表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放されたけど、最弱スキル〈保存庫〉で辺境スローライフ満喫します  作者: 妙原奇天


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/36

第2話 霧を越える道

 霧の関を発って二日。

 俺とサラは、細い山道を北へ進んでいた。


 馬車ではなく徒歩。荷は少ない。

 俺は〈保存庫〉に水袋と干し肉、薬草をしまい込んでいる。取り出すときは重さが消えるから、歩みは軽い。

 だが、軽い足取りのはずなのに、俺の胸は妙にざわついていた。


 サラが前を歩き、外套の裾を翻す。

 腰の剣は、銀の装飾が光を返す。辺境守の兵士に与えられる証。

 彼女の背中は真っ直ぐで、霧の中でも迷わない灯のように見えた。


「リオン」


 突然振り返ったサラが、俺を呼ぶ。

 灰色の瞳が、真剣に光っていた。


「歩きながらでいい。聞かせてほしい。……あなたは、どうして保存を極めようとした?」


「極めたわけじゃない。ただ、できることをやっただけだ」


「違う。あなたの目は、見ている。味を、匂いを、時間を。――そういう目は、命を救う」


「……大げさだ」


 苦笑してごまかす。

 けれど、サラの言葉は胸に残った。

 保存。

 俺はただ「便利」くらいに思っていたが、彼女にとっては「命」と同じ意味らしい。

 兵糧が腐れば、兵は戦えない。村人は飢える。

 塩が途切れるだけで、人が死ぬ。

 辺境の現実は、まだ俺の想像を超えていた。


 昼過ぎ、崖沿いの道で、サラが手を上げて合図する。

 草陰がざわめいた。

 瞬間、三つの影が飛び出す。粗末な革鎧に刃を持った男たち。


「通行料だ! ここを通りたけりゃ、銀貨十!」


 山賊。

 声は荒いが、目は計算高い。俺とサラを値踏みしている。


「……またか」


 サラが小さく息を吐き、剣を抜いた。

 灰色の光が霧に閃く。

 俺は一歩下がり、手を〈保存庫〉に差し入れる。

 取り出したのは――昨日作った香草油を染み込ませた布袋。

 鼻を刺す強烈な匂いが、霧を裂いた。


「な、なんだこの匂いは……!」


 山賊が顔をしかめ、目を押さえる。

 唐辛子と胡椒を溶かした即席の煙幕だ。

 サラの剣が一閃。悲鳴とともに刃が落ち、残りは逃げ散った。


「……助かった。胡椒と唐辛子?」


「香辛料は、保存だけじゃなく武器にもなる」


「なるほど。やはりあなたは、ただの保存庫の人ではないな」


 サラが微笑む。

 霧の中の笑みは、なぜか強く胸に残った。


 その夜。

 山小屋に泊まり、焚き火の前で干し肉を焼いた。

 俺は〈保存庫〉から、昨日の豚肉を取り出す。

 燻製も塩もない。だが、肉は瑞々しく、香草の香りがさらに馴染んでいた。


「昨日よりも……旨い?」


 サラが驚き、目を見開いた。

 俺は頷く。


「やっぱりそうだ。〈保存庫〉は腐敗を止めるだけじゃない。熟成に似た何かを起こしている。雑味を削ぎ、旨味を引き立てる。……俺の感覚だけじゃなかった」


「なら、それは兵糧に革命を起こす。塩を減らし、兵の負担を軽くする。戦の形さえ変えるかもしれない」


「戦なんて望んでない」


「誰も望まない。だが、備えねばならない。……あなたの力が要る」


 サラの言葉は重い。

 でも、彼女の目は揺らがない。

 俺は火に照らされた肉を噛みしめた。

 煙の香りと、肉の旨味が舌に広がる。

 ――静かに暮らしたいはずなのに。

 胸の奥で、熱い何かが膨らんでいく。


 翌朝、俺たちは山を越え、霧の薄い平原に出た。

 遠くに村の屋根が見える。

 そこは辺境守の拠点――サラが仕える地。


「リオン。ここからが本番だ」


「ああ。……でも、腹ごしらえを先にしよう」


「ふふ、やはりあなたは保存庫の人だな」


 灰色の瞳が笑う。

 俺は〈保存庫〉を開き、昨夜仕込んだ肉を取り出した。

 霧を越えた風が、香草の香りを運んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