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「オルキデさん?」
ルルは、眠っているオルキデに駆け寄り、声を掛けた。
「…ふぁぁ、、むぐ?………ふ、フルールさん⁉︎」
オルキデさんは、起きるなり隣に積んであった本を取り落とす。
「あぁぁ」
崩れた本を必死で、抑えようとするオルキデを見て、ルルはクスリと笑う。
すると、その一部始終を見ていた
イリスが、
「…何この頭弱そうな人」
ボソリと口にする。
オルキデとイリスの視線が交錯し、
「すみません、何しろ知識が少ないものでして」
と、オルキデは笑いながら言うが、
心なしかその笑顔は引きつって見える。イリスは、興味なさそうに
「ふーん……」
とだけ反応すると、そういえば、
とルルに向き直り、
「正面玄関の掲示板見た?」
と、聞く。
「いや、見てないけど…」
なんだろう、掲示板て。
何か、イベントあっただろうか?
「見た方がいいよ、じゃあ、僕用事あるから」
イリスは、そう言い残すと去って行った。
「なんだったんだろう…」
ルルの呟きに、オルキデが、
「とりあえず、見に行ったらどうですか?」
と、勧める。
「そう…ですよね……」
なんだか、嫌な予感しかしなかった。
ーー掲示板の前に立って、ルルは茫然とした。掲示板には、1枚の紙が貼られており、そこには、
[以下の者を、退学処分にする]
とあり、名前の欄には、
[フルール=スリジェ]
と、明記されていた。
「……⁉︎」
と、ルルは絶句する。魔力が高いだけで何も出来ない劣等生だから、いつか追い出されると思っていたけれど…。
よりによって、今とは…。
[なお、学内での行動においては、一週間の猶予期間を与える]
終わった。
「いつかはなると思ってたけど、本当に行くところなくなっちゃった…」
そう言って、項垂れていると、
「行くところがないのは、僕も同じですよ」
と、声を掛けられる。振り返ると、
「オルキデさん…何でここに?」
「いや、さっきのが気になって来ちゃいました」
オルキデが、穏やかに笑う。
「調べ物は済んだんですか?」
「まずまずですかね…なんか、もっと色んな世界を見た方がいいということは、分かったんですが」
「世界…ですか」
「自分が何者か、知りたいんです」
「……?」
ルルが首を傾げると、オルキデは
困ったように笑い、
「いえ、対したことではないんですがね。 何て言うんだろ、とっくに諦めても構わないことだけど、可能性を捨てたくはないんです」
と、決意に満ちた顔で言った。
「……私、いつも諦めてばかりだから、オルキデさんは凄いですね」
「そんなことないですよ、知らないことがあるのは当然ですし、世界はもっと広いですから、諦めなければ居場所は見つかります」
そんな風に考えたことなかった…。
「私、荷物まとめてきます」
「え?」
「自分のこと、ちゃんと考えてみたいです」
そう言ってルルは、足早に寮へ向かった。そんな後ろ姿をオルキデは静かに見送った。
(とにかく、考えるのは苦手だけど、考えよう!答えは、きっと見つかるはず!)
そう思いながら、裏庭を抜けようとした時だった。
「あれー?落ちこぼれのルルちゃんじゃん」
と、声を掛けられハッとする。
声のする方に恐る恐る視線を向けると、私のことをよく思っていない3人組の女子がいた。
「…うっ」
この学校でイリスくんの次ぐらいに、
会うと面倒な人達だ。
「ルルちゃん、退学になったんだって?可哀想〜」
私から見て右側の子が言う。
あなたたちに、話しかけられる方が
可哀想だよ。
「送別会は出来ないけど、餞別くらいはあげるわ」
真ん中にいた子がそう言ったかと思うと、おもむろに杖を取り出す。
嫌な予感しかしない、今日はとんだ厄日だ。
あれ、厄日の意味あってる?
なんて思っている間に、
杖の先が光を帯び、呪文を唱え始める。
(まずい、この感じは攻撃系の魔法な気がする……!)
こんな時に、魔法が使えたら…。
その時、
「学園内での、授業以外での魔法は禁じられていますよ?」
鈴の転がるような、綺麗な声がしたと思うと、続けて、
「その魔法は、発動する5秒前に自分の半径1.5mに飛び込んできたモノに対して対処出来ない弱点があるのと同時に、懐がガラ空きになるリスクがありますよ?」
と、言ったが早く、いつの間にか可憐な少女が杖を持つ子の懐に潜り込み、
白刃の刀を差し向ける。
勿論、威圧目的の寸止めだが、
差し向けられた当人の顔は青ざめる。
「魔法を学ぶ者なら、それを踏まえて行動するべきではありませんか?」
少女は、ニコリと笑う。
3人組は、皆一様にコクリコクリと頷くと何も言わず走って行った。
しかも、途中でコケている。
私は安堵のためか、その場にへたり込んでしまった。
間に入った少女は、刀を鞘に収めると、私に向き直り、
「大丈夫ですか?もしかして、立てませんか?」
と、笑顔で手を差し伸べる。
その笑顔がまた、可憐で可愛らしい。
「大丈夫…それより、あなたは学生さん……?」
少女の手を取り、私は立ち上がりながら問う。彼女の服装は制服だが、この学校に刀を持っている人がいるとは聞いたことがない。ましてや、こんなに可愛い子なら評判になるだろう。
彼女は、思い出したように
「これを首にさげてくれと言われたのを忘れていました」
と言って、[只今警備巡回中]と書かれたカードを見せた。
「警備員さん…?」
には、全然見えない。
「旅をしております旅人です、あ、今日は警備していますから、警備員ですね。戦闘慣れしてるので採用されました」
少女はニコリと笑った。
(なんかこの子、強くて優しくて可愛い…!)
この出会いは、偶然だったのか。
あるいは必然だったのか。
それを2人が、いや、仲間達が知ること
になるのはもう少し先のことになる………。






