笛吹き男・中
「いました! あの車じゃないですか?! 高速に乗ろうとしてますっ!」
「よし、まだ気づかれてはないわね? 慎重に追うから蒼介は組合と警察に連絡しなさい!」
誘拐犯になんとか追いついた蒼介と和子。しかし、ノーヘルの女子高生が運転し、若い男が後ろに乗る無骨なバイクは、明らかに周りから浮き目立っていた。
「あっ、やべっ! さっきの小さいおじさんと目が合いました! 気づかれたかも知れません!」
気づいた時にはもう遅く、白いワゴン車は荒っぽい運転で強引に前に進み、こちらを引き離しにかかってきた。
「あぁっ! もうっ! アジトまで尾行してやろうと思ってたけど、こうなったら強引に捕えるわよ!」
和子がバイクのハンドルを捻ると、それまでとは比べ物にならない速度でワゴン車との距離が縮まっていく。
「小さいおじさん! 顔を出しました!」
「待ちなさいっ! アンタたち今話題の連続少女失踪事件の犯人ね! そんな小さい子供達さらってどうする気よ!」
後部座席の窓から顔を出した、小さいおじさんに対して対話を試みる和子。
「うるせえぇぇぇ!!! お前ら一体なんなんだよっ! さっきから付き纏いやがって! お前みたいな年増はお呼びじゃねぇーんだよ!」
最後の一言。その余計な一言を和子は聞き逃さなかった。
「誰が年増じゃボケェーーー!!! こちとらまだピチピチの17じゃこらあぁっっ!!」
和子はワゴン車の真横へと回り込むと、ドアをガシガシと蹴る。
「何してくれてんだこのババアッ!」
小さなおじさんは、最初に見た時吹いていたラッパのような笛を取り出すと、和子と蒼介にそれを向ける。
ブウオォォォォン!!
凄まじい轟音が響き、地面には大きなクレーターができていた。間一髪でその攻撃を躱した二人だが、その額には冷や汗が流れる。
「なっ、なんなんですかアレっ?! ラッパみたいなのを吹いたら! すごい威力でしたよ!」
「『笛吹き男』よ! 大昔に大勢の子供を連れて消えた謎の存在! その概念と小児性愛者の歪んだ魂が融合して生まれた上級怨霊!」
「じょ、上級……! 最低でもA級以上の呪術使いが討伐にあたると言うあの?!」
笛吹き男が笛を吹くたび、地面には大穴が開いていく。和子の操るバイクはそれを紙一重で躱し続ける。
「笛吹き男は後部座席から顔を出してる。という事は運転席にもう一人敵がいるはず。それもおそらく人間よ。蒼介、アンタ乗り込んでそいつを気絶させなさい!」
「ええっ?! 無茶言わないでください! それとなんで人間が怨霊に協力してるんですか?!」
和子は、バイクを右左と繰り返し移動させ、笛吹き男が反対側の窓に移動する隙をつき、フェイントをかけワゴン車の真横に回り込む事に成功した。
「あぁっ! もうっ! じゃあハンドル握ってなさい!」
そう言い放つと和子は、走り続けるワゴン車の窓目掛けて飛び込む!
「うわっ! なんだテメッ……」
直後、車内から男の絶叫が響く。しばらくするとワゴン車はよろよろと減速し、ついには街路樹にぶつかり停止した。
「ソ、ソフィーさん……? 無事ですか?!」
運転席と後部座席のドアが開き、笛吹き男と冴えない若い男が苦しみながら転げ落ちて来た。
「なっ……なんだよこれっ?! 苦しい……! 助け……」
そう言い残し、笛吹き男はボロボロと自壊し消滅した。その最後には、全身にブツブツとアザのようなものが浮かび上がり、この世のものとは思えぬほど恐ろしい形相を浮かべていた。
「ヒッ! い、いやだ! 死にたくない! 頼む助けてくれっ! 俺はまだ何もやってない!」
運転手の男は、降りてきた和子に縋り付くように命乞いする。
「うわっ! そ、その顔! このアザと同じ! まさかそばかす?!」
和子の顔を改めて見た運転手の男は腰を抜かし後退りする。
「あぁ、化粧が落ちちゃったのね。ねえアンタ? そばかすって感染ると思う?」
そう言いながら和子は、後退りする男に近づいていく。
「は、はぁ?! 感染るわけねえだろ?! なんなんだよ! 頼むから助けてくれよっ!」
そう聞いた和子は、いたずらっぽく笑って見せた。
「そう、感染らないの。でもね? 世の中にはそんな事も分からない馬鹿が大勢のいるの」
「だから……私のそばかすは感染るの。病院に行っても無駄よ? だってそばかすだから。効く薬なんてないわよ? だってそばかすだから。せいぜい、それが死病じゃない事を祈るのね」
曽場和子の呪い、『そばかす』。触れた対象にそばかすのようなアザを発生させる。アザの発生した対象は、頭痛、発熱、吐き気など感染症のような症状を発症する。人間と、ある程度の知能を持った人型の怨霊にしか通用せず、効果にも個人差が激しい。
怨霊を討伐し、協力者の人間も拘束することに成功した和子と蒼介。誘拐された少女たちを解放しようとしたその時、何者かの声が響いた。
「おい、ひとん家の前でうるせーぞお前ら」
廃墟のような洋館から出てきたその男は、少年のように背が低く、だらしのない体型にヨレヨレのスエット姿で、バーコードの様な頭髪を風にはためかせている。
「あー、この家の方ですか? すいません事故を起こしちゃいまして、すぐ警察が来ると思うので……」
男の醜さに一瞬戸惑いつつも、蒼介はいつもの調子で男にそれっぽい説明をして見せた。
「シュ、シュウタロウ様っ! コイツら! 俺たちのことを嗅ぎ回ってたみたいで! すいません!」
運転手の男は、バーコードハゲの小男をシュウタロウと呼び、以前から面識があった様子だ。蒼介と和子に再び緊張が走る!
「んなこたぁどうでもいいんだよ? 俺はよぉー? 確かに女でも攫ってこいって言ったぞ? なんなんだよっ! このガキ共はっ! 完全にお前らの趣味じゃねーかっ! 俺はムチムチのおねーさんが好みなんだよっ!」
徐々に語気を強めていった男は、最終的には激昂し運転手の男にその手をかざす。
すると突然、運転手の男は喉元を抑えて苦しみだした。真っ青だった顔色は、赤黒くまで変色している。
「そこまでだっ! ソイツは警察に引き渡して法で裁かれるべきだ! それに、こんな奴でも仲間だったんじゃないのかっ!」
蒼介は、シュウタロウと呼ばれた男の顔面目掛けて蹴りを放った。
「あ? なんだよテメェ?」
しかし、その蹴りは蒼介に対して圧倒的に体格で劣る、小男の短い左腕であっさりと止められてしまった。
「うっ! うわあぁぁぁ! あっ、足がっ!」
そのまま小男に握り締められた蒼介の足からは、メキメキと嫌な音を立て血が滴り落ちる。
「蒼介っ!」
小男は、蒼介を助けるため駆け出そうとした和子に右手を向ける。
「うがっ! い……息がっ!」
喉元を抑え苦しみ出す和子。その間も小男の左手は、蒼介の足をギリギリと締め付けて行く。
絶体絶命のピンチ! その時____




