第27話 一騎打ち ― 炎の核心
戦場の只中。
黒炎の軍勢は白炎に押し返され、次々と膝をついていた。
だがただ一人、仮面の男だけはなお立ち、闇炎を燃え盛らせていた。
「白炎の器……リオン・グレイ!」
低く唸る声が戦場に響く。
「お前が均そうとするほど、人は選択を奪われる。――だから俺は断つ!」
男の周囲に黒炎が渦巻き、竜のような形を成した。
兵も民もその威圧に息を詰める。
俺は保存庫を開き、白炎を呼び出した。
炎は翼のように広がり、男の黒炎とぶつかり合う。
「……決着をつける」
「望むところだ!」
剣と槍が激突したわけではない。
炎そのものが俺たちの意志を映し、戦場を覆っていた。
仮面の男の闇炎は、憎しみと絶望の塊。
奪われたものへの怨嗟、裏切られた歴史、そして力への渇望。
「人は不平等だ! 均すなど偽り! 断ち切ってこそ自由だ!」
その叫びに、俺の胸も揺れた。
確かに、不条理は多い。
俺も追放され、奪われ、怒りを抱いたことがある。
――だが。
「俺は、守りたいものがある!」
白炎が応えるように燃え盛り、闇炎を押し返した。
仮面の男が嗤う。
「甘い! 守るものは壊れる。憎しみに変わる。その時、お前も闇炎に堕ちる!」
黒炎が奔流となり、俺を呑み込もうと迫る。
視界が黒に染まり、心の奥から囁きが響いた。
――力を奪え。
――均すことなど無駄だ。
指先が震えた。
本当に、均すだけでいいのか。
奪い返したい気持ちが心を焼く。
「リオン!」
その声が闇を裂いた。
サラだった。
灰色の瞳が炎に映え、真っ直ぐに俺を見ていた。
「あなたが望んだのは、静かに暮らすことだろう! その暮らしは、誰かを救ってこそ得られるんだ!」
心の奥にあった怒りが、少しずつ溶けていく。
代わりに広がったのは、麦畑を渡る風の匂い、澄んだ水の音、子供たちの笑顔――。
「そうだ……俺は均すために生きるんじゃない。守るために、生きるんだ!」
白炎が爆ぜるように輝き、全身を包んだ。
炎は人の形を取り、俺と一つになった。
仮面の男が叫ぶ。
「なぜだ! なぜ闇に堕ちない!」
俺は一歩踏み出し、白炎を槍のように放った。
光が黒炎を貫き、男を包み込む。
闇炎は悲鳴を上げ、ひとひらずつ崩れていった。
残されたのは、痩せた一人の男の姿だった。
彼は膝をつき、嗚咽混じりに呟く。
「……奪われるばかりで、どうしても憎しみを手放せなかった……」
俺は静かに言った。
「その憎しみを均すのは、俺じゃない。お前自身だ」
男は涙を零し、やがて兵に連れ去られた。
戦場に静寂が戻る。
民衆は歓声を上げ、兵は武器を掲げて叫んだ。
「白炎が勝った!」
「リオン様が守ってくれた!」
サラが隣に立ち、微笑む。
「よく選んだな、リオン。……お前は闇に堕ちなかった」
俺は拳を握り、保存庫を閉じる。
白炎は再び奥で燃え続けていた。
――だが俺は知っている。
闇炎は消えたわけではない。
人の心にある限り、いつでも芽吹くのだと。
(つづく)




