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現代最強呪術使い、鶴破下郎  作者: もふもふ男爵


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チー牛鬼・上

 東京郊外にある、一般人にはまず知られていないある建物にこの日、一人の男が帰ってきた。


 男の名は、鶴破下郎(つるっぱげろう)。呪術協会御三家、『鶴破家(つるっぱげ)』(歴史的うんぬんかんぬんにより家をゲと読む)の当主にして、現代最強との呼び声も高い呪術使いだ。歳は四十五歳。しかし、その見事にハゲ上がった頭から、実際はもう少し上に見られる事が多い。着古した柔道着のズボンに、上は黒のインナーのみ。それがこの男の仕事着だ。


「おっ、ハゲ郎じゃ〜ん! ちょー久しぶり〜! てか、死んだんだと思ってた〜」


 下郎が建物に入ると真っ先に、甘ったるい若い女の声がその場に響いた。


「やかましいっ! 俺の名は下郎だっ! なんべん言ったら覚えんだこのバカ娘! 男漁りばっかりしてないで、少しは勉強しろ!」


 下郎に馴れ馴れしく近寄り、その禿頭をペチペチと叩いている女。女の名は曽場和子(そばかずこ)。下郎の元同僚の呪術使いであり、まだ現役の高校生だ。


「男漁りなんてしてませ〜ん! 私の貞操はお姉様に捧げてますぅ〜!」


 女は悪びれる様子もなく、唇を尖らせる。


「和子、おまえさんまだ高校生だろ? それなのに何だその頭は? それにその服もっ! チャラチャラしすぎな上に、スカートは短すぎるし胸元も開けすぎだっ!」


 また、ながったるい説教が始まると察知した和子は、すでにその場を離れていた。


「うっせー、は〜〜〜げっっ!! それに和子じゃねぇーっ! ソフィーと呼べ、この筋肉ハゲだるまっ!!」


 和子……もといソフィーのあまりの手に負えなさには、下郎も頭を抱える。


「まったく……昔はあんなんじゃなかったってのに……反抗期ってやつか?」


 その時、下郎のことを呼ぶ声が聞こえた。


「あぁ、下郎くん。来てくれたか」


 下郎は、声のした方を向いてみたものの、そこには誰もいない。


「ほら、下郎くん、こっちだよ! 声のする方を向いて? ほら、もう少し下だよ……うぅぅ何回目だねこのやりとり?」


「うわっ! 保人組合長(ほびとくみあいちょう)! そんな所におられましたかっ!」


 そこには、小学生ほどしかない、しょぼくれた小さなオジサンが立っていた。


「そんな所もなにも、私は普通に君に話しかけただけなんだけどね……」


 保人昭次(ほびとしょうじ)。下郎の元上司にして、この呪術組合を統べる最高責任者だ。


「まぁ何にせよ、君が戻ってきてくれて本当に助かったよ。今回の件にはすでにA級呪術使いが三人も犠牲になっている。S級にしか手に負えないが、私含め他のS級呪術使いはみんな別件にかかりきりでね」


 下郎は保人組合長から、『今回の件』の書類を受け取り目を通す。


「なるほど……牛鬼(ぎゅうき)か、それも複数体。確かに強力ですが、俺は引退した身ですよ? 出場(でば)はどうしたんです? 今回の相手には相性がいいし、戦闘だけならあいつはS級並ですよ?」


「元A級呪術使い、出場傑(でばすぐる)か……彼なら引退したよ。それも歯列矯正までしてね。もう彼には戦う力なんて無くなってしまった。呪術組合も万年人手不足でね……悪いが君に頼むほかなかったんだ」


 そう言った保人組合長は、どこか寂しげな目をしていた。


「それと今回の件、君のサポートに一人新人をつけさせてもらった。詳しい話は彼から聞いてくれたまえ」


 下郎は自身の頭をペチンと叩くと深くため息をつく。


「今回の件が終わったら、俺も植毛でもするかな……?」


 そんな下郎に後ろから、若く威勢のいい声が話しかける。


「S級呪術使いの鶴破さんですねっ?! 俺っ、去年呪術短大を卒業して今年からこの地区に配属されましたっ! 葦草蒼介(あしくさそうすけ)っていいます! 鶴破さんには憧れてました! 色々勉強させてもらいます! よろしくお願いします!」


 葦草蒼介と名乗ったその青年は、端正な顔つきに若者らしい明るい髪色で、爽やかな笑顔を浮かべていた。


「葦草……脇宮家の分家の葦草かっ! 宗二の息子だろ?! 小さい頃に会ってるはずだが、覚えてないか?! それにしてもデカくなったなぁ〜。やっぱりお前も足の臭いで戦うのか?!」


「えっ? 親父のことを知ってるんですか?! 戦い方は、もちろんです! 俺の呪いも親父と同じで、足の臭いなんで! まあ、まだ実習で低級怨霊相手と戦ったことしかないですが!」


「下郎でいいぞ! よろしく、蒼介! お前の親父とは同期でな、まあその話は道すがら話そう!」


 下郎と蒼介、親子ほども歳の離れた二人は固く握手を結ぶと、早速牛鬼の目撃された現場へと向かう。


***************


「怨霊が活発になるのは基本夜だ、なぜだか分かるか?」


 下郎の軽トラで、現場へと向かった二人は、日暮前にコンビニ弁当で夕食を済ませながら、雑談する。


「怨霊は、未練を残して死んだ人の魂が変異したもので隠の者故に光を嫌うから、ですか?」


「そうだ、怨霊になる奴は男女共に基本隠キャだ、だから人が寝静まった夜中に活発になる」


 そう言うと、下郎は最後の一口をペットボトルのお茶で流し込んだ。


「そして、今回の牛鬼だが……お前は『チー牛』と言う言葉を聞いたことはあるか?」


「チー牛ですか……? たしか、2020年代に流行したネットミームでしたっけ? でももう半世紀も前の話ですよ? それが今回の件とどう関係するんですか?」


 腑に落ちない様子の蒼介。


「バカ野郎っ! 短大で何を学んだんだっ! 怨霊は人が死んだ後、魂の変容した物だと言ったな? そして、チー牛と言う言葉が流行ったのが今から60年ほど前だ!」


 突然の下郎の怒声に驚きつつも、次第にその表情は納得に変わっていった。


「当時、チー牛とバカにされた人たちが二十歳前後だったとすると、今生きていれば八十歳程度……次第に寿命を迎えていってると言うことですか?!」


「そうだ! そしてこれがそのチー牛と呼ばれる男の画像だ」


 そう言うと、下郎は資料から一枚の写真を抜き出し、蒼介に手渡す。


「これは……確かに醜くはありますが、そんなにバカにされる程ですか……? このくらいの奴ならその辺にゴロゴロいますよ?」


 蒼介は首を傾げ下郎に質問する。


「そうだ、ゴロゴロいる。だからこそ目をつけられたんだろうよ。そしてこの、チー牛と言う言葉に、死後も囚われ続けた者たちの魂と、牛鬼と言う妖怪の概念が混じり合って生まれたのが、今回の討伐対象、『チー牛鬼(ちーぎゅうき)』だ!」


「目をつけられた? いったい誰にです?」


「人間は、自分より下を見つけて、自分はあいつより上だ、まだ大丈夫だと思いたがる生き物なんだよ。そろそろ時間だ、いくぞ!」


 そう言うと下郎は車から降り、すっかり日が暮れ、暗くなった田んぼ道を進む。夜の闇に紛れ蠢く怨霊を祓うために。

本作は毎日二十時、九話連続投稿予定です。

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