---5--- 森家屋内 戦闘準備 そしてラフェルに天罰・・・
ガシャンガシャンと金属音をぶつけ合ったような音が、ラフェルが入っていった奥の部屋から響きわたっている。
そして一際大きな音がなり、積んである金属が崩れ落ちたような音がする。
ガラガラガシャーン、カーン、カキーン。
「いっ痛た~い、もうなんで崩れるのよ~まったく」
その室内に崩れ散らばっているであろう貴金属物を片づけているのだろう、室内を世話しなくスタスタ、スタスタスタと動き回る足音が響き渡ってくる。
暫らくしてその部屋内からラフェルはシアキを呼びつける。
「シアキさん、すみません!!ちょっとこちらの部屋まで来てください」
呼ばれた奥の部屋へシアキは入る。
部屋内には、焼き肉用に使用するに相応しい大小様々な鉄板、煮込み用に使用するであろう鉄製のお鍋や釜、各種サイズが取り揃えられた鉄製のフライパン、畑道具と思われる鉄製の桑や鎌、攻撃用武具と思われる鉄製の短剣、長剣、様々な鉄製品がこの部屋内に集められ、部屋中鉄の匂いしかしない、まさに可愛い要素皆無の無骨な鉄物保管部屋といった感じであった。
部屋の中央には、長方形(縦百五十センチ、横八十センチ)の大きながある。
机上に鉄製の各部位毎に分けて置かれたプレートアーマーがあるが、どれもサイズは小さい。
おそらくは、このプレートアーマーはラフェル専用であろうとシアキは思う。
「防具は一応あるんですが・・・やっぱり私のでは、サイズ的に無理そうですよね~、はぁ~」
机に置いた自身の防具サイズでは、シアキの体格ではサイズ的にも装着は不可能であると実感しラフェルは凄く残念そうな表情を浮かべ溜息を吐きながら防具として使えそうな物を改めて部屋の鉄製品を物色し始める。
またシアキはラフェルのプレートアーマーをまじまじと観察し自身もこの様な防具が欲しくなり、まず村や町で買い物をするなら防具や武器を購入しようと密かに誓ったのだった。 そしてプレートアーマーの値段が気になり相場の値段がどれ位の価格帯なのかを知識として得ておこうとラフェルに尋ねる。
「しっかし、すごい防具だね。
初めて見たよ。
これっていくら位するものなの?」
室内に有る薄い鉄板をクネクネさせ強度を調べているラフェルは作業の手を休めず使えそうな鉄板やらが無いかを物色しながら質問内容に対し返答を返す。
「それですか?。
少し森に入った先に鉱物が豊富な洞窟にあるんです。
そこに入り鉱物を掘り出し道具生成に必要な鉄成分を必要量結晶抽出し、持ち帰って粘土質の土などで型を適当に作り、魔法で熱し溶かした鉄を流し込んでこの生活内で私が自ら作ったものです。
見た目が不格好ですし、おそらく既製品と違って耐久性はないですし売っても価値はないですよそれ。
ちなみに、私が着ている服やこの家にある布は動物の毛を紡いだりして糸ににし編んだり縫ったりした物で。
ガラスや鉄製品等は魔法で成分抽出して魔法で結晶化や整形して作ったものなんですよ」
「自分で作るとか魔法便利なんだな、やっぱり!。
でも作るよりは、町とか行って買った方が早いような気もするけど?。
やっぱり既製品とかって高かったりするの?」
探す手を少し止め、少しラフェルは困ったような表情をこちらに向ける。
「ほら、私魔族ですし、この周辺は人の町ばかりで通行も入国等も普通にはできませんから。あははは。
既製品は、ここに住んでいるとやっぱり手に入らないんで、必要な服や小物等やら日用品系はすべて自作しちゃうんですよ。
なので、防具やらの値段は買った事がないので私には分らないです。
申し訳ありません」
必死に何かを気付かれまいとしている気がしたが、敢えて触れないでおくとシアキは決め話題を変える。
「で、どうかな?。
俺の体格に合うような、防具になりそうな物ってやっぱりないんじゃない?。
もう探すのは諦めてこのままでいいからさ、そこの短剣を使わせてもらうだけじゃダメかな?」
