プロローグ
VRMMORPG Various WorldはVRで作られたオンラインゲームの中でも一際人気のあるものだ。その理由は、このゲームには様々な世界、ジャンルがあるからだ。例えばドラゴンやエルフといったファンタジー、車が空を飛ぶ機械文明が発達した未来の世界、現実の世界をほぼそのまま、なんてものもある。そしてそういった世界たちは日々、拡大または作られ続けている。人の記憶から――――。
このネットゲームは人の記憶から作られている。例えば自分が想像した中世的なお城や神秘的な水の都などこれらを、ゲームを開始する際に装着するヘッドギアが読み取り、ゲームの中に反映させる。中には自分の記憶が見られるのが嫌だというプレイヤーもいるので、記憶の読み取りの有無を設定できるようになっている。余談だが自分の家とほぼ同じものを見つけたときは驚き、子供の頃に家の木柱に付けた痕が残っているのにはすごい再現度だと感心した。
そんなこんなで「Various World」はVRMMORPGの中でもトップクラスの知名度となっている。
知名度が高いこととVR技術が注目されていたため、名前くらいは私も知っていた。しかし知っていただけで、実際にプレイすることはないだろうと思っていた。友人に誘われるまでは……。
私こと若槻優が「Various World」を始めることになったのは学友の中でも特に中の良い和泉菜々美に誘われたからだ。
あれは大学の学食でAランチ(週ごとにメニューが変わり安くて上手い)を食べ終え、食後のコーヒーを菜々美と一緒に飲み他愛もない話をしながら過ごしていたときだった。
「そうそう私ヘッドギア当たったんだよ」
菜々美がおっとりした声で言う。
「……格闘技するの?」
ヘッドギアと聞いたら格闘技などで着用する物が一番に思い浮かんだ。
「違うよー優ちゃん、VRを使ったゲームをするためのやつだよ」
ヘッドギアだけじゃわからないと思う……。ちなみに正式名称はVRとヘッドギアをくっつけただけのVRヘッドギアである。
「何かのイベントで当たったとか?」
「うん、ネットのキャンペーンでね応募したら見事、当たっちゃった」
運が良いなと思う。普通に買うと四、五万円するものであり、割と高価である。
「ついにネトゲデビュー?」
ゲーム専用のヘッドギアのため、使わなければ宝の持ち腐れである。
ちなみに一度、使用してしまうと個人情報などを記録されるため、他者が使用することはできないし、転売もできない。フォーマットしデータを初期化することができるが、業者に頼まなければいけないうえに、お金がかかる。
「うーん、始めたいんだけどねやっぱり一人だと不安というか……」
私にもやれと……。
「次に来る言葉が分かる気がする……」
というか確定だろう。
「予想通りだと思うけど、一緒にやらない?」
予想通りだった。しかしヘッドギアを買うのに、お金がかかる。まぁ高校時代から社会経験と称してバイトを始め特に使う当てもなく、お金は貯めてきたからいいけど……。
ふと思う。もしかしてヘッドギアが二個当たったのではないかと。
「ヘッドギア二個当たったの?」
「いや一個だけど」
即答だった。少しは悩んでもいいと思う。
「私に買えと……」
「ちょうど入学してから三か月経ったし、大分落ち着いたでしょ?ここらで何かしら娯楽に手を出してもいいと思うんだけど」
確かに入学当初は大学のことしかり初めての一人暮らしでドタバタしていた。特にサークルに入っているわけでもなく、恋人がいるわけでもない、ただ学生生活を続けるだけだった。
確かに「楽しみ」というのは学生生活で大事なものだと思う。それがネトゲというものあれだが……。
「ん、分かった。それじゃあ今日の講義が終わったら、買いに行くから付き合ってもらっていい……?」
「もちろん!」
こうして私は人生初のネットゲームをすることになったのだった。
大型家電量販店でお目当てのVRヘッドギアを購入し帰路に就いている途中で気になったことがあったので、聞いてみた。
「菜々美、ネットゲームってたくさんあると思うけど、どんなゲームをするの?」
「Various Worldっていうゲームをやろうかと思うの」
ヴァリアスワールド?
「……様々な世界?」
「うん、VRを使ったネットゲームの中でも、すごい人気があるんだよ! CMとか見たことない?」
たしか会員数No1とかそんな謳い文句だったと思う。
「分かった、今日から始める?」
「19時頃から始めよ、最初はチュートリアル専用のフィールドに飛ばされるらしいからそこで落ち合おう」
「名前や見た目はどうするの? たぶん一目じゃわからない」
「見た目はほとんど変えないね、髪の色を変えるくらいかな」
「じゃあ私もそうする、名前のほうは……?」
「実名からちょっと変えるくらいにするよ」
「わかった」
歩いているうちに自宅に就いたので菜々美と別れる。
「じゃあ今日の19時頃だからねー、忘れないでね」
「ん、じゃあ19時頃にまた」
菜々美を見送りながら、自分のキャラクターの名前と容姿を考えながら優は自宅に入っていった。
次回からゲームの話に入ります。