第23話 新たな秩序
反乱の夜が明け、王都は静けさを取り戻していた。
街路にはまだ煙の匂いが残り、瓦礫の中で兵や民が復旧に走り回っている。
だが、誰の顔にも恐怖ではなく安堵が浮かんでいた。
白炎が黒き炎を呑み込んだ瞬間を、彼らは皆目にしていたのだ。
「保存庫の力が、国を守った」
「もう飢えも戦も、乗り越えられるかもしれない」
そんな声が至るところで囁かれ、やがて王宮の広間に集約していった。
評議会が再び開かれた。
円卓に並ぶ貴族たちは、敗北したカーヴェル侯の不在に口を噤み、王の前でただ俯いている。
王が立ち上がり、静かに宣言した。
「反乱は鎮圧された。だがこれは終わりではない。保存庫の力は、もはや一人のためにあるのではなく、国そのもののために用いられるべきだ」
その視線が俺に向けられる。
民衆の声援が外から響き、広間の空気を揺らした。
王は続ける。
「ゆえに、リオン・グレイを“食糧院長”に任じる。保存庫を中心に、新たな制度を築き、民を飢えから救え」
ざわめきが広がる。
かつて流れ者と呼ばれた俺に、国の柱とも言える役職が与えられたのだ。
サラが隣で静かに頷き、灰色の瞳を輝かせていた。
「……これで、あなたの力は正式に国の未来を担うものになった」
その日から、保存庫を基盤とした新たな秩序作りが始まった。
市場では、保存庫を通した麦や魚が均等に分けられ、暴利をむさぼる商会は排除された。
農村では、病を防ぐために保存庫で調律した水を配り、疫病が広がる前に鎮められた。
兵営では、乾燥肉や保存粥が常備され、長期の遠征にも耐えられるようになった。
民は笑い、子供たちは飢えに怯えずに眠るようになった。
――かつて夢見た「静かな暮らし」は、形を変えてここにあった。
だが、その陰で不穏な影もまた芽吹いていた。
旧来の利益を失った貴族たちは地下で集い、「保存庫に頼りすぎれば国は弱る」と囁き合っていた。
白炎の力を奪おうとする者は、まだ消えてはいない。
夜。
王宮の一室で、サラが剣を研ぎながら言った。
「リオン。秩序は築ける。けれど、本当の試練はこれからだ」
「……そうだな。保存庫は万能じゃない。俺が歩みを誤れば、すべてが崩れる」
窓の外で、夜空に月が昇る。
保存庫の奥で、白炎が静かに燃えていた。
それは、未来を照らす灯火であると同時に、常に選択を迫る炎でもあった。
その頃、地下の密室ではひとつの密約が交わされていた。
「保存庫を掌握できぬなら、炎そのものを消すしかない」
冷たい声が響き、燭台の炎が揺らめいた。
新たな陰謀の気配が、確実に迫っていた。
(つづく)