「な!、何を言っているんですか!!ありますよ防具はちゃんと!!たださっき崩れて埋もれているだけですよ。
それに今回は、目的が追い払いですが、ちょっとでも生身で攻撃が当たったら致命傷になるんですよ。
モンスターの攻撃が当たるかもしれないのに防具も着けずとか、そんな危険な行為をさせられるわけないじゃないですか!。
崩れて埋もれた中にありますから、少し黙ってそこで待っていてください」
この部屋には、自身の防具しか正直防具になりそうな物は無い事はラフェルは知っている。
言った手前、引くに引けなくなってしまっているので何か探さないとっと焦り崩れた山の中から料理用に作った鍋を偶然手に取り兜に仕えるかもと思ってしまい、手にした鍋とシアキを交互に眺め思案する。
もうこれしかない!!とい言いたげな表情を浮かべ、山の中から鉄板系、大小さまざまな鍋、各種フライパン類を集め纏めてシアキが待つテーブル前に戻る。
テーブルの上には様々な鍋やフライパン類が置かれ並べられた。
もう察しは出来ている。そうシアキも馬鹿ではないのだから。
でも実際問題、鍋類を体中に纏わせ装備する、そんな恥ずかしい姿を想像すると、流石に羞恥心が敏感に反応し恰好悪いとシアキの心は素直に装着は拒絶すると言っている。
そしてシアキは顔を少し引き攣らせながらラフェルに向け確認をとる。
「いやいや、ラフェルさん?それはどう見ても鉄板やお鍋だと思うな~。
それを流石に装備する位なら、素のままでいいんじゃないかな~?。
その防具は流石に恥ずかしいと思うんだよ実際・・・」
そのシアキの言いたい事は痛い程にラフェルも分かっている。
どう見ても料理に使う鍋や鉄板だ、いや作った本人も料理用に作ったから知ってはいるし何処から角度を変えて見ようが鍋や鉄板なのだから、そのシアキの反応は間違っていない。
もし自身がこれを装備しろと言われ眼前に出されたら、それは嫌だ!恥ずかしい装備なんか出来ないと拒絶するだろう事も重々ラフェルは承知している。
仮にこの世にこんなふざけた防具があったとしてどうやって装備すればいいのかすらわからないし、もし装備出来たとしても防御力があるのかと問われると恐らく機動性が悪いので逆に装備しない方が生存率が上がると言え、全く防具として役に立たないはずだともラフェルは理解しているが、もう変な高揚感、いや防具を装着させるという使命感に駆られているので無いよりは何かしらの防具になりそうな物がある方がいいと思っている。
そう、モンスターの攻撃を人族であるシアキが生身で食えば即死するに決まっているのだからと。
色々ラフェルなりに考えを巡らせ考え抜いた結果がコレで・・・いや違うただ偶然手にして装備出来るかもと思ってそれを突き通しているだけである。
罪悪感を覚えつつ自分の防具をそのままシアキに着せて上げられるなら何も問題はないのにと愚痴りたい気持ちを押し殺し、サイズ的に無理なのだから仕方ない事で、もう今更、これは後には引けない。 もうこれしか方法は残されていないっと言いたげな表情を浮かべシアキを真っ直ぐ見つめる。
そしてどうにかこの苦肉の策を正当化しようと言葉を紡ぐ。
「こ、これは、お、お鍋や鉄板じゃありません。
こ、これは、お、お鍋や、て、て、鉄板の様に見えるように作られた...その、あの...そう擬態化防具ですよ。
まったくシアキさんは何を言っているんですか?。
そうですこれは擬態化防具で列記とした防具なんですよ、これは!!」
「こんな嘘すぐばれるじゃない」っとラフェルは心で悲鳴を上げならがも引くに引けないのでこの嘘を突き通そうと開き直ってしまう。
清々しい程にバレバレな嘘を真顔で言い切ったラフェルを見てシアキはキョトンとする。
擬態化防具はこの世界に存在はしているが決してお鍋等生活用品に擬態化させた物はこの世に存在していないし況してやラフェル自身の魔法技術では作る事は叶わない。
