禁衛軍士官が見た青空に舞う鉄扇
挿絵の画像を作成する際には、「Ainova AI」と「Gemini AI」を使用させて頂きました。
私こと馬佳夕月、日中友好式典に参列される愛新覚羅永祥和碩親王殿下の警護に参加する事が出来て光栄の至りで御座います。
何しろ私が機動大隊の士官として所属する中華王朝禁衛軍は、中華王朝の王族である愛新覚羅氏の方々を御守りする為に存在するのですから。
中でも此度の警護対象である愛新覚羅永祥和碩親王殿下は実力も名声も共に屈指の有力若手王族であり、そのような尊い御方の護衛を任されるという事は「この者は禁衛軍士官として信頼に足る」という証でもあるのですよ。
そしてもう一つ光栄だったのは、我が中華王朝がその前身である大清帝国の時代から数えても史上初となる日本出身の巴図魯である吹田千里少佐と御一緒に警護にあたれた事ですね。
我が国の次期天子であらせられる愛新覚羅麗蘭第一王女殿下と瓜二つの容姿を活かす形で影武者として殿下の御命を御守りし、更には殿下の暗殺を企てていたテロ組織をも殲滅した。
この類稀なる功績により満洲語で「勇者」の意味を持つ巴図魯に叙任された訳ですが、実際にお会いした吹田千里少佐は至って慎ましやかで謙虚な日本人女性だったのです。
「春秋戦国時代の烈士である豫譲は『士は己を知る者の為に死す』という言葉を残しました。私も日本の公安職として、そして愛新覚羅麗蘭第一王女殿下の臣下として、命を賭して大任を果たす所存に御座います。」
上品で洗練された所作と、一片の迷いもない忠義の高潔さ。
それは現代日本に生きる十代後半の少女というより、中華の歴代王朝に忠義を尽くした数多の武人達を思わせる物でしたよ。
そして長崎水辺の森公園に設営された式典会場において披露された武術の冴えもまた、第一印象に勝るとも劣らない素晴らしい物で御座いました。
「むっ!」
抜けるような青空には不釣り合いにくぐもった銃声と、それから間髪入れずに鋭く鳴り響いた軽快な金属音。
それは和碩親王殿下を害そうと目論む凶賊の放った消音式狙撃銃の銃弾が、手首のスナップだけで軽々と振るわれた鉄扇により苦もなく弾き返された音だったのです。
「はっ!」
続いて雲一つない青空目掛けて巴図魯殿の手が伸びた次の瞬間、鈍い破壊音が空中で響いたのです。
「むっ…あれは!?」
ホルスターから抜いて構えた銃口の先には、半壊して歪つな姿になった戦闘ドローンがあるばかり。
小型機銃を搭載した戦闘ドローンは遂に一発も撃てないまま、ヨロヨロと高度を下げながら会場の外へと落ちていったのでした。
「良し…!」
その次の瞬間、青天の陽光を反射しながら美しい軌道を描いて落ちて来る物があり、巴図魯殿の開いた掌に静かに収まったのでした。
「そ、そんな…投げた鉄扇でドローンを撃墜するだなんて…」
それは余りにも予想外の光景ではありました。
しかしながら巴図魯殿がブーメランのように戻ってきた分も含めた二本の鉄扇を武器にして次々と敵を屠っている上は、それを真実と受け入れるより他は御座いません。
「総員、迎撃用意!巴図魯殿と連携して親王殿下を凶賊から御守りせよ!」
「はっ!承知しました、大隊長!」
幸いにして巴図魯殿の自在な鉄扇術が敵の体勢を崩していたので、我々禁衛軍と日本の公安組織は大きな危険もなく事件を解決する事が出来ましたよ。
時にはブーメランや特殊警棒として敵を仕留め、時にはシールドとして敵の弾丸や刃を退け。
鉄扇術を用いた優雅にして雄々しき戦いぶりは、さながら伝説に名高い花木蘭が時代を越えて現代に蘇ったかのようでしたよ。
こうしてテロ組織残党による友好式典襲撃事件は未遂に終わり、永祥殿下も返り血一滴浴びる事なくご無事な御姿を見せて下さったのです。
「む、むう…かたじけない事です。第一王女殿下に続き、私も貴女に救われましたな。」
「勿体ない御言葉で御座います、愛新覚羅永祥殿下。日本の公安職として、そして中華王朝の巴図魯として。私は当然の務めを果たしたまでの事で御座います。」
先程までの殺戮が夢幻であったかのような、優雅で洗練された長揖の拱手礼。
美しく組まれた指の上で莞爾と微笑まれた巴図魯殿の白い美貌は、さながら我等の頭上の青空の如く一片の曇りもなく澄み切っていたのでした。




