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天使は恋をする  作者: 水瀬 凛
第13章
14/17

扉の前で

「……はぁ」


 昼休み。

 教室の隅、窓際の席で、私は小さくため息をついた。


 誰も聞いてないふりをしてるけど、

 きっと結衣あたりにはバレてる。

 それでも誰にも話したくなかった。




 今日は……なぜか、時間が遅く感じる。




 授業の内容なんて、全然頭に入ってこない。

 黒板の字が滲んで見えるのは、

 眠いせいじゃなくて、

 たぶん、心がどこかに置いてきぼりになってるからだ。




 ──そなたくん、今日も屋上にいるのかな。




 気づけば、そう思ってた。

 それだけで、胸の奥が少しざわつく。




「また、空、見に来る?」


 昨日のあの一言が、ずっと心に残っていた。

 彼の声が。

 目が。

 風の中で、まっすぐ届いてきたあの言葉が。




 行く理由なんて、ない。

 でも、行かない理由も、もうない気がした。




「……バカみたい」


 そう呟いて、自分の額を軽く指でたたく。

 そんなこと言われたぐらいで、

 こんなに気になるなんて、どうかしてる。




 でも、誰かが言ってくれた優しさに、

 少しでもすがりたくなってる自分も確かにいて──




 午後の授業が終わるチャイムが鳴ったとき、

 私は誰にも声をかけずに、教室を出た。


 いつものように、

 気配を消すように。

 音を立てずに。




 でも今日は、違った。


 心臓の音だけが、どこか大きく響いていた。




 階段を上がるたびに、

 胸の奥が少しずつ熱くなる。


 それが怖くて、

 でも止まりたくなくて。




 屋上の扉の前で、私は立ち止まった。




 手を伸ばせば、すぐそこにいるかもしれない。

 でも、もし──誰もいなかったら。


 その「もしも」を考えただけで、

 一歩がやけに重くなる。




 私は期待なんてしたくない。

 また裏切られるぐらいなら、何も始めない方がいい。


 ──でも。




「……いるかなんて、わかんないけど」


 自分に言い訳するように、そっと扉に手をかける。

 少し重たい扉の感触に、指先がわずかに震えた。




 ……もし、そなたくんがそこにいたら。

 何を話そう?

 それとも、何も話さなくてもいいのかな。


 そうやって、未来のことを想像してる自分が、

 少しだけ、愛おしく感じた。




 カチリ、と音がして、

 扉のロックが外れる。




 私はゆっくりと、

 まだ見ぬ空と、彼の姿を探すために、

 扉を押し開けた。


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