第33話 仮面の指導者
広場を覆う怒号と黒炎の波。
その中心に立つ仮面の男は、群衆を指先ひとつで操っていた。
彼の声は不思議な響きを持ち、人々の心に直接入り込むようだった。
「均されるな! 断ち切れ! 己の怒りを燃やせ!」
黒炎は人々の胸から溢れ出し、広場を黒い海に変えていく。
白炎を掲げても、すぐに押し返される。
均すだけでは追いつかない。
サラが剣を振るい、押し寄せる群衆を抑えながら叫んだ。
「リオン! 奴は炎じゃなく心を操ってる! あいつを止めなきゃ、広場ごと呑まれる!」
俺は仮面の男を睨んだ。
彼の黒炎は、怒りや憎しみだけでなく――民衆の「恐れ」を糧にしていた。
保存庫を開くと、白炎が震えた。
俺は掌に炎を集め、心の奥で問いかける。
「均すだけでいいのか? それとも……もっと踏み込むべきか?」
白炎が脈打ち、光が糸のように広場に広がっていく。
怒号の中で、いくつかの瞳が光を取り戻した。
だが、すぐにまた黒炎に呑まれる。
仮面の男が嗤った。
「無駄だ! 均す光は一瞬の慰め! 断ち切る火こそ永遠だ!」
その瞬間、白炎が変わった。
光は糸だけでなく、音を放ち始めたのだ。
それは声でも鐘でもない――人と人の心を響かせる音。
群衆の中から嗚咽が漏れた。
「奪われたくなかった」「本当は生きたい」
心の奥の本音が光とともに解き放たれていく。
「……共鳴……」
俺は呟いた。
白炎はただ均すのではなく、人々の心を響き合わせ、闇を希釈していく。
仮面の男が顔を歪めた。
「やめろ! 均されるな! 怒れ! 断ち切れ!」
だが彼の声は、白炎の響きにかき消されていった。
操られていた群衆の黒炎が次々と消え、地に倒れる。
残されたのは仮面の男ただ一人。
サラが剣を構え、俺の横に立つ。
「リオン、今だ!」
俺は白炎を掌に集め、仮面の男へと放った。
光が彼を包み込み、闇を剥ぎ取っていく。
仮面が砕け、露わになった顔は――驚くほど若かった。
まだ二十にも満たぬ青年。
だが瞳には深い絶望が宿っていた。
「……俺は、均されたくなかった。ただ、生きている証が欲しかった……」
彼の声に、白炎が淡く揺れた。
炎は彼を裁くのではなく、静かに抱きしめるように包んでいく。
青年の肩が震え、涙が零れ落ちた。
「……導かれるのか、俺も……」
力を失った彼は崩れ落ち、兵に抱えられて連れ去られた。
戦いは終わった。
だが広場に残った人々の瞳には、不安と問いが渦巻いていた。
「均すことは、本当に救いなのか」
「断ち切られなければ、自由はないのか」
その声を背に、俺は拳を握った。
白炎は共鳴の炎へと変わりつつある。
だが、それは同時に――より大きな問いを俺に突きつけていた。
(つづく)




