お化けの血は赤いんだ。
「私、りかちゃん。今あなたのマンションの一階にいるわ」
ティーシャツに短パン姿のまま携帯を手に立ち尽くしてしまう。出なければよかった。今更ながらの後悔。
今まで幽霊の類いには縁がなかった。
なのに、何故。
今まで幽霊は信じてなかった。いや、今も信じてない。今日に限ってだ。オカルトオタクに怖い話を聞かされたばかりだ。そして、両親は居ないと来た。タイミングが良すぎる。勘弁してほしい。
僕は、マンション四階の部屋住んでいる。後、三階。
勉強部屋から木刀を持ち出し、携帯をポケットに入れて、マンションの廊下に出た。確認をしてやろう。
これでも剣道は二段。棒を持てば三倍段効果で普段の六倍は強い。
夏のはずだが、廊下は妙に涼しかった。夕暮れの郊外は、静かだ。が、逆にそれが不気味だ。
階段を降りる。足音が響く。三階の廊下に出た頃だ。着信音が走る。淡く光る携帯を耳に当てた。
「あたし、めりーさん今あなたのマンションの二階にいるよ」
プツリ、という音だけ残った。めりーさんも居る?二人のお化け。畜生。性質が悪い。
ズズ……カッ。ズズ……カッ。
二階から。まずいまずいまずいまずい。なにか悪いことしたっけ?音が二階の階段の方に徐々に近づいていく。 排水用のパイプが目にはいる。これなら下まで降りれそうだ。運動神経には自信があった。身をのりだし、パイプをつかむ。強度に問題はない。するすると、猿のように下っていく。
一寸、二階の様子が目にはいった。三階に向かう階段に何か居た。
三本足のりかちゃん人形。成人並みの大きさだ。めりーさんらしき人?は居ない。りかちゃんは、三本ある足の内、真ん中の足を引きずっていた。着せられた服はぼろぼろだ。「あ゛あ゛あ゛」という不気味な声を発している。身の危険を感じ、気づかれないようにそっと降りた。
まじでおった。マジでおった!?恐怖半分、興奮半分。
地面に足が着いた途端のコール音。りかちゃんが三階に登ったのだろう。
「あたし、りかちゃん。今三階よ。楽しみにしててね」
ふぅ、と一息ついた。
「はいはい」
降りたことによって、心に少しだけ余裕ができた。馬鹿でよかった。電話が切れる。しばらく時間は稼げそうだ。木刀を脇に挟む。
歩きながらオカルトオタクの携帯の番号を押す。スリーコールが長く感じれた。
「はいもしもし」
棒読みだ。
「おい、りかちゃんが家に来た! 電話の怪談の!」
自分でも興奮と恐怖が押さえられなかった。空気が変わった。
「ほんと?」
「ああ、今逃げてるんだ」
「それは面白い。自転車で?」
「あ」
自転車という移動手段があった。人気の無い路地まで来ている。今さら戻る気にはなれない。
「馬鹿だね」
「馬鹿でも良いよ……。家、行っていい?」
一瞬なにかを考えるような間が流れた。
「いいとも」
ここから三十分はかかるが、文句は言えない。僕の周りには何故か様々なオタク友達が集まる。類友とは言わないでほしい。切った。その時、また電話がかかってきた。
「あたしメリーざん。だましだわねえええええええええええええええええええええええ」
めりーさんが狂った。渦渦しい声。その声のは背後に、もうひとつの叫びが聞こえた。怒り狂っているのがわかる。マンションの住民は気付いてくれないのだろうか。大分インターバルを得た。小走りでいけば余裕だろう。
「ばーか」
沈黙が時を埋める。機械が壊れた音がし、通話が切れた。携帯をポケットにしまい、駆け出す。十秒もせずに、またコール。
「え?」
出る。
「あたしりかちゃん。今マンションの一階よ」
切れた。早い。そして速い。悪寒が背中を舐める。気づいたら全力疾走していた。全力疾走を続けられれば、十分あれば着く。舐めていた。お化けを舐めていた。
部活をやっていても、思考に体は着いていかない。二分くらい走っただけで息が切れていた。膝に手をつき酸素をむさぼる。冷たい着信音。
「はい……」
喉がからからで掠れている。
「めりーさんの携帯が壊れちゃったからりかちゃんが代行するわ。さっき、一瞬あなたの姿が見えたわ」
塀に挟まれた一本道。りかちゃんらしき姿はない。膝に活をいれ走り出す。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいばかとかいってごめんなさい」
「待っててね!」
嬉しそうだ。電話が切れた。肺が潰れそうだ。死ぬ?死ぬ!?
