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現代最強呪術使い、鶴破下郎  作者: もふもふ男爵


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三重苦、醜太朗・弍 「怨霊の雪崩」

「ごめん、私はムリ……あの日から毎晩アイツが夢に出てきて飛び起きるの。もう一度自分から、アイツの前に向かうなんて考えられない……!」


 そう言った和子の体は小さく震えていた。


「いや、それでいいんだ。今回の戦い、たとえ勝てたとしても全員が生きて帰れるとは限らない。そして、そんなことはお構いなしに、明日からもザコ怨霊は沸き続けるだろう。残って次に備えるというのも、誰かがやらねばならん大事な役目だ」


 そう言って下郎は、和子の頭に優しく手を置いた。 


「あぁ、そうだね。でも下郎くん、君は一人で背負い込もうとし過ぎだよ。醜太朗生み出した責任というが、君自身にはなんの罪もないんだ。それでも、醜太朗は止めなければいけないがね? でも、それは君一人じゃなくて僕ら四人でだ!」


 そう言うと、保人組合長は下郎と蒼介、二人の手を固く握る。


「あれ? 待ってください。作戦に参加するS級は三人なんですよね? てっきり保人組合長が不参加なのかと思ってましたけど……?」


「悪いな蒼介。今回不参加なのは俺だよ」


 蒼介が振り返ると、そこには派手な金髪にスーツ姿のホスト風の男が立っていた。


「か、薫兄さん……でもどうして? 薫兄さんの呪いの強さなら醜太朗にだって通用するはず」


 そう言いながらも蒼介は目を逸らす。


「俺の呪いは奴には効かねえよ。醜太朗って奴はワキガ持ちなんだろ? ワキガ持ちにとってワキガの匂いはただの日常! つまり、ワキガ持ち同士はお互いに有効打を持たない」


「……! でもそれなら、醜太朗の呪いだって薫兄さんは無効化できるってことですよね? それだけでも……」


「馬鹿かオメェ? そこまでして俺が行くくらいなら、適当な戦闘向きの呪い持ちが鼻栓して戦ったがマシだろ?」


 脇宮の言葉に驚いた蒼介は下郎を見る。


「えっ? 鼻栓? そんなんで防げるんですか?」


「あぁ、完全じゃないがある程度はな。この前だって、和子の様子を見て慌ててティッシュ詰めて戦ったから匂いは防げてたんだぞ?」


 自分の鼻を指さしながら下郎は言う。


「そう言うわけで、悔しいが俺は今回戦力外だ、だから……下郎さん、蒼介のことよろしくお願いします! 図体はデカくなっても、俺にとっちゃ可愛い弟分なんっす!」


 そう言って、脇宮は下郎に対して深々と頭を下げる。


「よせ! 脇宮! そっちだって他のS級が抜けた穴を一人で埋めることになったんだ! 危険なのはお互い様だろう? だが、蒼介のことは任されておこう」


「蒼介! 死ぬんじゃねぇぞ……?」


 脇宮は、下郎と熱い握手を交わした後、去っていった。


「何よあんた? 露骨に嫌そうにしてるから仲悪いのかと思ったら……そう言うわけでもないみたいじゃない?」


 去っていく脇宮の背中を見ながら、和子はそんなことを言った。


「いや、まあ……いい人なんですけどね……ただあの人の匂い、目にまで染みるんですよ……」


*****************


 数時間後、夕日も沈み終え、あたりも徐々に暗くなっていく中、下郎と蒼介は例の廃墟の前の茂みに身を隠していた。


「保人組合長、一人で大丈夫でしょうか? 上手くいけば誰も血を流さずに済むって言ってましたけど」


 屈んだまま、小声で下郎に尋ねる蒼介。


「そうだな……だが、怨霊退治にあまり向かない保人組合長がS級に認定されたのは、ひとえにその隠密能力の高さ故だ。保人組合長がその気になれば、この世に暗殺できない人物など存在しないだろうからな」


 保人昭次の呪い、『|子供の頃しか見えない存在リトル・フェアリー』。その効果は完全隠密。本人から自分の居場所を教えない限り、よほどのことがなければ相手から認識されることはない。