張本人はシアキの表情を確認し居た堪れなくなったのか、段々と恥ずかしくなり自身の顔が自分でも熱を帯び今顔が真っ赤に成っているのだろうと理解出来る事で更に恥ずかしくなりつつも、手段はコレしかないので何とかこの防具をシアキ自らが着用する事を承諾させれば良いのだからと恥ずかしさを振るい気を取り直し、姑息で、且、意地悪な手段をとる事を決める。
「シアキさん、防具も一切身に纏わないでモンスターと対峙すると仰るのなら、この時点でシアキさんの負けという事でいいですよね?私はそれで構いませんよ。
ではこれでシアキさんの滞在はなしと言う事ですね。
はぁ~残念です対峙して腰を抜かした姿が見れないのは実に残念です。
防具は、ここにちゃんとあるのに、着用しないで挑戦は終了ですね。
でもこれでよかったですよね、私に無様に助けを求めて無様な姿を晒さずに済んだんですし、それに無駄な怪我を一切しなくて済み、私も無駄な治療を施さなくて済んだんですものね。
では、明日河原までお送りしますので今日はゆっくり休んでくださいね。
はぁ~よかった~よかった~シアキさんが安全な人の住む町へ無傷で向かってくれる決心をしてくれて」
もうラフェルには防具(お鍋類)を着けないなら即不戦敗で失敗ですと脅す手しかない。
こんな理不尽で無茶な要求を申し出て自分の発言を正当化しようとしている事にラフェルは更なる恥ずかしさが込みあげ顔がより一段と熱を持つのだった。
そしてラフェルは心の中で何度も「こんな理不尽な申し出をしてしまいごめんなさい」っとシアキに向け平謝りしている。
提案内容を聞きシアキは慌てて、このままラフェルが準備してきた、確実に用途外に使用しているお鍋や鉄板を...いやこの素晴らしい義体化防具を着用し醜態を晒すと言う恥ずかしい条件を飲むしかないと理解する。
「いや、いや、待って、待って!!これは俺の目の錯覚だな、きっと!!。
記憶がないからこの防具を料理用に似せたて偽装させた防具だとは気付かず見事騙されて普通のお鍋や鉄板だと思ってしまたんだな~きっと。
うんうん、これはよく見たら立派な防具だ。
でも記憶が無いからこの装備の装着方法が分かんないな~これは困ったな~。
ラフェルさん申し訳ないが防具の着用を手伝ってくれないかな?・・・あぁ~もうラフェルさん、どうとでもしてくれ~」
心の中でラフェルは、何度も「ごめんなさい」っと平謝りする。
そしてシアキがこんな理不尽な申し出を納得してくれた事に感謝もする。
「わ、分かってもらえればいいんです。
では、武器は鉄製の、この短剣か長剣を使いましょう。
早速このお鍋・・いや防具の装着のお手伝いをさせていただきますね」
こんな防具がある訳がないので、ラフェルはどうやって着用させたら良いのか分からないが、防具と言い切った手前何とかしなければと考え部屋の壁に架けてある植物の蔦で作ったロープを手に取り手頃のサイズに切断しシアキの身体に持ってきた鍋類を当て、取って部分等にロープを通し結び付け装着作業を開始する。
胸に中華鍋風の鍋と、背中に焼肉用の鉄板風の鉄板を両鍋の取っ手を蔦で作ったロープで結びもう一本で肩へ掛けられるようにし着せる。
頭には煮つけ用の浅い取っ手の付いた鍋を逆さにし被せ。
右腕に、左腕に卵焼き用な細長フライパンで両サイドから挟み蔦で作ったロープぐるぐる巻きにし固定させる。
右左両足と太ももに、細長な鉄板鍋を両サイドから挟み蔦で作ったロープぐるぐる巻きにし固定させる。
肘膝にお玉を当てて蔦で作ったロープぐるぐる巻きにし固定させる。
腰から股間と臀部部分を守るため平たい鍋を各種連結させ腰に結びつける。
右手に先ほどの刃渡り二十センチ程の短剣を持たされ。
左手には、盾替わりに、丸形の大き目のフライパンを持たされ完成。
まさに全身甲冑戦士ならぬ、全身お鍋甲冑戦士だ!。
