少し不満そうな表情を見せながらも、それに座り、座り心地を確かめている。


「・・・可愛くないけど、まぁ~座り心地はなかなかね・・。

 はぁ~もう少し考え事したかったけど、まぁ~いいか!」


 杖をコンコンっと二回地面に軽く叩きつけ音を出すと、地面に魔方陣が現れ、そこから一度クシャクシャに握り潰して出来た皺だらけの一枚の手配書が出てきた。


「受付嬢さん、早速だけど、その手配書の者の情報と国の情報を調べてくれるかな・・」


「畏まりました」


 受付嬢は魔方陣から出てきた皺だらけの手配書を手に取り、そこに書かれている、個人名と国名を検索に掛ける。

 個人は極在り来りな情報しか出て来なかったが、国情報を検索して出した結果を見て受付嬢は自分の目を疑う。


「え・・ウソ・・・」


 凄く驚いた表情をする受付嬢に嫌なものを感じ、ラナ国王は生唾を飲み込む。


「不味い結果?」


「はい、不味い結果です」


 引き攣った表情を見せながら不味い結果だとオウム返しするように言ってくる。


「そんなに・・・いいわ一応聞かせて」


 開いている検索用クリスタルを持つ手を震わせながら検索内容を伝える。


「はい、個人は極極在り来りな人族の情報しか出ませんでした。

 国の情報も、民の数も、ラナ王国の数から見れば、小国を通り過ぎ、極小国、いえ村と言った方が良いのではと言う感じの民の数です。

 ただその・・・国の加護者が異常で・・・その「ラ」の神族が加護者を務めています」


 それを聞き全員目を見開き息を飲み、ピーコックチェアーに座っていた少女、いや国王は身を乗出し驚いた表情をしながら受付嬢が持つ検索済みのクリスタルを無意識に奪い取る。


「ほ、ほ、ホントなのそれ!見せて・・」


 奪い取った検索済みのクリスタルに出ている内容を食い入るように目を通す。


 そこにある国の加護者欄に紛れもなく「ラ」の一族である神族の名が刻み込まれ表示されている。

 この世界で暮らす者であれば「神族でも「ラ」の一族の不用意に視界に入るな、触るな、関わるな、世界が亡びる」っというのが世界共通認識なのだ。


 この国登録情報は加護者本人の同意が無ければ、登録反映されない仕様になっているので、掲載されている内容は事実で間違いない。

 その内容を見て立眩みを覚えながら今得た情報と今朝自国の領土内に不法侵入者として手配書が出回ったもう一つの神族の事を加味し思考する。


―― う~ん、「ラ」の神族は「ア」の神族でも勝てない相手だっけ・・。

 だとすると、このマムラ・シアキって奴が転生者で間違いないわ。

 

