『異常は検出されませんでした』
特別な知識や前提は必要ありません。
深く考えず、会話のテンポだけ追ってもらえれば大丈夫です。
【検査室】
白い部屋。白い機械。
彼、座る。
機械「ピッ」
担当者「はい終わりです」
彼「早くないですか」
担当者「異常がなかったので」
彼「まだ何もしてないですよね」
担当者「ええ。何も起きていません」
彼「それで異常がないって?」
担当者「異常が起きていない、という異常が検出されませんでした」
彼「日本語合ってます?」
担当者「基準内です」
プリンター「ガガガ」
紙が出る。
紙【異常は検出されませんでした】
彼「これ、何を測ったんですか」
担当者「異常です」
彼「だからその異常って何を……」
担当者「検出できる異常です」
彼「検出できない異常は?」
担当者「検出されません」
彼「あるかもしれないじゃないですか」
担当者「あるかもしれませんね」
彼「じゃあ危険じゃないですか」
担当者「今のところ問題は起きていません」
彼「起きたら?」
担当者「検出されます」
彼「検出されたら?」
担当者「異常です」
彼「じゃあ今は?」
担当者「異常ではありません」
彼「怖くないですか、それ」
担当者「安心してください」
彼「何を根拠に」
担当者「異常は検出されませんでしたので」
彼「その紙、意味あります?」
担当者「あります」
彼「何の?」
担当者「異常がなかったという記録です」
彼「誰のための?」
担当者「異常がなかったという事実のためです」
彼「僕は?」
担当者「検査済みです」
彼「正常ですか」
担当者「正常という異常は検出されていません」
彼「……帰っていいですか」
担当者「問題ありません」
彼「それ、最高の褒め言葉じゃないですよね」
担当者「ありがとうございます」
彼「今、感謝される場面でした?」
担当者「感情は検査項目に含まれていません」
彼「じゃあ、僕が今モヤっとしてるのは?」
担当者「検出対象外です」
彼「便利ですね」
担当者「効率的です」
彼「じゃあこの検査、完璧じゃないですか」
担当者「はい。問題が起きない限り」
彼「問題が起きたら?」
担当者「想定内です」
彼「……」
担当者「次の方どうぞ」
彼、立ち上がる。
紙を見る。
紙【異常は検出されませんでした】
彼(小声)「異常ですね」
機械「ピッ」
暗転。
⸻
異常は検出されませんでした。
それ以上のことは、特にありません。