何より重く、そして関節という関節が固定され機動性ゼロパーセント、動きづらさ百パーセントの、機動性、回避能力共に低い、恥ずかしい戦士がココに誕生した。
「これなら、少しは打撃攻撃を受けても耐えられるでしょう」
敵からのダメージ軽減を優先に考えて兎に角、鍋や鉄板をこれでもかとシアキの身体に隙間なく括り付け装備させた姿を満足だと言いたげな表情を浮かべながらラフェルは眺める。
流石に関節部分まで覆われ手足が一切曲げられないと言う状況にシアキはこれでは勝てるものも勝てないと思い、満足そうにしているラフェルに向け提案を投げ掛ける。
「これじゃー、足のフライパン・・いや防具が邪魔で足が曲げられないし、腰のもすごい重くてこのままだと走れないし屈む事すら出来ないんだけど。
あと俊敏に回避行動とか出来ないとまずいんじゃないかな?。
これ関節全く動させないからさ、攻撃や体当たりされても避けれないし、やはり機動性はある程度無いと回避が出来ないと思うんだが、このままだと!。
それと腕が一切曲げられないからせっかく短剣を持ってても攻撃が出来そうにないんだが、これって流石に危なくないかな?。
出来ればさ盾替わりのフライパンと、この短剣と、胸の防具だけにしてもらえないかな?」
その指摘を受け確かに動けないのは宜しくないと思いラフェルは渋い顔をしながらも腕と足と腰の関節可動域部分に取り付けられたフライパンたち外す。
提案を渋々でも受入てくれて事にシアキはホッっとするのだった。
「すこし心許無い部分もありますが、モンスターを追払うのには回避行動が出来ないとダメですし仕方ありませんね。
取り敢えずこれでいいですが絶対に頭部と胸部部位は外さないでくださいよ」
少し不満そうな口調で話しながらも装備しているシアキの姿を満足そうに眺め頷くラフェルであった。
「では、私も防具を着用して準備しますねのでシアキさんはさっきの部屋で待っていてください。
少しお時間いただきますね。
あと決して着替えを覗いたりしないでくださいよ」
早々に部屋からシアキを追い出し部屋の扉を閉めた後、扉に背を預け誰にも聞こえない小声でシアキに向けて謝罪を口にする。
「シアキさん、本当にごめんなさい。
この埋め合わせは、きちんと何処かでさせていただきます、必ず...」
謝罪後、部屋の中央迄移動したラフェルは自分の防具品を着用する為に着替えを開始する。
一旦着ている服を全て脱ぎ、下着姿となる。
下着の上からヒンヤリする鉄製の楔帷子を着用する。
着用後、先程着ていたモコモコの普段着を上から再度着用し直す。
本来ならもっと戦闘用の服を用意し着用したい所ではあるが、そのような服をラフェルは一切作っていない。
いや寧ろモコモコする素材しかないので作りたくても作れないのだ。
次に防具類を服の上から着用していくのだがモコモコしている服の上に着用するのは大変難しく困難で何より魔族であろうと小柄な女の子なので各防具は鉄製でそれなりの重量がある為、それらを助け無しに一人で着用するという行為はかなりの重労働で結構な体力を消費してしまう。
途中何度かリビングにいる者を呼付けて装着の手助けをしてもらおうかとラフェルは考えたが、男性に肌や故意ではないが身体に触れられる可能性があるが凄く恥ずかしと思ってしまっているので呼び付ける事は無く自力での着用を必死で行うのだった。
数回手元が狂い防具を床に落としかなり悪戦苦闘をしながらも普段より急いで防具の装備装着を整え終える。
この生活中で、防具の装着をこんなに急いで装着する事はなく、ラフェルは過去最高の速さで装着できたと何とも言えない達成感を味わう。
装着後の防具の総重量が魔族であろうと小柄な女の子の体に重くのしかかる。
「ハァハァ~うぅやっぱり重い~ハァハァ~もっと軽量化出来たら良いのに、なんで鉄ってこんなに重いの、嫌になる重さだよハァハァ~ハァハァ~」
