いきなりの急展開
ドドドドド……まさにそんな擬音が相応しく襲ってくる魔物の群れ。
「魔族領だし気ぃ引き締めなきゃって思ってはいたけど……しょっぱなからこれはなくねぇ?!」
「いやぁぁ~~!怖いぃぃー」
「エマさん、動かないでください!」
背後から飛びかかってきた魔物をミレーヌが打ち抜く。
グワァァァ!
ミニじゃないドラゴン態のソルトの咆哮に怯んだ魔物たちをクルトがなぎ払い、レオンが攻撃魔法を放つ。エマはみんなの邪魔にならないを最優先に、フライパンをフルスイングしたり、盾にして身を守ったりとちょこまかしている。
ようやく全て倒し終わったと思い、ほっとしたのもつかの間……。
膝に手を当て、息を整えていたエマだからこそいち早く異変に気付いた。
「へ?なにこれ……?」
突如地面に浮かんだ、謎の魔法陣に。
だけど気付いたからといって、なにをする暇もなかった。
エマたちの足元に浮かんだ魔法陣が赤く光り、次の瞬間に感じたのは浮遊感。
「きゃ!」
「わっ、なんだ??」
足元がなくなる感覚がし、視界が揺れた。
硬い床に尻餅をついて、いててと声を漏らす。
「どこ、ここ?」
地面に座り込んだまま視界に入ったのは、先ほどまでとはまるで違う景色。
見覚えがない場所だ。
あえていうならば神殿や城の広間に似ている……。
「大丈夫か、エマ?」
差し出してくれたクルトの手を取って立ち上がりながら慌てる。
「ミレーヌちゃんたちは……?」
「どうやらレオン様たちとはぐれたようです。……せめて3人がご一緒だといいのですが」
苦々しい顔で答えたのはハリソンだ。
端正な顔が苦渋に歪んでいた。
「ねぇ、ここってもしかして……」
明らかに一般の建築物ではない壮大な広間。
“城”を思わせるその造りにエマが声をあげたときだった。
「ようこそ魔王城へ。人の国の侵入者たち」
まさにたったいま過ったどおりの答えが返ってきた。
最悪のお答えに、バッと声のした方を振り向く。
装飾のされた巨大な扉の前に2人の魔族が立っていた。
1人は人間とほぼ見た目の変わらない美男子。
細い銀フレームの眼鏡をかけ、知的な貴公子といった印象だ。
声を発したのは彼のようだ。
もう1人は白銀の狼の顔をした狼男。
全身が毛に覆われた体躯は大きく、見るからに強そうな雰囲気だ。
「侵入者とはずいぶんだな。勝手に招待したのはそっちじゃないのか?」
エマを背に庇いながら、剣を構えたクルトが青年に話しかける。
「この城には、な」
フン、と鼻を鳴らす青年。
同じく剣を構えたハリソンがそんな彼らを睨みつける。
「他の3人はどこだ?」
「別の2人が相手してるさ。他人のことより自分の心配をした方がいいぜ」
狼男が喉を鳴らしながら獰猛に笑う。
そして次の瞬間には目にも止まらなぬ速さで突進してきた。
片手でエマを抱えてクルトが飛びのき、太い腕の一撃はかわりに地面を抉った。
石造りの床が拳で粉砕されたことにエマは「こわっ……」と目をみはる。
あんなの喰らったら一撃でアウトだ。
ヒィッ!と震えながら両手でフライパンの柄を握りしめた。
「……手荒な歓迎だな」
「おぅよ!わざわざこの俺様が歓迎してやってんだ。ありがたく思いな!魔族領でずいぶん好き勝手やってくれてるみてぇじゃねぇか。たっぷり礼はしてやるよ!!」
「待て、なんのことだ……?」
「はっ、しらばっくれんじゃねぇよ」
再び肉弾してきた狼男の一撃をさけ、隙をついてクルトが懐へと飛び込む。だけど剣の切っ先が狼男の喉元に届くその寸前、見事な跳躍力を見せ飛びのいた狼男は空中から蹴りを繰り出す。絞首台の刃のように繰り出された踵落としを地面を転がったクルトが間一髪で避けた。
いきなりバトル漫画展開はじまったんですけどっ……。
エマはといえば、ただ見てることしかできない。
動きについていけないし、彼らから離れるのも怖ければ、だからといって近くにいても邪魔にしかならない。
フライパンを握りしめ、立ち尽くすエマだった。




