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婚約破棄されたので距離を置いたら、なぜか周囲が過剰に優しくなりました ―悪役令嬢は何も取り戻さないと決めたのに、静かに溺愛されています―  作者: リリア・ノワール


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第6話 象徴の影

屋敷で過ごす朝は、遠方の町とは時間の流れが違う。


庭の空気は穏やかで、

石の小径は変わらない。


足音が一つ。

少し遅れて、もう一つ。


並んで歩く。


「南は順調のようですね」


彼が言う。


「小規模ですが、続いています」


私は答える。


それ以上の説明は要らない。


ここでは、私は基準ではない。

報告を求められる立場でもない。


ただ、並ぶ人だ。


午前、書斎で南の町と港町の記録を整理する。


二つの地域。

それぞれ異なる進み方。


だが共通しているのは、

“私がいなくても動いている”ということ。


机の端に置かれた便りを見つめる。


以前は、確認の文が多かった。


今は違う。


決定の報告が多い。


私はそれを誇らしくは思わない。

ただ、自然な経過だと受け取る。


午後、来客がある。


別の地域からの使者だ。


「あなたの方法を参考にしたい」


彼は丁寧に言う。


方法。


私は首を傾ける。


「方法というほどのものはありません」


「急がないことと、

 内部で決めることだけです」


使者は少し困ったように笑う。


「それが難しいのです」


私は穏やかに答える。


「難しいことは、外から渡せません」


使者は深く頭を下げる。


去り際、彼は言う。


「あなたは、象徴のような存在です」


私はその言葉を受け止め、

否定もしなかった。


象徴。


基準よりも、さらに抽象的な位置。


夜、庭に出る。


月明かりが小径を照らす。


「象徴だと言われました」


私は並びながら言う。


彼は一瞬だけ目を細める。


「重い言葉ですね」


「はい」


「どうされますか」


私は少し考える。


「何もしません」


象徴になろうともしない。

否定もしない。


固定しなければ、

重くはならない。


足音が重なる。


象徴にされても、

私は中心に立たない。


背景でいる。


人が自分で立つための、

静かな重心でいる。


それで十分だ。


翌朝、港町から新たな報告が届く。


「代表を交代しました」


内部での決定だ。


私は目を細める。


基準は、やがて不要になる。


象徴も、同じだ。


必要とされるあいだだけ、

背景にある。


並びは変わらない。


屋敷の庭では、

私は象徴ではない。


ただ、並ぶ人だ。


距離は伸び、

拠点は増え、

呼び名も増えた。


それでも、

立ち位置は一つ。


整わないまま、

動き続ける。


それが、

今の私の選び方だった。


数日後、南の町からも報せが届いた。


「試験運用を拡大します」


文面は簡潔で、

許可を求める色はない。


私はそれを読み、

机の端に置く。


象徴は、

指示を出す人ではない。


動き出した場が、

自分で判断できること。


それが何よりの証だ。


午後、書斎にアレクシスが訪れる。


彼は控えめに一礼する。


「最近、外部からのお問い合わせが増えております」


「どのような内容でしょう」


「あなたのお考えを、公式な指針としてまとめられないかと」


私はわずかに目を細める。


公式な指針。


それは、

形を固定することを意味する。


「必要ありません」


私は静かに答える。


「固定すると、止まります」


アレクシスは頷く。


「そのようにお伝えいたします」


彼は余計な言葉を足さない。


屋敷の庭に出る。


風は穏やかだ。


足音が重なる。


「指針を求められました」


私は並びながら言う。


「断られましたか」


「はい」


彼はわずかに笑う。


「当然の選択でしょう」


私は頷く。


象徴は、

明文化された瞬間に重くなる。


重くなれば、

人は自分で考えなくなる。


それは望まない。


夕暮れ、庭の木陰で足を止める。


私は思う。


数年前、

私は距離を取ることを覚えた。


今は、

象徴から距離を取っている。


必要とされても、

固定されない。


基準にされても、

中心に立たない。


夜、机に向かい、

今日の記録をまとめる。


「公式化せず」

「内部決定継続」


短い文で十分だ。


窓の外に星が見える。


呼び名は増えた。

象徴とも言われる。


けれど、

私は何者にもならない。


並ぶ人でいる。


それが、

重心を保つ方法だ。


翌朝、港町から再び便りが届く。


「新しい代表が自ら決定しました」


私は封を閉じ、

机の端に置く。


基準は、

やがて影になる。


影は、

光があるから生まれる。


私は光ではない。


ただ、

立つ位置を整える影でいる。


庭に出る。


足音が重なる。


象徴にされても、

並びは変わらない。


距離は伸び、

役割は増える。


それでも、

私は急がない。


整わないまま、

動き続ける。


それが、

今の私の立ち方だった。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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