フル装備すれば相当な重量で装着だけでも結構な重労働で体力の消費も激しい上に今回は普段よりも急いで防具の装備装着を整えた為、すでに一戦終えたかのう脳に肩で息をし息切れを起こしている。
必死に深呼吸をして息を整え気合いを入れた後、シアキが待機しているリビングへと向かう。
「お、お待たせしました、ハァハァ~ハァ~。うぅぉおとっとぉ...あぶな」
少しふらふらと覚束ない足取りでラフェルはシアキの眼前まで肩で息をしながら近づいてくる。
フード付きの、あの可愛いモコモコの服の上にプレートアーマーを着用している何とも言い難い可愛さを醸し出すその姿を確認したシアキはこの可愛い生物を守りたいと言う欲求がふつふつと心の底から沸きあがってくるのを感じるのだった。
「すごい息切れてるけど大丈夫?。
少し飲み物でも飲んで息が整う迄休憩した方がいいんじゃないか?」
小柄な体躯でフル装備すれば相当な重量でそりゃ肩で息をする位に息が上がって当然だろうとラフェルは思うがそれは一切口にぜす早急に準備を整えて行動を開始するように促す。
「休憩は大丈夫ですハァハァ~ハァ~すぐに出発しましょうハァハァ~ハァ~夜になるのはまずいのでハァハァ~ハァ~...。
それにこれでも何回も着ていますので全然疲れてないですし大丈夫ですし、何より私はハァハァ~ハァ~こう見えても魔族で回復力も早いので大丈夫でハァハァ~ハァ~平気ですよハァハァ~ハァ~。
ですがハァハァ~ハァ~この後の他の準備はシアキさんにも少し手伝ってもらいますよハァハァ~ハァ~その間に息は整うと思いますので気にしないでくださいハァハァ~ハァ~...」
この状態で戦闘になったら大丈夫なのだろうかとシアキは少し心配になる。
だがここで無理にラフェルを休憩させると自尊心を傷付けてしまい、滞在云々何所では無く追い出されてしまう危険性もあると考慮し敢えてこれ以上は触れないで置くと決める。
「そっか大丈夫ならいいんだ。
それに夜になるとモンスターが活発に行動するのは不味いもんな。
よしラフェルさんのその可愛い恰好を見て何か色んな意味で元気がもらえたよ。
さぁ~何を準備したらいいか指示をだしてくれ、俺はその通りに準備をするからさ」
「ハァハァ~ハァ~では、準備物は台所にあるんで着いて来てください」
覚束ない足取りのラフェルの後に付き一緒に台所へと向かう。
台所には調理台、かまど、野菜の入った大きな箱が多数、水瓶が三個置かれている。
調理台の上には、木の切り株のようなまな板に使用していると思われるモノに包丁らしきものが刺さった状態で放置されている。
それを見たシアキは料理をする時のラフェルは結構豪快な性格になるのかもしれないと推測する。
「では、シアキさんは、そこの野菜入れからラビットキャロットを一本持って行ってきてださい。
私は水筒に水を汲んでおきますので」
大分ラフェルも息が整ってきているなと感じつつシアキは指定されたラビットキャロットなるものがイマイチどんな物であるか分からなかったが「キャロット」と付く位だから人参だろうと考え野菜入れの箱の中からデカい人参を一本手に取る。
「これでいいのかな?ラフェルさん」
返答が返ってくるかと思った次の瞬間、ラフェルが大きな叫び声を上げる。
「い!、いぃぃぃやぁ~!!」
勢いよく叫びながら俊敏に青ざめた顔をしながらラフェルが思いッキしシアキに抱き着いてくる。
その姿は床との接地面を極力着かない様に足先で立つ様な体勢を取り周囲の床をキョロキョロと見渡し何やら警戒している。
先程まで肩で息をする程に疲れ疲弊していたラフェルは一体どこにいったのかと言う位息を押し殺している。
「ど、どうしたの?急に?一体何があったの?」
素早くラフェルはシアキの後ろへ回り込み少し震えながら台所に設置されている水瓶が置かれた辺りを指差し完全に血の気が引いた青ざめた顔で状況を説明する。
「ゴ、ゴキ、ゴキが出たんです。
水瓶の脇からガサガサって出てきたんです。
い、いや~気持ち悪い、私あれだけは苦手なんです。
