第36話 白炎の未来
地下水路での戦いから数日後、王都は静けさを取り戻していた。
崩れ落ちた水路は修復され、黒炎に囚われていた者たちは次々と正気を取り戻し、再生の院へ送られた。
人々の間には恐怖ではなく、安堵の声が広がっていた。
「白炎が救った」
「リオン様が導いてくれた」
その言葉を耳にするたび、俺の胸は重くも温かくなった。
王宮の広間。
王が玉座から立ち上がり、集まった貴族や民衆の前で宣言する。
「リオン・グレイ。汝は保存庫と白炎の力で、国を救った。
汝の導きがなければ、この国は黒炎に呑まれていただろう。
ゆえに――汝を“導炎院長”に任じ、国の柱とする」
広間に大きなどよめきが広がった。
人々の視線が一斉に俺に注がれる。
サラが隣で静かに笑い、低く囁いた。
「もう流れ者じゃない。……国の未来を担う者だ」
だが俺は知っていた。
白炎は万能ではない。
均すことも導くことも、永遠に続けなければならない。
その重みを受け止めながら、俺は一歩前に進み、王と民に向かって言った。
「俺はただ、皆と一緒に生きたい。
飢えや争いを断ち切るためじゃなく、誰もが笑って暮らせる未来を――共に作りたい」
言葉は広間に響き、やがて大きな拍手となって返ってきた。
その夜、保存庫を開いた。
白炎は穏やかに燃え、以前よりも柔らかな光を放っていた。
もはや戦の炎ではなく、共に歩む灯火のように。
俺はその光を見つめながら、静かに呟いた。
「……俺一人じゃなく、皆で燃やしていく炎だな」
背後でサラが微笑む。
「そうだ。お前は均す者でも、断つ者でもない。――導く者だ」
灰色の瞳が炎に映え、その光景が未来を照らすように思えた。
王都の空に、月が昇る。
その下で人々は粥を分け合い、笑い、眠りにつく。
黒炎は消えてはいない。だが、共鳴する光がそれを凌ぐ限り、国は生き続ける。
俺は拳を握り、胸の奥で炎の鼓動を確かめた。
――これからも導き続ける。
たとえ幾度闇が訪れようとも。
(完)




