第34話 断ち切る者の告白
仮面を外された青年は、王宮の地下に設けられた簡素な部屋に閉じ込められていた。
縄で縛られてはいるものの、もはや抵抗する気力はなさそうだった。
だがその瞳だけは鋭く、闇の底を覗くような光を宿していた。
俺とサラは王の命で、その青年に会うことになった。
石壁に囲まれた狭い空間に入ると、彼はゆっくりと顔を上げた。
「……来たか。白炎の器」
声は若さに似合わず乾いていた。
俺は正面に座り、静かに問いかけた。
「なぜ“断ち切る者”になった? なぜ闇炎を選んだ?」
青年はしばらく沈黙したのち、かすかに嗤った。
「均されるのは、怖かったんだ。俺は誰からも見捨てられた。家族に、仲間に……。
怒りも憎しみも、俺が生きていた証だった。それすら均されれば、俺はただの空っぽになる」
その言葉に胸が痛んだ。
白炎の光でさえ、彼には奪うものとして映ったのだ。
サラが静かに口を開く。
「均すことは、無理やり従わせることじゃない。心を整え、立ち直るための手助けだ」
青年は目を逸らし、低く吐き捨てる。
「綺麗事だ。……だが、白炎を見たとき……ほんの一瞬、心が楽になった。
それが悔しくて、余計に憎んだんだ」
彼の頬を涙が伝った。
白炎が保存庫の奥で揺れ、淡い共鳴を返す。
俺は深く息を吸い、決意を込めて言った。
「お前が感じたその一瞬こそ、本当の自分だ。憎しみも怒りも、なくしていいんだ。
“断ち切る者”は、お前みたいな孤独と恐怖に取り憑かれた者を利用している。
だから――戻れ。俺と一緒に」
青年は驚いたように俺を見つめ、声を震わせた。
「……俺が、戻れるのか」
俺は頷いた。
「戻れる。炎はお前の中でまだ生きている。ただ闇に覆われていただけだ」
その時、白炎がふっと広がり、青年を優しく包んだ。
黒炎の残滓が揺らめき、やがて消えていく。
青年は嗚咽し、膝をついて泣き崩れた。
サラが傍らで剣を収め、微笑んだ。
「リオン……お前は均すだけじゃない。本当に人を導いている」
だが、その瞬間だった。
石壁の奥から微かな震動が響いた。
土埃が舞い、松明が揺れる。
兵が駆け込んできて叫んだ。
「報告! 王都の地下水路で“断ち切る者”の大集会が確認されました! 黒炎が一帯を覆っています!」
青年が顔を上げ、怯えたように呟いた。
「……奴らは、王都ごと炎に呑み込むつもりだ」
保存庫を開くと、白炎が轟々と燃え、今までにないほど強く脈動した。
その光は、これが決戦の刻だと告げているかのようだった。
「リオン……」
サラの声には、恐怖と決意が入り混じっていた。
俺は深く頷いた。
「行こう。王都を、民を、必ず守る」
白炎が翼のように広がり、暗い水路へと導く光となった。
(つづく)




