第7話 重ならない距離
秋の気配が、庭に落ち始めていた。
木々の色がわずかに変わり、
風が少し冷たくなる。
足音が一つ。
そして、もう一つ。
並んで歩く時間は、
季節が変わっても同じだった。
「外からの問い合わせが増えています」
彼が言う。
「聞いています」
私は答える。
象徴という言葉が、
いくつかの町で使われ始めているらしい。
私はそれを止めない。
広めもしない。
ただ、
距離を保つ。
午前、書斎にアレクシスが現れる。
「複数の地域が、あなたの名を掲げたいと」
掲げる。
私は静かに首を横に振る。
「必要ありません」
「理由を問われた場合は」
「個人名は、継続に向きません」
アレクシスは頷く。
それ以上の説明を求めない。
午後、港町のリナから便りが届く。
「新しい体制で進めています。
あなたの名前は出していません」
私はその一文を見て、
小さく息を吐く。
重ならない距離。
支えず、
背負わせない。
それが、彼女の選択だ。
夕方、庭に出る。
空は高く、
雲がゆっくり流れている。
「名を掲げないのですね」
彼が言う。
「掲げると、固定されます」
私は答える。
「固定されると、揺れなくなります」
揺れないものは、
やがて割れる。
私はそれを知っている。
夜、書斎で報告をまとめる。
各地は、
少しずつ違う進み方をしている。
同じ形ではない。
それでよい。
象徴は、
重なると重くなる。
私は重ならない。
各地が、
それぞれの重心を持つ。
私はその外側に立つ。
翌朝、南の町からも便りが届く。
「規模を広げますが、
決定は内部で」
私は封を閉じる。
重ならない距離は、
自立を促す。
庭へ出る。
足音が重なる。
「次は?」
彼が問う。
「まだ決めていません」
決めなくても、
問題はない。
距離は伸びる。
呼び名は増える。
けれど、
並びは変わらない。
私は思う。
象徴にされても、
基準にされても、
中心には立たない。
重ならないまま、
つながる。
それが、
今の私の選び方だった。




