第15話 揺れない庭
便りのない日から、さらに三日が過ぎた。
机の上は、静かなままだ。
私はそれを整え直しもせず、
そのままにしている。
動いているなら、
知らせは要らない。
それでも、
内側にわずかな揺れが残っていることは、
否定しなかった。
午前、庭に出る。
葉の影が小径に落ちている。
足音が一つ。
そして、もう一つ。
並んで歩く。
「静かですね」
彼が言う。
「ええ」
私は答える。
「問題がない証です」
「そうですね」
沈黙は心地よい。
以前なら、
この沈黙に意味を探したかもしれない。
今は探さない。
午後、書斎で書類を整理する。
港町の新体制。
南の町の拡張計画。
新興地域の制度案。
どれも、
私の名はない。
それでよい。
私はふと気づく。
便りがないことよりも、
私の判断が不要になったこと。
それが、
ほんの少しだけ、
空気を軽くしている。
夕方、庭に出る。
空は高い。
足音が重なる。
「必要とされなくなることは」
彼が静かに言う。
「怖いですか」
私は立ち止まる。
少し考える。
「いいえ」
嘘ではない。
「ただ、慣れていないだけです」
彼はわずかに笑う。
「慣れる必要はありますか」
私は首を傾ける。
「ありません」
必要とされるかどうかで、
並びは決まらない。
私は彼の隣に立っている。
それだけだ。
夜、机に向かう。
今日も報せはない。
私は紙に一行だけ書く。
「外部静穏」
静かであることを、
記録する。
窓を開けると、
夜風が入る。
私は思う。
基準にされ、
象徴と呼ばれ、
合理を問われ、
そして沈黙が訪れた。
揺れはあった。
けれど、
庭は揺れない。
並びは崩れない。
必要とされなくても、
私はここにいる。
役割が軽くなっても、
隣は変わらない。
私は静かに灯りを落とす。
揺れない庭。
それは、
依存でも、
象徴でもない。
ただ、
選び続けているということ。
それが、
今の私の立ち方だった。
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