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第5話「もう、隠さなくていいよ」

「ねえ」


 ある夜、変身解除の後、美咲さんが言った。

 まだ下着姿のまま、俺に抱きしめられている状態で。


「今日は……もう少し長く抱きしめてて」

「……はい」


 俺は美咲さんを抱きしめる腕に、力を込めた。


 彼女の体が、俺に密着する。

 柔らかい胸が、俺の胸に押し付けられる。

 弾力があって、温かくて、腕に絡みつくような感触。

 下着越しなのに、その形がはっきりと分かる。


 細い腰のくびれ。すべすべの背中。

 俺の手が、無意識に彼女の腰をなぞる。


「っ……」


 美咲さんが、小さく声を漏らした。


 彼女の太ももが、俺の脚に絡まっている。

 すべすべした肌の感触が、直に伝わってくる。

 お尻の丸みが、俺の腰に押し付けられている。


 ……やばい。

 また、あの問題が発生しそうになる。


「ねえ」

「は、はい?」

「……今日は、隠さなくていいよ」


 美咲さんが、俺を見上げた。

 潤んだ瞳。赤い頬。


「もう、恋人だから……」


 俺の心臓が、破裂しそうになった。


「でも……」

「……バカ。隠されてる方が、恥ずかしいの」


 美咲さんは、いたずらっぽく微笑んだ。


 俺は——その言葉に甘えることにした。


 彼女を抱きしめる腕に、力を込める。

 彼女の体が、より密着する。

 胸と胸。お腹とお腹。太ももと太もも。


 彼女の体温。彼女の匂い。彼女の心臓の音。

 全てが、愛おしかった。


「……好き」


 美咲さんが、俺の胸に顔を埋めたまま言った。


「俺も、好きです」

「……もっと」

「もっと?」

「もっと、抱きしめて」


 俺は言われるまま、彼女を強く抱きしめた。

 彼女の柔らかい体が、俺に押し付けられる。

 甘い香りが、鼻腔をくすぐる。


 美咲さんは俺の腕の中で、幸せそうに微笑んだ。


---


 そして——ある日のこと。


「久しぶり〜、美咲」


 美咲さんの部屋に、白いもふもふした生き物が現れた。

 猫のような、ウサギのような、よく分からない見た目。

 これが——キューエー。


「あ、キューエー。珍しいね、来るなんて」


 美咲さんは驚きつつも、どこか諦めた顔をしていた。


「いや〜、ちょっと契約更新の件でね。もうすぐ十一年目だから、継続の意思確認を——」

「継続します」

「あ、そう? 良かった〜。じゃ、書類はメールで送るから、電子署名しといてね」


 ……なんだその手続き。完全に業務連絡じゃないか。


「あ、そうそう」


 キューエーが、俺の方を見た。


「君が、美咲の彼氏?」

「あ、はい……」

「いいね〜。実は、君にもお願いがあるんだけど」


 嫌な予感がした。


「『魔法少年』のテストケース、やってみない?」


 ……やっぱりか。


「いや、俺二十七歳なんですけど。『魔法青年』じゃないですか?」

「あー、そこはまあ、ブランディングの問題でね。『少年』の方が響きがいいでしょ?」


 ブランディング……。


「でも、未成年じゃないのに……」

「いや、流石に、いきなり未成年をテストケースにするのは、コンプラ的に魔法務部からNGが出ちゃって」

「魔法務部……」

「成人男性で実績を作ってから、未成年に展開する予定なんだよね」


 つまり、俺は実験台ってことか。


「……なんか、釈然としないんですけど」

「まあまあ、美咲のサポートもできるし、いいことずくめだよ? 変身すれば体力使わないし」

「それは……まあ……」


 美咲さんを見ると、彼女は申し訳なさそうに、でもどこか期待するような目で俺を見ていた。


「……分かりました。やってみます」

「おっ、話が早い! じゃ、契約手続きは……」


 キューエーがステッキを振ろうとした。


「あ、ごめん。この後もう一件アポがあって。手続きはまた今度ね!」

「え、今やらないの?」

「うん、まだ用事があるからさ。じゃ、また連絡するね〜」


 キューエーは、そう言って窓から飛び去っていった。


「……なんだったんだ、今の」

「いつもああなの。だから放置されてたでしょ?」

「……そうですね」


 美咲さんは苦笑した。


 俺は——どうやら、魔法少年(?)になるらしい。

 衣装がどうなるのかは、まだ分からない。


 ……フリル付きじゃないことを祈ろう。


---


 魔法少女の正体が、隣の部屋のだらしないお姉さんだった。

 でも、そのギャップが——俺は大好きだった。


 これからも、俺は彼女を支えていく。

 魔法少女としても、だらしないお姉さんとしても。

 そして——俺の、大切な恋人として。


 ちなみに、変身解除の度に密着するのは、今も変わっていない。

 でも、今は——その時間が、俺たちの楽しみになっていた。


 ……そして、俺の「魔法少年」デビューは、また別の話。



【完】

【作者からのお願い】

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