「あがあああああああああ」
奇声。振り向きたくなかった。携帯が鳴っている。耳元にあて、必死になって叫んだ。
「やめてくださいごめんなさいかんべんしてくださいもうばかなんていいませんから」
「わああああたああああしいいいいりいいいいかああああちゃああああん」
足が止まった。動かない。嘘だ。背後に何かが立つ気配。
「今……あなたの後ろよ」
携帯が手から離れた。
「やめてくれっ!」
一閃。
がむしゃらに木刀を振り抜いた。瓦礫を崩したような崩壊音。後ろを振り向く。崩れた人形。足が三本あった。まだ動いている。たすか……。
「後ろの正面だあれ?」
透き通るような声。めりーさん。先ほどとは声色がまるで違う。ひんやりとした物が首筋に当たる。
なんだ、これ?死神の持つ鎌?
パン。
刹那、乾いた音が響いた。聞きなれない音だが、予想はついた。銃の発砲だ。背後に何かが倒れた。
「本当にいるんだね。化け物」
「初めて見たよ」
「改造エアガン、効くんだね」
「メリーさんは、急に現れたね」
「解剖をしたい」
声にようやく振り向いた。一本道の終わりから七、八人のオタク友達が現れた。そのうち一人が、改造エアガンらしきものを持っている。そして、僕の側には鎌をもった女が倒れていた。めりーさんだ。背中の撃たれた部分からは青い血が流れ出ていた。
お化けの血は青いんだ。
誰かがそう言った。
手にぬめりがある。わずかに血を浴びたらしい。恐ろしいまでの青。
唖然とする僕の元にオカルト友達が駆け寄ってきた。昔から相変わらずの怪しげな黒服だが、安心のためか体の芯から力が抜けていく。手から木刀が抜けた。
「もう大丈夫。あとは僕たちが始末するから」
始末?
言葉に違和感があった。オカルトオタクの顔が醜く歪む。
「一番もらいっ!」
動かなくなっためりーさんにメスを取り出し飛び付いた。
「あ、ずるい。俺も」
「じゃ、りかちゃんの写真を……」
「悪いが、俺も観察する」
ピラニアを連想させる。お化けの二人に飛びかかった。おかしい、狂っている。
「何してるんだ!?」
オカルトオタクの肩を掴んだ。
「はなせっ! 化け物の生態を解明するんだ!」
その表情は化け物じみていた。
「やめるんだ」
「邪魔」
冷たい言葉がはなたれた。オカルトオタクの右腕が動く。メスが僕の首元を抉った。僕を地面が出迎えてくれた。肺から空気が抜けていく。醜い複数の顔が目に映った。薄れ行く意識の中。
僕は、どっちが本当のお化けかわからなくなった。
こんばんは。月は雲に隠れております。いい感じの暗闇です。
僕は、お化けとかの存在をわりと信じる方ですが、見た事はないんですよね……残念ながら。話せたらどんな感じなのでしょうか。僕は、楽しそうだと思いますね。何処でも気軽に話せたりして。
そして、謝りたいことがあります。
オタク=気違いのように書かれていますが、作品上こうしたかったのです。申し訳ないと思います。
後、壊れ過ぎたメリーさんとりかちゃん御免なさい。




