表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放されたけど、最弱スキル〈保存庫〉で辺境スローライフ満喫します  作者: 妙原奇天


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/36

第8話 砦の決戦

 霧の向こうで角笛が鳴った。

 カーヴェル侯の騎士団が一斉に前進する。

 鎧の軋む音、馬の嘶き、矢をつがえる音。

 砦の石壁に立つ兵たちの顔はこわばり、それでも剣を握る手は震えていなかった。


「来るぞ!」

 見張りの声に、空気が震える。


 サラは灰色の瞳を光らせ、剣を掲げた。

「怯むな! 我らは食を守る者! 保存庫の力がある限り、飢えはしない!」


 その言葉に兵たちの声が重なった。

 歓声というよりは、必死に恐怖を押し返す雄叫び。

 胸の奥に熱が広がる。

 俺は城壁の影に立ち、〈保存庫〉を開いた。


 まず取り出したのは、干し草と油を染み込ませた袋。

 火矢に合わせて投げ放つと、白煙が立ち込め、視界を奪った。

 次に保存庫から香草粉と唐辛子を混ぜた小瓶を取り出し、投石機に括りつける。

 放たれた瓶が敵陣の中央で弾け、強烈な刺激臭が広がった。


「ぐっ……目がっ!」

「咳が止まらん!」


 騎士団が混乱する。

 その隙に砦の弓兵が一斉に矢を放った。

 鋼の雨が霧を裂き、敵の列を乱す。


 俺は息を切らしながらも、さらに保存庫に手を入れる。

 昨日仕込んでおいた肉と麦を取り出し、炊き場の兵に渡した。


「すぐに煮ろ! 熱い粥を全員に!」


「今か!? 戦の最中に!」


「今だからだ! 腹を満たせば兵は立つ!」


 兵は目を見開き、それでも従った。

 火の上に鍋が並び、湯気と香草の香りが広場に広がる。


 戦いは熾烈を極めた。

 敵の槍が石壁を叩き、梯子が掛けられる。

 サラが剣を振るい、次々と敵を斬り払う。

 その背は血に濡れ、汗に光り、それでも決して揺るがなかった。


「リオン! もっと煙を!」


「わかった!」


 保存庫から取り出した樽を投げ落とす。

 中身は酢と油。砕けて広がった液に火矢が突き刺さり、炎の壁が生まれる。

 敵兵が悲鳴を上げて退く。


 砦の兵たちが雄叫びを上げた。

 士気は炎のように燃え上がる。


 だが敵も黙ってはいなかった。

 カーヴェル侯自身が馬に跨り、前線に姿を現した。

 赤い外套を翻し、鋭い槍を掲げる。


「保存庫を奪え! あれがある限り我らは勝てぬ!」


 その声は鋼のように響き、敵兵の足並みを揃えた。

 炎の壁を突き破り、再び攻勢に出る。


 砦の石壁が揺れ、兵たちの叫びが重なる。

 俺は必死に保存庫を操り、次々と食糧や道具を取り出す。

 煙、油、石、布――すべてを武器に変えて。


 だが、数は多い。

 じわじわと押され、城門が軋む音がした。


「リオン!」

 サラが駆け寄り、叫んだ。

「門が破られる! もう持たない!」


「なら……俺がやる!」


 保存庫に両手を突っ込み、意識を集中する。

 暗い空間の奥深くに沈めていたものを引き上げた。

 それは巨大な石の塊――以前砦の修繕で余った岩だ。


「うおおおお!」


 叫びとともに石を取り出し、城門の内側へ落とす。

 轟音が響き、門が閉ざされた。

 敵の突撃は阻まれ、混乱が走る。


 兵たちが歓声を上げた。

 サラが目を見開き、笑う。


「やはり……あなたの保存庫は、ただの倉庫じゃない」


「いや、倉庫だよ。ただ、工夫次第で何にでもなる」


 息を切らしながら答えると、サラは頷いた。


 戦は膠着し、やがて夜が訪れた。

 敵は一旦退き、砦には静けさが戻る。

 だが油断はできない。

 カーヴェル侯の目はなお燃えていた。


 夜更け、見張り台から声が上がった。


「敵陣に……奇妙な光が!」


 遠く、霧の中に青白い炎が揺れていた。

 それは松明でも焚き火でもない、不気味な輝き。


 サラが険しい顔で呟く。


「……禁呪だ。王都の術師を連れてきたのか」


 俺は拳を握った。

 保存庫の力だけで、あの炎を防げるのか。

 答えは出ない。

 だが、もう退くことはできない。


 静かに暮らすために。

 俺は再び保存庫を開いた。


(つづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