シアキさんもう今日の挑戦はやめにしましょう。
私はもうあの水瓶には近づけませんし、飲み水を持たずに行くのは危険ですし、それに、それにゴキを一刻も早く退治しないと...いや退治なんか...やっぱりそんな事は私には出来ないので、もうこの家を一回潰して建て直します。
もうそれしか...解決方法はありませんので残念ですが・・」
話の途中でまたガサガサと音が聞こえた。
「・・いぃぃやぁ~!!またそこで音が、そこで音がぁ~」
もうラフェルはG如きが出た程度で家を壊す等と言い正常な判断が出来る状況化に有るとシアキは理解する。
そして水瓶付近に目を向ける。
確かに水瓶と水瓶の間でカサカサと這う音が聞こ何か黒いモノが蠢いていた。
そのカサカサと蠢く音を聞く度にラフェルは悲鳴をあげシアキの腰に抱き着き強く締め上げていく。
防具を着用していない状態であれば、背中に柔らかいものが押し付けら約毒間を得られ男として喜ばしい限りなのではあが、今回は防具を着用している状態なので一切柔らかいと言う至福の瞬間は味わえず、唯々防具が腰にめり込み激痛を生んでいる。
「ラ、ラフェル、うぉ!、ちょ、ちょっと防具が腰に付けた鉄板がめり込んで痛いって、兎に角俺から離れてくれないか?。
あんなの別に怖くないだろ、蜘蛛じゃないんだしさ。
たかがG程度が出たってだけで家を壊すとかさ!!。うぉ!だからそれ以上締め付けられると腰が痛い痛いってば落ち着いてくれ。
それにそんな大げさな事されて家が無くなると、滞在出来る様になっても滞在する場所がなくなるだろ、それは困るんだって、ちょっ手を離してくれ~本気でイタからさ。
ほら俺がちゃっちゃと退治するから、な、な、お願いだから手を離してくれ」
その言葉を聞くもラフェルはイヤイヤと首を横に振る。
「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理絶対に手は離さない離さないんだから...い!いぃぃぃやぁ~!!また音がした~キモイィ」
カサカサと音が聞こえる度に腰にへばり付いたラフェルが力一杯強く抱きしめくるのでその都度襲う腰に走る激痛にシアキは耐えながら、このままではモンスターに殺されるより先にラフェルに腰を骨折させられてしまうと直感する。
実際シアキの防御力からはその様な事になる事は無いのだが本人はまだその事には気づいてはいない。
圧し折られる前に何とかしなければと考えシアキはラフェルが腰に抱き付いたまま一旦台所から離脱しリビングの椅子の上にラフェルを立たせる。
「俺の眼を見てくれ、ここはリビングだからGは居ない、分かるよな。
それに床から離れた椅子の上だから全然怖くない、怖くない、いいね。
ここで大人しく待っててくれたら、俺がGを退治して来る、いいね」
その問いに放心状態のラフェルは首を縦にうんうんと振り、焦点が虚ろではあるがボーっとシアキを見つめる。
「あと何か叩き潰せる物があれば良いんだけど、何を使えばいいかな?」
その問いに放心状態から少し回復したラフェルが目をこれでもかと開き答える。
「ほ、本当にアレを退治できるんですか?。いえ退治する為なら台所にある物で使えそうな物があれば使ってください。
その使った物は後で処分しますので、気にせず何でも使ってください」
「そっかわかった。適当に使えそうな物を使わせてもらうね。
少しそこで待っててな、その、Gを退治してくるから」
期待の眼差しをシアキに向け、首を縦にうんうんと振る。
「本当に、本当に、本当に絶対退治してくださいよ、絶対にですよ。
もしアレを退治してくれたら、もう滞在は許しちゃいますから、必ず、必ず、絶対にアレを退治してくださいお願いします」
もうラフェルの中ではG退治>滞在権を掛けた挑戦と言う構造になっているのだとシアキは理解する。
「いや、いや、そんなので滞在を認められたら流石に目覚めが悪いからさ、退治後きっちり滞在権を掛けた挑戦に出かけような」
