第22話 反乱の狼煙
王の宣言から三日後。
王都は祝祭のような熱気に包まれていた。
市場では「保存庫粥」と名付けられた料理が広まり、子供たちは俺の名を口にしながら遊んでいる。
だが、華やかさの裏では黒い影が蠢いていた。
夜明け前。
王都北門に突如、火の手が上がった。
鐘が鳴り響き、兵が駆け出す。
見張りの叫びが城壁を揺らした。
「カーヴェル侯の兵だ! 反乱だ!」
狼煙が空に昇り、赤い外套を翻す侯の姿が現れた。
その瞳には狂気と執念が宿っていた。
王宮の広間に駆け込むと、王がすでに鎧をまとっていた。
若き王の瞳は揺らがず、低く告げる。
「リオン、サラ。……ついに来たな」
「はい。避けられぬことでした」
サラが剣を抜き、灰色の瞳を光らせる。
王は頷き、俺を見据える。
「保存庫の力は、この国の命運を握る。だが使い方を誤れば、ただの災いとなる。――この戦で、真の答えを示せ」
その言葉に胸が熱くなる。
俺は深く頷き、保存庫を開いた。
王都の城壁上。
夜明けの空を赤く染め、反乱軍が押し寄せてくる。
数は千を超え、松明と槍が揺れる波のようだった。
サラが剣を掲げ、声を張り上げる。
「恐れるな! 保存庫がある限り、我らは飢えぬ! 守り切れる!」
兵たちが雄叫びを上げる。
だが敵の数は圧倒的だった。
俺は保存庫から干し肉と麦を取り出し、兵糧に変えた。
炊き場では次々と粥が作られ、兵たちが力を取り戻す。
士気は炎のように燃え上がった。
だが、戦場の中央に立つカーヴェル侯は冷たく笑っていた。
その背後に立つ術師が杖を掲げ、黒い炎を呼び出す。
「これこそが禁呪の極み――〈劫火〉だ!」
炎は夜空を覆い、街を呑み込もうと広がった。
兵も民も恐怖に叫ぶ。
サラが歯を食いしばり、俺を振り返った。
「リオン! やれるのはあなただけだ!」
保存庫を開き、白炎を呼び出す。
だが今回は違った。
炎は掌から溢れ、翼のように広がり、夜空を覆った。
黒い劫火と白炎が激しくぶつかる。
轟音が響き、大地が震える。
だが白炎は静かに、確実に黒炎を削ぎ落としていった。
「均せ……すべてを!」
叫びとともに、白炎は黒炎を呑み込み、光の奔流へと変えた。
恐怖は消え、温もりが広がる。
反乱軍の兵たちは武器を落とし、次々に膝をついた。
黒い炎に縛られていた心までも、白炎が調律していく。
広場に静寂が訪れた。
ただ一人、カーヴェル侯だけが立ち尽くし、叫んだ。
「まだだ! 私は負けていない!」
だがその声は虚ろだった。
彼の槍は錆び、外套は灰に塗れていた。
サラが一歩進み、剣を突きつける。
「ここまでだ。これ以上、民を巻き込むな」
侯は呻き、やがて崩れ落ちた。
反乱は終わった。
夜空に白炎が淡く漂い、やがて保存庫の奥へと沈んでいった。
その光はまるで、「次の未来を選べ」と告げているようだった。
俺は拳を握り、呟いた。
「……俺はもう、静かに暮らすだけの人間じゃない。食を守る者として、生きていく」
サラが隣で微笑み、灰色の瞳を輝かせた。
「それでいい。あなたの願いは、民の願いになったのだから」
(つづく)