 これ本当に不味いじゃない。神族を従えさせる能力をあの神が与えたって事よね・・有り得ないこんなの聞いて無いわよ。

 何がしたいのよ神は!同じ転生者で争わせて、文明レベルを上げるとかってレベルじゃないじゃない。

 どう考えてもこっちに勝ち目無いじゃない!。でももしかしてこのマムラ・シアキって奴は相当弱いのかも・・。


 あぁ~そんなこと考えてもしかたない。

 神だもんね、何考えてるかとか分かんないよ~。


 どうしよう、えっとまず相手の能力が支配系?そんな魔法は無いはず。

 考えられるのは。神族をも従えさせる事の出来る強力な魅了系の魔法を手に入れたって事で違いないよね。

 どうしよう・・・魅了系って対抗手段は目を合わせない事だっけ?。

 会っても視線を合わせなければ大丈夫。

目線を下げて足元見ながら・・って駄目じゃない相手には神族が居るんだし目線を下げたままだと確実に一撃貰って私死んじゃうじゃない。


 あ!でも相手は魅了系の魔法しか使えないって可能性があるよね。

 うんうん、そうなるとコイツさえ殺せば、掛けられている魅了系の魔法は解除され、この神族達は術が解けて我に返る。

 神族は元々人族には興味を示さないし、もしかしたら逆転勝ちも有るかも。


 ・・あ!駄目・・こんな状態で我に返って正気に戻ったら、神族が怒って世界を半分以上破壊しかねないじゃない。

 ・・それ見越して神族を取り込んだのコイツ!。

 ただでは死なないとか思っちゃうタイプ?・・・いや、相当頭が回るタイプかも。


 でも私が神族の魅了状態から助ける訳になるんだし、「ア」の神族位なら恩赦で私だけでも助けてもらえるかも・・・。

 そもそも「ラ」の族神族って気まぐれだって聞くし、興味無くしてその場で何もなかったって考えて立ち去るかも・・。


 神が意図的にコレを起こしたって事なら、文明レベル上げの計画が狂ったって文句言って、私もその魅了系の魔法を勝った報酬に貰って神族を手懐ける事だって出来るかも。

 これが一番可能性あるかも・・。


 よし取敢えず、国民全員私を崇拝してるからちょっと泣いて国民の命が大事って言ってやれば、尻尾振って、いくらでも私の為に死んでくれるはず。

 数で攻め込んで、大将であるマムラ・シアキに一撃必殺の魔法で瞬殺決めて、確率は少ないけど、神に大声で文句言って神を出現させる。

 もうこれしかないよね・・。

 

 そんな少し間違った思考をしながら、下唇を噛み杖を握る手に力が籠められる。


 数回杖の先端を地面に叩きつけ音を出している。

 相当イライラしている事は全国民は察し目を合わせない様に努める。


 全国民自らの口から命を捧げると言わせる為、ラナは涙目で目を潤ませて、広場に集まっている衛兵達と偶然居合わせた国民達を黙って見渡した後、発言をする。


「皆、マムラ王国の国王は私の命を狙ってるわ。

 私は皆の・・・国民全員の命が何よりも大切なの、だから、各衛兵さん達は、各々の担当地域の民を連れて他国に亡命し生き延びなさい。


 このマムラ王国の国王は何らかの方法で神族を味方に引き入れているみたいだから、私は皆の逃げる時間を稼ぐ為に国に攻め込んでくる、マムラ王国の者達を地下宮殿に強制転移させ閉じ込めて一人で応戦するわ。 皆は一刻も早くこの国を捨てて逃げて」

 