もう正常な判断はラフェルには今の所出来ないと思い返答を聞かず台所にシアキは消えていく。
そしてラフェルは眼前のシアキが救いの神に見えているのだった。
因みにあれが蜘蛛ならシアキもラフェルと同様の行動を取っていただろう。
だが今回は蜘蛛ではなくゴキであるのでシアキは蜘蛛以外なら嫌悪感を抱かずただの虫程度だと考え平気な性格なのである。
台所に入るなりシアキは最初にGを目撃した水瓶へと忍び足で近づいて行くが既に水瓶の間にはヤツの姿は何処にもなかった。
台所内にはカサカサと這う音は聞こえるので確実にヤツはこの台所内に居る。
耳を澄ませシアキは音のする方角を探索する。
カサカサカサカサカサカサ。
音がする方角は野菜入れの箱の後ろ辺りだと目星を付ける。
忍び足で近づき箱と壁の隙間に黒光りするヤツを発見する。
だが思っていた以上よりもサイズが・・・デカかった!。
この世界の生物はサイズ感がおかしい事は既に把握済みなのでシアキは左程驚きはしなかった。
発見したヤツのサイズは、体長は十五センチ、横幅五~六センチ位前後である。
普通そんなサイズ感のヤツを目撃した者は嫌悪感を抱き先程のラフェルの様に混乱し取り乱すのであるが、はやりシアキは何も感じない様である。
「お!しっかし結構なデカさなやつだな。
これは叩き潰すと汁とか飛び散って後片付けが面倒そうだな。
そうなると箱か何かに一時的に生け捕りにし外で叩き潰すのがいいかな」
冷静討伐方法を考えながらシアキは生け捕りに使えそうな手頃な空き箱が無いか辺りを物色する。
捕獲出来そうな物はあったにはあったが、それは高さ三十センチ幅十センチの透明なガラスの花瓶であった。
「仕方ないこの花瓶に入れるしかないな、あとは蓋になる物、蓋になる物っと...」
何かで蓋をしようと考え、かまどの近くに木材の板切れがあったので、それを利用する事にした。
「よし準備できたし、あとは捕獲するだけだな」
野菜入れの箱と壁の隙間上部に、かまどから持ってきた木材で天井を作る。
出口に花瓶を横に向け仕掛ける。
もう片方を塞ぎ完全な出口一方通行なトンネルを作る。
後は箱を少しづつ動かすだけ。
見事に花瓶の中にデカいGが入った。すかさず蓋の板をかまし捕獲が完了する。
捕獲した花瓶を持ちリビングで待機するラフェルの下へ行く。
台所を出て、椅子の上でこちらを見ているラフェルに向け「捕獲したぞ」と伝えながら透明な花瓶の中に捕獲されているGを見せる。
それを見た瞬間、ラフェルは血の気を一気に引かせ顔を青ざめさせながら勢いよく椅子から飛び降りシアキから最も離れた室内奥の壁まで俊敏に逃げ去っていく。
大の字で壁にへばり付きながら早く外へ持って行けっと言わんばかりに玄関方向を顎を何度もしゃくりシアキの移動を促す。
「あぁ~わかった、わかった外へ持って行くから落ち着いてくれ。
持って行く前にこの花瓶の中に入る量の洗剤か石鹸を水に溶かした石鹸水を作ってくれないかな?。
流石にこの大きさだと外で叩き潰すにしても逃げられるかもしれないし、汁が飛び散って服が汚れるかも知らないからさ、出来ればこのまま溺死させてしまおうかと思うんだよ。
一応俺が作ってきてもいいんだが今は蓋をこうして抑えてて手がふさがってるからラフェルさんに作って来て欲しいんだがいいかな?。
それかラフェルさんがこれを持っててくれたら俺が作りに行くけど?どうかな」
青ざめた顔でラフェルは全力で首を横にぶんぶん振る。
「ぃ嫌です、そんなの持てません私!!絶対に持てませんから!!。
そのまま、そのままシアキさんが蓋をしっかり押さえて持っててください。
わ、わ、私が石鹸水を桶に沢山作ってきます。
すぐ作ってきますのでしっかり待っててください」
ガシャガシャと騒がしい防具が擦れあう音を立てながらトタトタトタと急ぎ足でラフェルは台所へと消えていった。
