第2話「だらしないお姉さんのお世話係になりました」
その日から、俺と月城さんの関係は少し変わった。
彼女が魔法少女だと知ってしまった以上、俺は協力することにした。
具体的には、彼女の生活をサポートすること。
ゴミ出し。洗濯。掃除。料理。
月城さんの代わりに、俺がやるようになった。
「ごめんね〜、いつも」
「いいですよ。魔法少女の活動で疲れてるんでしょう」
「うん……」
月城さんは申し訳なさそうにしていたが、俺は気にしなかった。
むしろ、彼女の役に立てることが嬉しかった。
---
ある日のこと。
月城さんが、ソファで寝落ちしていた。
「……すぅ……」
ジャージ姿で、だらしなく寝ている。
髪はボサボサ。口は半開き。
魔法少女とは思えない、完全に油断した姿だ。
「……月城さん、風邪ひきますよ」
俺は彼女を起こそうと、肩を叩いた。
すると——
「ん……」
月城さんが、俺の膝に頭を乗せてきた。
「っ……!」
寝ぼけているのか、そのまま俺の膝を枕にして眠り始めた。
彼女の顔が、俺の太ももに押し付けられている。
温かい息が、俺の脚にかかる。
銀髪が、俺の膝に広がっている。
……起こすべきか。
でも、気持ちよさそうに眠っている。
「……んにゃ……もう食べられない……」
寝言だ。
何を夢見てるんだ、この人。
「……カップ麺……もう一杯……」
食べ物の夢らしい。
魔法少女なのに、カップ麺の夢。
ギャップがすごい。
俺は笑いを堪えながら、彼女が起きるまで膝枕を続けた。
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また別の日。
俺が月城さんの部屋で掃除をしていたら、彼女がお風呂から上がってきた。
「あ〜、さっぱりした〜」
バスタオル一枚で。
「っ……!」
「あっ……!」
俺たちは同時に固まった。
月城さんの体が、バスタオル一枚で俺の目の前にある。
濡れた髪。上気した肌。肩から鎖骨にかけてのライン。
バスタオルは短くて、白い太ももがほとんど見えている。
胸元は辛うじて隠れているが、谷間の膨らみが強調されている。
「み、見ないで!」
「見てません! すみません!」
俺は慌てて後ろを向いた。
「な、なんでいるの!?」
「掃除してました! 言いましたよね!?」
「忘れてた〜!」
月城さんが悲鳴を上げながら、バタバタと別の部屋に逃げていった。
……心臓に悪い。
でも、見えてしまった。
濡れた肌。太もも。谷間。
網膜に焼き付いて離れない。
そして——俺の体は正直だった。
まずい。これは非常にまずい。
このままじゃ、月城さんが戻ってきた時にバレる。
俺は必死にクッションを手に取り、膝の上に置いた。
そして、素数を数え始めた。2、3、5、7、11、13……
「ごめんね〜、びっくりさせちゃって〜」
月城さんがジャージ姿で戻ってきた。
髪はまだ濡れている。良い匂いがする。
だめだ。余計に意識してしまう。
「だ、大丈夫です……」
「顔、真っ赤だよ?」
「き、気のせいです」
月城さんが俺の隣に座った。
近い。すごく近い。
お風呂上がりの肌。温かい体温。シャンプーの香り。
「ねえ、なんでクッション抱えてるの?」
「っ……!」
俺の心臓が止まりそうになった。
「い、いや、なんとなく……」
「変なの」
月城さんは不思議そうに首を傾げた。
気づいていない。たぶん、気づいていない。
「ていうか、なんかソワソワしてない?」
「してません!」
「本当に?」
彼女が俺の顔を覗き込んできた。
濡れた髪が、俺の肩に触れる。
顔が近い。すごく近い。
上気した肌。潤んだ唇。
「ほら、やっぱり顔赤い」
「き、気のせいです! ほら、俺、帰りますね!」
俺はクッションを腰に当てたまま、逃げるように部屋を出た。
「え、ちょっと、変だよ〜?」
月城さんの声が追いかけてくる。
俺は振り返らずに、自分の部屋に駆け込んだ。
……危なかった。
本当に危なかった。
クッションがなかったら、完全にバレていた。
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さらに別の日。
月城さんがカップ麺を作ろうとしていた。
「お湯入れて〜、三分待って〜」
彼女は鼻歌を歌いながら、お湯を注いだ。
そして——
「あっ」
蓋を開けずにお湯を注いでいた。
「……月城さん」
「……見なかったことにして」
「見ました」
「お願い……」
二十五歳のOL。
十年選手の魔法少女。
カップ麺の作り方で失敗する。
俺は笑いを堪えきれなかった。
「笑わないで!」
「すみません……でも……」
「うう……」
月城さんは真っ赤になって、カップ麺を抱えて部屋に逃げていった。
……かわいい。
この人、本当にかわいい。
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そして——問題が起きたのは、さらに一週間後のことだった。
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