 最後一筋の涙を流して見せた。


 その国王の涙を見た民達は、決死の覚悟で自分達民の為に国王は死ぬつもりだと悟る。

 広場に集まった衛兵達は己の意思で立ち上がり、偶然広場の光景を遠巻きに見た国民達も広場に駆け寄り、持っている魔法の杖を高らかと上げ忠誠の意を口にする。


「我等ラナ王国の民は、我等の偉大なる魔導王、リンテ・ラナ国王様に、この命尽きる迄、ご奉仕します」


 口々にそう民が告げるなか、先頭に居たこの国の衛兵総纏め役のディデン・ラッドが杖を掲げ宣言する。


「我等全ラナ王国の民は、我等の偉大なる魔導王、リンテ・ラナ国王様の命を守る為、この命を喜んで捧げます」


 そのうねる様な暑苦しい忠義の言葉が波打つ広場にびしょ濡れの自国の衛兵が一人雪崩れ込んでくる。


「我、偉大なる魔導王、リンテ・ラナ国王様、至急お耳に入れたい情報があります」


 折角自分の思い通りの展開になった状態に水を差すように現れた全身びしょ濡れになった衛兵が飛び込んで来た事に苛立ちを覚える。

 心ではコイツ殺したいと思いながら、少し小首を傾げ、ニコヤカに微笑んで見せ、その濡れた衛兵を眼前に手招きで呼び寄せる。


「わぁ~びしょ濡れ、そんなのじゃ風邪引いちゃうよ~誰か拭く物持ってきてあげて~。

 その情報早く話して聞かせて、終ったら早く着替えてきて風邪引いちゃったら私悲しいからね」


 このリンテ・ラナは、根は腐っている人物なのだが、外面だけは、こうやって誰からも好かれる可愛い子を演出し周りを取り込むのだ。


「こんな末端の衛兵である私に何と言う優しい御心遣いを・・・有難うございます」


 ニコヤカに微笑んでいるが、そんなのはどうでも良いから早く話せと思っている。


「当り前だよ~私は国民一人一人を凄く大切に思っているんだもん。

 さぁ~話して、濡れたままだと本当に風引いちゃうからね」


「はい・・・・・・」


 涙を拭き今朝起きた事を報告する。

 聞かされた内容を聞き、力が抜けその場に座り込む。


「・・戦争したくなかったら、アナタと私と王族、貴族全員引き連れて、今日含めて十日以内に詫びに来いって言ったのね!」


「はい、そうです」


「あと誰もお詫びに行かなかったら、近日中にマムラ王国が精鋭達を引き連れて、この国を攻め落とすってそう言ったのね!」


「はい、そうです」


 もうこれは国を助けたければ、自分の命と、王族貴族全員の命を差し出せと宣言しているようなものだ。

 もし拒んでも、国を滅亡させるための行動を起こされ、自分の命を刈取ると宣言されたようなものだ。


 どちらを選択しようが自分の命は無い。選択肢は端から用意されていない事が分かった。

 そして同時に、相手が自分以上に相当頭が回る切れ者であると判明した。


 先程考えていた相手を先に屠り、可能性が低いが神を出現させ文句言うプランを実行しようと決意が固まる。

 また演技を開始する。どんどん涙目になり肩を震わせて見せながら少し怒った感じで声を上げながら話す。


「どちらの選択肢も選べないじゃない。

 お詫びに行ったら王族と貴族全員の命を差し出せって言われるに決まってるし・・・。

 お詫びに行かなかったら、宣戦布告したって事で、この国を攻め滅ぼす気ね。


 なんて、卑怯極まりない計画を立てるの、このマムラ・シアキって奴!。

 私がどれだけ国民全員を愛しているか知っててこんな無茶な要求をしてきたのね!。


 私の大切な国民の命誰一人奪わせてたまるものですか!。

 私の一撃必殺の魔法で必ずマムラ・シアキって奴を瞬殺してやるわ。


 でも、取り巻きが居ない隙を、この卑怯者が作るとは思えない・・どうしたらいいの~。

 隙さえあれば何とかなるのに・・・。


 私は、愛する国民達をどうやって守れば良いの~イヤよ、イヤ絶対こんな卑劣な奴に私の愛する国民を誰も殺させたくないよ~。

 ディデン、ディデン、私どうしたらいいのかな~」


 項垂れ地面に涙を数的落として見せる。

 涙を流し国民一人一人を思うそんな優しい国王を見ているだけで、国民全員、敵国の国王であるマムラ・シアキと言う人物に怒りを覚える。


「だ、大丈夫です。

 我等の偉大なる魔導王、リンテ・ラナ国王様の国民を分け隔てなく愛し愛しむお優しい方を、こんな卑劣極まりない、マムラ国王の計画等に負けるはずはありません。


 お詫びに向かいましょう、相手の国は民の数は極小国です。

 我等の衛兵の数と王族、貴族、全員合わせると相当の数になり、数で圧倒すれば隙等は幾らでも作れます。

 取り巻き達のどんな種族・・いえ神族であろうとも、この身、この命をもって、我等は、偉大なる魔導王、リンテ・ラナ国王様の為、衛兵全員で必ず数秒でも押さえ込み隙を作って見せます。


