第17話 白炎の覚醒
夜の村を、松明の光と剣戟の音が覆った。
カーヴェル侯の兵と術師たちが一斉に雪崩れ込み、村人たちは鍋や棒を手に必死に抵抗する。
だが数では敵わない。
その最前線に立ったのはサラだった。
「下がれ! 私が前に立つ!」
灰色の瞳が炎を映し、剣が閃くたびに敵兵が倒れていく。
しかし術師が杖を振り上げると、紫の稲妻が夜空を裂いた。
「リオン!」
サラの声が飛ぶ。
俺は咄嗟に保存庫を開き、手を差し入れる。
暗闇の奥で白炎が脈動し、掌に熱を宿した。
炎を取り出すと、周囲の空気が震えた。
白炎は今までよりも強く輝き、まるで意思を持つかのように揺れている。
「……これが、保存庫の本当の力なのか」
俺が掲げると、炎は光の幕となって広がった。
稲妻が迫る。
だが白炎はそれを吸い込み、穏やかな光へと変えてしまった。
術師が驚愕の声を上げる。
「我が術が……調律された!?」
兵たちが怯え、後退する。
カーヴェル侯だけが冷たい瞳で俺を睨みつけていた。
「やはり恐ろしい力だ。だからこそ奪わねばならぬ!」
侯の槍が突き出される。
サラが受け止め、火花が散った。
「リオン、迷うな! その力は破壊のためではない!」
彼女の声に心が震える。
俺は保存庫をさらに開き、白炎を村全体に放った。
光は村を包み込み、倒れていた人々の呼吸が整っていく。
病の呻きが消え、子供たちが目を開けた。
村人たちが次々と立ち上がり、武器を握り直す。
「もう逃げない! この村は俺たちが守る!」
歓声が夜空を揺らし、士気が炎のように燃え上がった。
戦況は一変した。
民と兵が一丸となり、敵を押し返す。
術師たちは術を封じられ、黒装束は混乱して散り散りに退いた。
最後に残ったのはカーヴェル侯ただ一人。
サラが剣を構え、俺の前に立つ。
「ここで終わりだ、侯」
しかし侯はなお笑みを崩さなかった。
「終わりではない。王都そのものが、いずれお前を飲み込む」
その言葉を残し、彼は煙幕の中に姿を消した。
静けさが戻った村に、白炎の光だけが漂っていた。
人々は互いを抱き合い、涙を流しながら喜び合っている。
俺は保存庫を閉じ、深く息を吐いた。
胸の奥に広がるのは、安堵と、そして新たな恐れだった。
「……この力は、もう隠せない」
サラが隣で頷き、剣を収める。
「隠さなくていい。あなたはもう民の希望だ。次は王の前で証明するだけ」
灰色の瞳が夜明けを映し、力強く輝いていた。
白炎もまた、未来を照らすように静かに燃えていた。
(つづく)