第29話 導きの日々
闇炎の軍勢を退けてから、王都には新しい日常が生まれつつあった。
その中心にあるのは――食糧院と、そこに設けられた「再生の院」だった。
闇炎に囚われた兵や術師たちは、処刑されることなくここに集められた。
俺は毎日、保存庫から取り出した水や食糧を分け与え、彼らの話に耳を傾けた。
「どうして助けるんだ……俺はお前を殺そうとしたのに」
痩せた兵が震える手で粥を受け取りながら問う。
「殺そうとしたのは君じゃない。闇炎に心を縛られていただけだ」
俺は静かに答えた。
「だから、ここからやり直せる」
白炎が奥で淡く脈打ち、兵の瞳にわずかな光が戻っていくのを感じた。
だがすべてが順調ではなかった。
依存と嫉妬が芽生える者もいた。
「どうせ俺たちは闇炎持ちだ! 信じられるものか!」
叫んで暴れる者を、サラが剣の柄で押さえつける。
その場にいた者たちは震え、俺に視線を向けた。
俺は保存庫を開き、白炎を取り出した。
炎は暴れる男を包み込み、荒んだ心を和らげる。
やがて男は力なく座り込み、涙を流した。
「……俺だって、やり直したい……」
周りの者たちが黙って寄り添い、粥を分け与えた。
均すだけでなく、導き合う姿がそこにあった。
日々の営みの中で、俺は一つのことに気づき始めていた。
白炎は俺だけのものではない。
人と人が分かち合い、互いを導こうとするとき、その心にも小さな光が宿る。
保存庫の奥で炎が揺れるたび、それは一層強くなっていった。
だが、王宮の影は明るさと反比例するように濃くなっていた。
失われた権益を嘆く一部の貴族が、地下で密かに集い、新たな組織を作り始めていたのだ。
「リオンが導く者? 笑わせる。均すことは支配と同じだ」
「ならば我らは“断ち切る者”となる。闇炎を継ぎ、白炎に抗う」
燭火が黒く染まり、集った者たちの瞳に闇の光が宿る。
その気配を、白炎は敏感に察知していた。
夜、保存庫を開くと、炎が不穏に揺れている。
まるで「次の嵐が近い」と告げるかのように。
「……まだ終わっていないんだな」
俺は呟く。
サラが隣に立ち、剣を腰に差しながら答えた。
「終わらせるために、私たちはここにいる。どんな闇が来ようと、必ず守る」
灰色の瞳に決意の光が宿り、俺の心も再び燃え上がる。
王都に訪れた短い安寧は、次なる戦いの前触れにすぎなかった。
白炎は揺らめき、未来を選べと迫っていた。
(つづく)




