プロローグ
人はなぜ、生まれるのだろうか。
生まれては死に、生まれては死に。
生きていた頃の記憶をなくしてまで。
せめて、生きていた頃の記憶があればいいのに。
そうしたら成長しているか、過去の過ちをまた繰り返していないか、分かるのに。
なぜ神様は、僕たちの記憶をいちいち消すのだろうか。
いや、前世の記憶がある人はいる。
だが、その人たちは自分だけが前世の記憶を持つがゆえに悩んでいる。
前世で知り合いだった人も、今ではただの他人。
前みたいな絆を戻すことは、安易ではない。
今の人生と、前の人生。
その二つに翻弄されながら、今を生きていくことになる。
それならいっそのこと、全部を忘れるか、覚えていたらいいのに。
今の世の中は曖昧すぎる。
ある人は覚えているのに、覚えていない人もいる。
そんな世の中、僕は嫌だ。
僕は前世の記憶がある。
前の知り合いに再開して嬉しいのに、相手は自分のことを覚えていない。
それを知るたびにショックを受けている自分。
だからこそ僕は、心を動かさないようにとしてきたのだ。
どんな時でも冷静に、落ち着いて、慌てず。
そして、そんな僕を周りの人は「冷たい」という。
理由があってこうしているのに、理由を聞こうともせずに、上辺だけで僕を決めつけたのだ。
正直、むかついた。
おまえらは、前世の記憶がないから呑気でいいよな、そう言いたくなった。
でも、もうそんなのには飽きてきた。
前世の記憶に振り回されるのは、もうこりごりだ。
だから、僕は祈った。
前世の記憶をみんなが持っているか、みんなが忘れている、そんな世界になりますように、って。