第12話 合理の提案
港町から私の名が外れて、数日が過ぎた。
報せは変わらず届く。
だが、文面はより簡潔になった。
「決定済み」
「実施中」
確認はない。
相談もない。
私はそれを机の端に整えて置く。
午前、アレクシスが一枚の紹介状を持ってくる。
「新興地域の代表、セオドア・ヴェルク様が面会を希望されています」
私は名前を目で追う。
初めて聞く名だ。
「お通ししてください」
午後、書斎に現れた彼は、若い。
整った服装。
無駄のない動き。
視線は静かだが、鋭い。
「お時間をありがとうございます」
礼は丁寧だ。
私は向かいに座る。
「ご用件を」
「あなたの方法について、お話を伺いたく」
方法。
最近よく聞く言葉だ。
「急がないことと、内部決定を重んじること。
非常に理にかなっています」
彼は続ける。
「ですが、時間がかかりすぎる」
私は彼を見る。
否定ではない。
分析だ。
「制度として整備すれば、拡大は加速します」
彼の声は穏やかだ。
「あなたの名を正式な指針として掲げれば、
統一も容易です」
私は首を横に振る。
「統一は目的ではありません」
「ですが、ばらつきは効率を下げます」
彼の言葉は正しい。
合理的だ。
「効率は、常に最優先ではありません」
私は答える。
「急ぎすぎると、内部が育ちません」
彼は少しだけ沈黙する。
「内部が育つまで待つ必要はありますか」
問いは静かだ。
私は視線を落とす。
「あります」
短い答え。
彼はすぐに反論しない。
「あなたの方法は、美しい」
そう言った。
「ですが、再現性に欠けます」
私は微笑む。
「再現しなくてよいのです」
「各地が自分で決めればよい」
彼は目を細める。
「それでは、あなたが不要になります」
私は少しだけ息を吐く。
「それが理想です」
沈黙が落ちる。
彼は立ち上がる。
「理解しました」
だが、納得ではない。
「私は、より早い方法を試します」
挑戦ではない。
宣言でもない。
ただ、選択。
彼は礼をし、去る。
夕方、庭に出る。
足音が重なる。
「合理派ですか」
彼が言う。
「ええ。正しいことを言っていました」
「揺れましたか」
私は少し考える。
「少しだけ」
効率。
制度化。
再現性。
どれも魅力的だ。
けれど、
急げば余白は消える。
夜、机に向かう。
今日の記録を書く。
「合理提案あり」
「方針維持」
短い文。
私は思う。
私のやり方は、
古く見えるかもしれない。
遅く、
非効率で、
曖昧だ。
それでも、
内部で立つ人を増やす。
それが目的だ。
窓の外に夜が広がる。
名が外れ、
合理が訪れ、
次の世代が育つ。
世界は、私なしでも進む。
それでよい。
私は、
答えを渡さない人でいる。
並びは変わらない。
整わないまま、
動き続ける。
それが、
今の私の立ち方だった。
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