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天使は恋をする  作者: 水瀬 凛
第1章
2/17

屋上で、風が吹いた日 ──君は、誰?

よろしければ感想を聞かせてください

 この学校は、人の声が多すぎる。

 教室のざわめきも、廊下の笑い声も、私にとってはただの“雑音”だった。


「なんでそんなにしゃべれるんだろう」

 そんなことばかり、心のどこかで思っていた。


 みんなが毎日を楽しそうに過ごしている横で、私は、そこにいない誰かのような気分でいた。


 *


 放課後のチャイムが鳴る少し前。

 私はいつものように席を立った。先生に気づかれないように、そっと扉を開け、階段を上がる。


 誰もいないことを確認して、屋上の扉に手をかける。

 少し硬いけど、もう慣れた。力を入れて引けば、鈍い音とともに扉が開いた。


 風が吹いた。

 夏の終わりと秋の始まりが混ざったような、少しだけ切ない匂いがした。


 フェンスのそばに立ち、私は空を見上げる。

 高くて、青くて、どこまでも続いている空。


 ──なのに、どこか遠く感じる。


「……やっぱり、ここにいたんだね」


 不意に、背中越しに声がした。


 振り返ると、制服姿の男の子が立っていた。

 見たことのない顔。少なくとも、同じクラスにはいなかった。


「……誰?」


「ごめん。驚かせたね。でも、風が導いてくれたから、なんとなくここに来たんだ」


「風……?」


 意味がわからなかった。でも、怒る気にはなれなかった。

 彼の声は不思議と耳に心地よくて、静かな空気を乱さなかった。


「君は……ここで、よく空を見るの?」


「……たまに。誰もいないから」


「それ、少しわかるかもしれない」


 彼はそう言って、フェンスのそばに並んだ。

 少しだけ距離を取って、私と同じ高さから空を見ていた。


「ここ、君の“秘密の場所”?」


「そんな大げさなもんじゃない。ただ……誰にも邪魔されたくないだけ」


「うん。……安心して。僕は、邪魔しない」


 沈黙があった。でもそれは、不快じゃなかった。

 風と、空と、たったふたりの時間。


「君、名前は?」


「……教えなきゃダメ?」


「いや、いいよ。きっと、そのうちわかる気がする」


 そう言って彼はふっと笑った。

 懐かしいような、でも現実じゃないような不思議な笑顔。


 私はそれ以上、何も言えなかった。

 ただ空を見て、心の奥で自分でも気づいていなかった“揺れ”が、生まれたことだけは、確かに感じていた。


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