第25話 闇炎の正体
襲撃の夜が明けても、王都の空気は重かった。
白炎と拮抗する「闇炎」の存在が、貴族だけでなく民の間にも噂として広がったからだ。
「白い炎があれば救われる……でも、黒い炎があるなら?」
「二つの炎が争えば、また戦になるのでは……」
人々の不安は大きくなり、俺の耳にも届いてきた。
サラは剣を手に、真剣な顔で告げる。
「リオン。あの闇炎は偶然の産物じゃない。誰かが意図して作り出したはず」
「……だとしたら、狙いは俺か、白炎そのものか」
数日後、王宮に古文書を調べていた学者が駆け込んできた。
埃を被った羊皮紙を抱え、声を震わせて言う。
「見つけました! 古代の記録に“二つの炎”の記述が!」
王や貴族たちが集まる中、学者は書を広げた。
そこにはこう記されていた。
――白炎は「調律の火」。すべてを均し、争いを鎮める。
――闇炎は「隔絶の火」。すべてを断ち、秩序を壊す。
――二つは対となり、同時に現れたとき、国は試される。
広間にざわめきが広がった。
俺は胸の奥が冷たくなるのを感じた。
サラが低く呟く。
「……やはり、闇炎は誰かの手で目覚めさせられた」
俺は問いを重ねた。
「では、その“誰か”とは……」
答えはすぐに訪れた。
広間の扉が開き、捕えられた捕虜が引き立てられてきた。
顔は仮面で覆われていたが、外されると――そこには見知った顔があった。
「……お前は」
以前、保存庫を奪おうと襲ってきた術師のひとり。
彼は痩せこけ、だが瞳には狂気の光を宿していた。
「闇炎は……均す炎への反逆だ。調律に縛られた世界を壊すため、我らが選ばれた」
叫びは呪詛のようで、広間を震わせた。
王は静かに口を開いた。
「つまり闇炎は、人の手によって人工的に作られたものだと?」
術師は笑い、血に濡れた歯を見せた。
「そうだ。古代の記録を読み解き、均衡を壊す力を蘇らせた! 白炎を潰し、この国を選び直すのだ!」
兵が彼を押さえつける。
だが俺の胸には重いものが沈んだ。
――白炎は均す火。
闇炎は断つ火。
どちらも人の選択で生まれる。
夜。
保存庫の奥に手を伸ばすと、白炎が淡く揺れた。
だがその光の隣に、かすかな黒い影が混じっているのを感じた。
「……俺の中にも、闇炎が……?」
指先が震える。
もし俺の心が憎しみや恐怖に傾けば、白炎は闇炎に変わるのではないか――。
その不安を見抜いたように、サラが背に手を置いた。
「リオン。忘れないで。あなたが望んだのは“静かな暮らし”だった。
それを守るために選び続ければ、炎は必ず光であり続ける」
灰色の瞳が月光を映し、まっすぐに俺を支えていた。
だが同じ頃、地下の密室では新たな儀式が行われていた。
闇炎を宿した黒装束たちが、血を捧げ、呪を唱えていた。
「次こそは……白炎を呑み込む」
燭台の炎が黒く変わり、空気が震える。
新たな嵐が、確実に近づいていた。
(つづく)




