いま語られる、マヨビーム誕生秘話
「そんなにブラックな会社に勤めてたのか?」
ちょっと聞きにくそうにクルトが問いかけてきた。
「別に―。会社自体はそうでもないんじゃないかな?ただ、移動先の上司がクズだった」
“クズ”に力を込めて言い放つ。
「女好きでさ、セクハラ拒否ったら嫌がらせされたんだよね。しかも新入社員のぶりっ子ちゃんがお気にいりで、その子と上司の仕事とか失敗とかもろもろ押し付けられてました」
「なにか対策は打たなかったのか?」
「エマなら言いなりになりそうもねぇけど」
レオンとクルトの言葉に鼻の上にシワをよせる。
言いたいことはわかる。
自分はそう大人しい性格じゃないし、黙って耐えるタイプに見えないだろう。しかし……。
「借金あったし……」
「借金?」
「そ、奨学金」
「「奨学金……??」」
「色んな知識を学ぶ学校に入るのにお金がかかるんですけど、一定の優秀な成績を収める条件でその資金を貸し出してくれるんです」
「なるほど、エマは優秀だったんだな」
「まぁ、勉強はがんばりましたよ。ほら、前に話したみたいに早くに両親失くしたんで。いい学校行けば就職に便利だし、だからって親戚に迷惑かけたくなかったですし」
「……で、過労死?」
……ものすごく気の毒そうな表情を向けられた。
「そ。努力の甲斐あっていい会社入って、順調に出世もして……新規プロジェクトのために移動した先が最悪。けど会社自体がアレならともかく、最悪なのはその上司らだけなわけだし、プロジェクトのための移動だから2年後には元の部署に戻れる。だったら下手な行動して問題起こしたくないじゃない?給料だってよかったし。……で、「あとちょっとのガマン……」って思ってたら先に限界がきました。っと」
欧米人みたいな仕草で両手うえにあげて肩をすくめる。
本当にやりきれない。
「そんな前世の最後を神殿で思い出して、私は決めたの」
ムン、と偉そうに腕を組む。
「もう黙ってガマンだけするのはやめた!不平も不満もためこまない!そんなこんなでいまの私になったわけですよ」
クルトたちの表情がさっきとはまた別の微妙なものになった。
「これでも前世思い出す前はもうちょっと大人しかったから」
疑わしそうな彼らに力説する。
これは大マジだ。
「だいたいさぁー死ぬ直前にマヨネーズほしくて「マヨビームだせたらな……」って呟きが来世のチートってなんなの?」
「「そんな理由なの?!マヨビーム?!!」」
あまりの衝撃に立ち上がりつつクルトとアストがツッコむ。
「そんな理由ですけど?」
“マヨビーム”がなんだかよくわからない生粋の魔族さんらにもわかりやすくサクッと説明する。
「あー……死ぬ直前に「……酒が飲みてぇ」ってポロって呟いたら、指から無限に酒がだせる能力与えられたみたいなことです」
……不憫そうな視線がハンパない。
ソアラさんとキールくん、涙ぬぐうのやめてくれないかな?
そこまで?!って悲しくなるよ……。
「まぁ、そんな私のちょっぴり悲しいエピソードはともかくとして、過労をなめたらダメですよってことですよ」
「「グリオン様、いますぐ寝てください」」
「「グリオン様……」」
「む……」
ここまで言われてもまだ迷っているらしいグリオンのほっぺを、エマはむぎゅっとつまんだ。ビックリして見開かれた赤い瞳を真正面から覗きこむ。
「上に立つ者の責任?全力で頑張るのが常に正しいと思ってるの?」
「にゃ、にゃにを……」
「偉いと思うよ。こんなに小っちゃいのに頑張って。けどね?」
キッと瞳を尖らして目の前の少年を睨みつけた。
「自分を大切にしないってことは、自分を大切にしてくれる誰かをないがしろにすることなのよ」
「…………」
「私も自分が頑張れば、って思ってた。だけどその結果、どれだけ迷惑をかけたんだろう。私が死んだことで叔母さんたちはきっと悲しんだ。優しい人たちだったもん。だからこそ迷惑かけたくなかったの。でもそんな人たちを苦しめた。過労死したせいで会社だってきっと叩かれた。原因のクソ上司らはともかくとして、信頼してた上司や同僚にだって迷惑いっぱいかけたと思う」
ひっぱったせいで赤くなってしまった頬をそっと両手で包み込む。
「戦争のきっかけ、例えば魔王さまの不調だったらどう?」
「……っっ?!」
「ありえないことじゃないでしょ?魔王さまになにかあればみんな怒る。現に勘違いしたトートくんは私たちに挑んできたじゃない」
エマの言葉にグリオンの瞳が揺れる。
「あなたは“王”なんでしょ?国なんて1人で運営できないの。さっきバルバトスさんだって言ってたじゃない。「なんのために自分たちが居るんだ」って。部下をちゃんと使うのも上の役目」
わかったらちゃんと寝なさい、その一言にようやくこくりと頷きが返ってきた。