 何も心配いりません。我々は死のうが変わりがおります。

 ですが、国民を愛して下さる、リンテ・ラナ国王様の変わりは、誰も居りません。


 我々の、このちっぽけな命をどうか、国民を愛して下さる、リンテ・ラナ国王様の為に、利用してくだい」


 次々広場にいる者達が声を上げる。


「そうです、我々の命は、リンテ・ラナ国王様の命を救える為なら何ら惜しくは有りません、無価値だと思い使い捨てて下さい」


「「「「「「我々の命を我等の偉大なる魔導王、リンテ・ラナ国王様に捧げます」」」」」


 当り前じゃないアナタ達の命など私の為に散らすのは当然っと心の中で思いながら、リンテ・ラナは立ち上がり杖を高らかに天に掲げて見せる。

 その行動で全員ピタリと声を上げるのを止め、注目する。


「皆の気持ち嬉しいよ、私は、私は凄く恵まれた国王です。

 分かりました、今回は全員で、お詫びに向かいましょう。


 ですが、赴けばきっと犠牲が出てしまう可能性が大いにあります。

 私は誰一人無駄死にはさせたくありません。

 出向く限り全員を生きて返したいと思ってます。

 その為の努力を惜しまないつもりです。


 ディデン、お金と貴金属、あと考えられるもの全てアナタの権限で用意してください。

 それをお詫びの品として渡し頭を下げて謝りましょう。


 それでも駄目と言い民を殺される位なら、私は禁忌の魔法を行使し交戦します。

 その時、私に少しだけ、少しだけで、いいので協力をお願い出来ますか?」


「何を言っているんです。この命はもう皆、リンテ・ラナ国王様に捧げる覚悟です。

 卑劣な王、マムラ・シアキに屈するくらいなら、死んだ方がましです」


「「「「「「「「この命、リンテ・ラナ国王様に」」」」」」」」」


 再度国民全員のうねりが始まる。


「ありがとう皆。

 では出発は明日早朝に出発とします。


 国民の皆さん時間は有りませんが、最愛の者とゆっくり過ごして下さい。


 集合場所はこの広場、共に来てくれる者は、広場に集合して下さい。

 行きたくない者を、無理強いだけはしないでね・・(そんな奴が居たら絶対、後で見つけて罰を与えてやる)・・。


 私は急いで宮殿に戻り、最悪の事態に備え力を蓄えに戻ります。

 あとはディデンにお願いしますね」


 返答を聞く事無く杖数回地面に軽く叩きつけ魔方陣を出現させ姿を消す。


 内容を聞いていたフジイデ王国の使者は、自国に帰ってこの事を早く伝えなければと思うが、きっと拘束されこのまま処刑されるだろうと腹を括る。

 そして衛兵総纏め役のディデン・ラッドがフジイデ王国の使者に近寄ってくる。

 眼前に立たれ腰に挿してある短剣を抜き一刺し指を切り自分の血を一滴地面に落とす。

 そうするとフジイデ王国の使者を取り囲うように魔方陣が形成され光に包まれる。

 光が消えると右手の甲に小さい魔方陣が浮かび上がった。


「すまぬが、防衛措置を取らせてもらった、我々の画策を同盟国である貴方に漏らされる訳にはいかんのだ。

 今聞いた事を喋ろうとすると術が発動し絶命とまではいかないが瀕死になる呪いの魔法を掛けさせてもらった。

 その魔法陣の効力は十日間だ。その間喋らないで居れば魔法が発動する事は無い」


「良いんですか?私を拘束し捕虜にして同盟国との交渉に使えるかもしれないんですよ?」


「我々が今使者殿を此処で拘束すれば確実に戦争の火種にされてしまうではないか!。

 それが狙いで我国に、この日を狙って送り込んで来たことは明白だ。