数秒後、石鹸水を作っているのだろう、台所から石鹸の良い香とジャブジャブジャブと石鹸を水の中で擦っている軽快な音が聞こえてくる。
音が鳴りやみ台所から石鹸水が入った桶を慎重に持ったラフェルが出てくる。
「作ってきした。シアキさん」
「じゃ~残りの準備物も全て持って一緒に外へ行こうっか」
Gがカサカサと動き回っている透明な花瓶を持ったままシアキはラフェルへと近づいて行く。
「シアキさん!!、それ以上、それをもって私に近づかないで下さい。
こっち来ないでください。
気持ち悪い!!。
どうぞ、どうぞ、残りの準備物は私が持って後から行きますので先に外へ行っててください」
希望通りにシアキはG入りの透明な花瓶だけを持ち先に外へ出る。
そして階段を下りて少し行った辺りで花瓶を地面に置き待機する。
玄関扉が開きラフェルが荷物を持ち出て来る。
「シアキさん、これを傍まで持っていきますがすぐに始めないで下さいよ。
私が玄関上まで逃げてから始めてくださいね。
絶対ですよ、絶対ですよ。」
「あぁ~わかってるって、大丈夫だから早く持ってきてくれ」
意を決し、ラフェルは石鹸水を零さない様に階段を慎重に降りてシアキの側に石鹸水入りの桶を置き終わると、一目散に玄関階段を駆け上がり安全を確保する。
「いいですよ。どぞ、やっちゃってください」
「いいですよ」宣言を聞き頷き、石鹸水の桶を右手に持ち、左手で蓋を少しずらし隙間を開けて石鹸水を流し込む。
用意された石鹸水は約八割程度の量しかなく花瓶内に僅かではあるが隙間が生まれる。
必死にGは呼吸門があるお尻部分をその僅かに出来た隙間にくるよう身をよじり調整をするがシアキはしっかり蓋を押さえGの呼吸門がある側に常に石鹸水が来る様に花瓶を回転させ調整をする。
一度でも呼吸もんがある個所が濡れてしまうとあとは簡単G数秒後には溺死し、あっけなくGの退治が完了する。
「もう退治出来たよ。さぁ~この調子でさっさとジャイアントラビットの退治もやってしまおうぜ~」
「!え、もう退治したんですか?。
そんな?すぐじゃないですか?本当にGは死んだんですよね?」
「あぁ~大丈夫、ちゃんと硬直してるしGは溺死したぞ。
ほらもう大丈夫だからラフェルさんこっち来て確認してみ」
意を決し恐る恐るラフェルはシアキの下へと近づき、地面に置かれている透明な花瓶の中で息絶えているGの姿を確認しホッとした表情を浮かべ尊敬の眼差しをシアキに向ける。
「すごいですシアキさん、コレ本当に死んでますよ。
あんな方法で死滅させれるだなんて私知りませんでしたよ。
あのGの姿を見て腰を抜かさず冷静に退治するだなんて尊敬します。
では、その花瓶は捨てるのでそのまま穴を掘って埋めちゃってください」
指示を受けたシアキは花瓶の横に穴を掘り、石鹸水の中で溺死しているGが入ったままの花瓶を穴に入れ土をかけて埋め戻す。
「いや~ラフェルさんの慌てふためく可愛い一面が見れて役得だったな~」
「何言ってるんですか!!あれは種族問わず皆の敵ですよ。
あんなのを見て平気で居られる方がおかしいんですよ...まぁ~これはもう忘れましょう、そして気を取り直しシアキさんの滞在権を掛けた挑戦に出かけましょう。
やり方とかの説明は着いてからにしますね。
では改めて出発しましょう」
「おう、行こう」
そしてラフェルの出発の合図を受け、シアキは頷き、二人は挑戦する為の目的地を目指して出発するのだった。
--- 5話目のみの後書き----------------------------------------
5話目最後まで読んでくださりありがとうございます。
どうでしたか?楽しんで頂けたならうれしいですが。
---余談---
シアキとラフェルの防具を付けた姿とかのイラストが欲しい所ですが、絵心はありませんので皆さんの想像で色々思い描いておいてください。
では、次6話目で、お会いしましょう。