 しかし、その希望はすぐに潰えることになった。


 ドンッ! と音を立て、ドアが内側から蹴破られると、中から一人の小男が出てきた。左手に血まみれの保人組合長を引きずりながら。


「やっぱりオメェらか! 来ると思ってたぜ鶴破! だが甘ぇんじゃねーか? コイツの呪いは通用しねぇーよ! 俺も『同じ目線を持つ者』なんだからな!」


 そう言いながら醜太朗は、血まみれの保人組合長を茂みに隠れた下郎と蒼介に向かって投げて寄越す。


「保人組合長! おのれ醜太朗! だが今回はこの前のようにはいかんぞ! たとえ刺し違えてもお前を止める!」


「威勢だけはいいな鶴破ァ! だが俺がなんの準備もしてなかったと思うか?! 怨霊どもよ! 俺たちの悲願の為、今こそ力を貸せ!!!」


 醜太朗がそう叫ぶと同時に、屋敷中の窓が割れ、さらには後ろの雑木林からまで、怨霊たちが飛び出す。


 下郎と蒼介が苦戦しながらも討伐したチー牛鬼から、見たこともないものまで、さまざま種類の怨霊が雪崩となって下郎と蒼介を襲う!


「うわあぁぁ! 下郎さん! どうにかしてください!」


 あまりの光景に、目を覆い叫ぶ蒼介。しかし、その雪崩が蒼介たちに到達する事はなかった。


「…………? えっ? 凍ってる……?」


「ふぅ……助かったぞ? 宗岡」


 下郎の視線の先には、美しい着物姿の女が佇んでいる。そして、その女性を境界とするように、怨霊たちの群れは凍りついていた。


「別に貴方達を助けた訳じゃないわよ」


「な、なんですかこれ! あの数の怨霊たちが全部凍ってる?! いくらS級と言っても規格外過ぎませんか?!」


 宗岡麗華の呪い、『(ゼロ)』。触れた対象から、速度や温度など、任意のものをゼロにすることができる。彼女が一度触れた空気は、凍てつく風となり敵を襲う。


 宗岡家の呪いは本来、こんなに強力なものではない。彼女の能力がここまで強大なものになったのには、二つの理由がある。


 一つ目は、彼女は本来、少なからず持って生まれるはずのものを全く持たずに生まれてきたこと。つまり、彼女の胸は貧乳というレベルではなく、全くのゼロなのである。


 だが、本来貧乳とはそこまで強い呪いではない。なぜなら、この世には『貧乳派』という者達が存在するからである。だが、彼女は男へ深い憎しみを宿すことにより、自ら到達者へと成った。それこそが二つ目の理由だ。


「あれは、高校ニ年の時だったわ。初めての彼氏ができたの。でもその日のうちに知ってしまった。アイツは小学生以下にしか興奮できない変態で、私の胸だけみて告白してきていたという事を」


 そう言った宗岡の表情は僅かに歪む。


「そしてあれは私が大学を卒業して、一般企業に就職した時だったわ。同期の中で私が一番、幼くて大人しく見えたんでしょうね。油ぎったキモい親父が、私をターゲットにセクハラしてきたわ。勿論両方とも、その日のうちに氷漬けにしてやったわよ? でもそれで分かったの。男なんて、女を顔と胸でしか見てないのよ……男なんて……男なんてぇーーー!!!」


 突然、激昂した宗岡は、大扇子を取り出し、残った怨霊を次々と氷像に変えていく。


「ヒッ! さ、さっきの完全にこっちを狙ってませんでしたか?!」


「い、いかん! この場は宗岡に任せて、俺たちは逃げた醜太朗を追うぞ!」


「あっ! アイツいつの間に!」


 下郎達は、一目散に逃げ出した醜太朗の後を追う。


*****************


「はあっ……はあっ……追い詰めたぞ醜太朗! 大人しく投降しろ!」


 下郎と蒼介は、醜太朗を古い駅のターミナルにまで追い詰めた。四方をフェンスに覆われた醜太朗に逃げ場はないように思われたが……


「ぜぇ……ぜぇ……お、追い詰めただと? 違うな! 俺の目的地はここだったんだよ! コイツだけは俺の屋敷に呼ぶことができなかったんだ! テツオくん! 出番だぞ!」


 そう叫ぶと、醜太朗は取り出した笛を吹く。


 ぴぃぃぃ!! あたりに笛の音が鳴り響く。


「ガタンゴトン、ガタンゴトン、まもなくぅ電車が到着します。皆様ぁ黄色い線の内側まで下がってお待ちください」


 どこからともなく、駅のアナウンスのような声が聞こえてきた。


「なんだ、この声? 黄色い線なんてどこに……?」


 声の主を突き止めようとあたりを見回す蒼介と下郎。


 その時、下郎と蒼介の二人から、醜太朗を遠ざけるように、フェンスを突き破り土煙を上げながら一体の怨霊が現れた。

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