 我々はそんな浅はかな策略には乗らないのだ、甘く見るでない。


 我等はこれから貢物の準備がある為、見送りは出来ぬが、我が国の衛兵を後ほど一人使者殿の道中護衛兼マムラ王国への使者として共に向かわせるので、無事自国に戻られよ。

 同行させる衛兵を選抜するので、今しばらく待たれよ。では全員行動せよ」


 広場に集まっている各種衛兵と市民達は、各々それぞれ思う箇所へ向かっていった。

 それに合わせ、ラナ王国の衛兵総纏め役であるディデン・ラッドも、その場を立ち去ろうとするので、慌てて引き留める。


 表向きは自分に対しての護衛と言う名目だが。

 道中その同行者が命を落とす事があれば、フジイデ王国の責任が問われるであろう。

 そして無事同行者が自分を送り届けるのに成功したとしても、マムラ王国に行く際に命を落とした際も、フジイデ王国の責任を転嫁してくるのは見え見えだ。


「衛兵総纏め役、ディデン・ラッド殿、待ってくれ!。


 すまないが、私の道中護衛は必要ない。

 私は貴方の画策には乗らないし、協力は出来ない。


 お分かりでしょう?。

 我国、フジイデ王国は、同盟国であるマムラ王国と敵国になるかもしれない者を護衛する義理は無いと!」


 広場から戻ろうとした衛兵達全員が一旦足を止めるが、全員行動せよと再度ディデン・ラッドが良い全衛兵達は詰所等に消えていく。

 広場にフジイデ王国の使者とラナ王国の衛兵総纏め役、ディデン・ラッドだけが残った。

 流石に思惑はバレバレであると言う表情で使者は睨まれる。


「使者殿、何を仰ってるのか私には理解しかねますね?。

 使者殿の道中護衛ですよ、ただ私の所の使者はそちらの同盟国に向かう方角が同じと言うことだけですよ。

 貴方を無事自国に戻さねば、我等ラナ王国として示しがつかないではありませんか」


 あくまで白を切るつもりのようだ。もう眼が分かってるならつべこべ言わず同行させろと言う眼をしている。

 ココで引き下がるわけにはいかない。

 責任転嫁されてしまっては、自国の王に顔向け出来ないのだ。

  元より使者として送り出されている以上、死は覚悟の上だがコレばかりは御免だ。


「いえ、私は一人でココまで来ましたので、帰りも一人で戻らせて頂きます。

 同行者を連れてしまえば、我国に責任が少なからず付いてしまいますので、ご理解ください。

 では、私はこれで・・」


 深々と頭を下げ相手の返答を聞く事なく乗って来た馬に飛乗る。

 その馬の前に、魔法職特有の真新しいローブと帽子を着込んだ、者が駆け寄り道を塞ぐ。


「お待たせしました、私は、この度、我ラナ王国より、フジイデ王国の使者様の道中警護を任せられました、一般衛兵の「カイ・テテラ」です。よろしくお願いします」


 馬の進行方向を塞ぎ、深々と頭を下げている。


 その衛兵の身形の真新しさ、この世界使者であれ他国の者に、友と挨拶するかのように名を名乗った事、衛兵としての気迫の無さ、所作一つ一つが、新人感丸出しである。

 こんな者を護衛に付けられた日には、確実に不利な事しか無いと思える程の人物だ。


 だが、今回のような戦争在り気に事が進む事案であればこれ程までに打って付けな人材は無いだろう。 体よく捨て駒にしても戦力弱体に繋がらない様にと考えられて、この子が選ばれたのだと考えると納得がいく。 相手国がこの使者の行動等に文句を付け戦争の火種にすれば、この子を見せしめに処刑して処罰をして、戦争事態を回避する事迄考えているのだろうと思うと少し可哀想になる。


 そしてこんな新人を押し付けられるのは、自分自身を窮地に追いやる事であるので、護衛同行は不要だとすぐさま最もらしい理由を述べて断る。


「本当に護衛は入りません、私はフジイデ王国で中堅に位置する衛兵ですので、道中のモンスター討伐も野営等全て一人で熟し危険は有りません。

 二名になれば、その分危険度が増すので、今回の護衛の件はお断りさせて頂きます」


 ラナ王国の衛兵総纏め役、ディデン・ラッドが、馬の前に出ている自国の新人と思しき衛兵に手で退くよう指示をだす。


「そうですか・・仕方ありませんね。

 では、今回は護衛無しとなりますが、お気を付けてお戻りください」


 一礼をし、馬を走らせ、ラナ王国を出発する。

 自国から離れていくフジイデ王国の使者を見送った後、すぐさま自国の使者である衛兵の「カイ・テテラ」に指示を出す。

 因みにこの者は、衛兵としては新人ではあるが、衛兵部隊に所属する前に、暗殺部隊で数年間、各国の要人達を数々屠った実績がある一流の殺し屋魔撃魔導士だ。


「カイ・テテラ一般兵、西詰所「近道五番」を利用し、あのフジイデ王国の使者の前に出よ。

 偶然を装い合流し護衛の任を極秘で行え、フジイデ王国に共に行き無事使者を送り届けた後、マムラ王国へ使者として向かい、我々が到着する事を伝えよ。

 戻る際、あのフジイデ王国の者は病気を装い始末しておけ」


「はい、では行って参ります」


 ニヤリと嫌な笑みを向けた後、今は一般衛兵である「カイ・テテラ」は、西の詰所がある方向へ走って行った。

 詰所横に数字の書かれた魔法陣が一番から十番迄ある。その中の五番と書かれた魔法陣に、持っている杖の先を当てる。

 すると魔法陣がその身を包み込み姿が掻き消えた。これは広場にある転移装置と同じ仕組みだ。

 ある場所とある場所を繋いでいるのだ。


 今回繋がれた先は、ラナ王国から数キロ離れた個所にある小屋に繋がっている。

 ココは、馬を使っている者が必ず通る個所だ。

 馬で来る際は、比較的馬を酷使しない、この順路を選ばなければいけないのだ、数分後馬の樋爪の足音が遠くから聞こえてくる。

 慌ててその道に魔法で馬が滑落をしたかのような傷を付け、自身は地面に転がり服に土を付け汚し、少し頬や足に擦り傷を付ける。


 道幅は馬が約一頭半分って所だ。この道はよく滑落を起こす場所でもあるのでこの偽造で大概は騙されるだろう。


 態とらしく真ん中に出て、態とらしく足を引きずりながらゆっくり歩く。

 数秒後馬の足音がすぐ後ろまで迫って来る音を聞き振り向く。


 フジイデ王国の使者が驚いた表情をしているのを確認し恰も偶然を装い話し掛ける。


「これは、これは、フジイデ王国の使者様、・・・どうか、助けて下さい」


 有り得ない光景に驚きつつも状況を分析したフジイデ王国の使者は結論を出す。


「・・・魔法か!、道をあけてくれ、私には護衛は必要ないのだ」


「いえ、護衛の任務は仰せつかっておりません。

 私は使者として出立し、近道を利用しココまで来たのですが、谷へ馬を滑落させてしまい。

 今、馬が無いのです。


 どうか共にフジイデ王国迄乗せて行っては貰えませんか?。

 一度使者として出立してしまったので、引き返す訳にはいかないのです。

 

 あとその・・・馬を、馬を・・・貸して貰えないでしょうか?。


 私、私、新人で初めての任務で、こんな、こんな、失態をしてしまった事が国に知られたら両親が」


 涙目で訴えかけてくる。

 国は違えど、同じ衛兵と言う職に就き、初任務として使者の任に就いている、この新人を助けてやりたいと言う気持ちになる。


「乗れ!新人!だが、我国のフジイデ王国迄だ!。

 俺が国についたら、この馬をくれてやる・・・グズグズするな新人、早く乗れ、俺も一刻も早く国王に伝令を終えた事を報告をせねばならぬのだ!」


 まんまと、自分の事を、ラナ王国の新人衛兵と思い込んでいると確信し、演技をし続け、フジイデ王国の衛兵の手を取り後ろに飛乗る。

 乗ったのを確認したフジイデ王国の使者は馬を走らせる。

 その背中側で、不気味な笑みしているカイ・テテラには全く気づいていない。


 転移で自室に戻った、リンテ・ラナはベッドにダイブしヌイグルミに顔を埋め大声を出す。

 この世界に来て十二年、やっとこの暴力がモノを言う世界に慣れてきた頃に、この生命の危機的状況を神により仕掛けられた事に苛立ちを覚える。


 ヌイグルミを抱き天井を見上げながら、どうやれば自分だけ生き残れるかを再度考える。


―― 「ラ」の一族であろうと、高火力を一点集中されば確実に絶命させられるはずよね。

 でも、あの禁忌魔法って結構疲れるし連発は二回迄が限界だし何より生命力が必要なのよね。

 

 王族と貴族と衛兵全員分の命を使うとして~あと逃げる様に転移装置を幾つか中継しないとよね。

 道中幾つか仕掛けておかないと、あとは・・・。


 最悪二発で仕留められなければ、この国まで戻って三発目を、マムラ王国に放って最高火力で撃ち込み蒸発させればいいんだよね。

 こんな事も有ろうかと国全体を魔法陣化しといて正解だったわ。


 まぁ~国民全員の命を使う事になるけど、良いよね、私だけが生き残る為だものね。


 でも神は何考えてるのかしら、一時期は毎日のように出現し、状況報告を聞いてきたのに、最近出現すらしていないし。

 転生者を増やして戦わせるとか何なのよ!それに神族って何よ狡いじゃない、あぁ~イライラする~文句言ってやる~。


「・・・神様!出てきて下さい。少しお話がしたい事があるんです。


 私に文明レベルを上げるのは任せてくれるんじゃなかったんですか?。

 このままでは文明が退化しますよ、私の立てた計画が狂うんですが~聞いてますか~出て来て下さい」


 食付きそうな文言を発しても一向に現れる気配はない。

 これは転生者を見極める為の何らかの試練であるかもしれないとの思い至り、勝敗が決まるまでは神は一切出現しない気であると考え諦める。


「・・あぁ~もう勝てばいいんでしょ、勝てば!。

 私が優れている事を見極めるのが目的なんでしょ!この試練乗り越えてみせるからね。

 よし、禁忌魔法は体力使うから寝る。万全にしておかないと」


 自身に睡眠導入魔法を施し眠りにつく。


 地上では、各々準備が整えられている。

 必要量の馬、馬車、幌馬車が用意され、考えられる貢物としての、金銀銅貨、貴金属類を用意し、衛兵達の食料、水、武器等も用意し終える。


 そして今、マムラ国王が男性であるので、貢物として宛がう女性を選別する為、国中の若い娘達が広場に集められている。

 ラナ王国の国民全員、マムラ王国の国王は、何らかの方法で従えさせた「ラ」の神族を盾に脅してくるような卑怯で卑劣な王として認識されている。


 どういった女性を貢物とするかを選定が行われているが、広場には女性達のすすり泣く声と、選ばれたら絶対、伽の際この手で絞殺してやると言う殺気が渦巻いている。

 国交すら無い国で、ましてやその人物の何の情報も無い状態で、趣味嗜好、容姿等の好みが一切分からないので選定が難航する。

 集まった国民達の中で貴族、一般市民達で容姿が優れている者は多数居るが、ココはマムラ国王との伽の際、確実に暗殺し屠れる者を選ぶべきとの声が出たので暗殺能力に長けた人材である、この国独自の暗殺部隊と衛兵の中から容姿等が優れた者八名を選抜した。


 衛兵総纏め役、ディデン・ラッドはその選抜された者達の前に立ち激励を飛ばす。


「よしお前達八名はマムラ国王の国王への貢物とする。

 お前達の暗殺部隊としての任と衛兵としての任を、この場において全ての任から解く。

 これから、お前達は、それぞれの階級の貴族階級、市民階級のただの娘だ。

 但し、お前達八名には一つ任を与える。


 この卑劣男であるマムラ国王の国王の暗殺する事を任として与えるいいな。

 コレを第一に考え、我等の偉大なる魔導王、リンテ・ラナ国王様の脅威を排除する事だけを考え、自らで考えこの者に取り入り必ずこの者の命を亡き者にしろ」


 衛兵総纏め役、ディデン・ラッド前で全員敬礼してみせる。


「「「「「「「「はい」」」」」」」」


「よし、その身を清め、服も豪華なものを身に着けよ。誰かこの者達を手伝ってやれ!。


 そして非戦闘民達には、通常通り生活をさせ、他国に緊急事態である事を悟られないよう生活させるよ。これを徹底させるのだ。

 では、明日早朝まで各々思い思い過ごすように解散」


 解散の号令を聞き広場に集まっていた者達は、各々散っていく。

--- 78話目のみの後書き----------------------------------------

78話目最後まで読んでくださりありがとうございます。

どうでしたか?楽しんで頂けたならうれしいですが。


では、次79話目で、お会いしましょう。

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