断然ときめく
あまり食の楽しみを感じていなかったエルフたちに美食革命をおこしたエマは彼らに乞われ、おしょうゆなどの調味料を分け与え、また調理法を伝授した。
しかも嬉しいことに。
「やったー。これで珍しい他の食材もまた手にはいる!」
両手をあげて大喜びのエマ。
なんとお豆腐をえらくお気に召したシェリファスさんたちが入手を検討。
「でも遠いですよ?」と控えめに告げれば「場所がわかれば一瞬で行けるから」とのご返答。
そうだった、エルフは高度な魔法が使える種族。
転移魔法だってお手の物で、現にそれを使ってドワーフへのお礼の火酒とかも調達しているんだった。
……ってことでおねだりしました。
おしょうゆやゴマドレッシングのお礼はなにがいいか?とエマにも定期購入を持ち掛けてきたエルフさんたちに。
「報酬は私も現物がいいです!」と。
お豆腐もそうだが、他にもヴェルニーニのツナや港町で見つけたカツオ節など、ほかではめったに手に入らない食材というのは多い。
大量購入してあるが……それだっていつかは尽きる。
だからってちょくちょく買いに行ける距離でもない。
だけどエルフなら距離の問題は無意味だ。
ってことで、報酬はその時々にエマが欲しいモノを入手してきてもらうことに。
色んな品が今後も手に入るとわかりエマはほくほく、エルフさんたちもほくほくだ。
張り切っておしょうゆやドレッシングを出しまくったので、レベルアップしてお好みソースも出せるようになったよ!
エマのマヨビームのラインナップは日々広がっている。
「この先が魔族領だ」
長い指がそっと前を指す。
弓を手に案内をしてくれたティファーナさんが指す先には広大な荒野。
地肌の色が見え、岩がゴロゴロと広がる荒野はたったいま抜けたばかりの背後の森との落差が大きい。
そんな荒野の先に薄っすらと見える森。
どちらの所有地でもない荒野を挟み、あの先からが魔族たちの領土らしい。
「森の近くまで見送ろう。手を」
差し出された手を掴めばあっという間に視界が切り替わった。
これが噂の転移魔法。
「私が同行できるのはここまでだ。どうかご武運を。君たちが役目を果たし、誰も傷つかない未来を祈っている」
胸に手を当てティファーナが目を伏せる。
「ありがとな、ティファーナさん。ほかのみんなにもよろしく」
「「お世話になりました」」
「感謝する」
それぞれ声をかければ、ふっと笑ったティファーナは首からなにかを外した。
腕を伸ばし、それをエマの首にかける。
「……なにかの、角……?」
指の先ぐらいの大きさのそれは角を模したネックレスだろうか?
指でつまんで首を捻るエマにティファーナが説明する。
「角笛だ。吹いてごらん」
言われたままに口にくわえて吹いてみた。
「鳴らなくねぇ?」
まじまじとクルトが角笛を覗き込むが、変化はあった。
エルフの森の方から微かに歌声のようなものが響いた。
それに対しティファーナが軽くなにかを口ずさむとそれはすぐに止んだ。
「ティファーナ殿、いまのは……?」
「エルフだけに伝わる言語だ。歌声に魔力を乗せることで離れていても会話できる」
首からかけた角笛を持ったエマの手をティファーナがそのうえから包み込む。
「クルトたちには聞こえなかっただろうが、どれだけ遠くてもその笛の音は私たちに聞こえる。エマにはマーキングをしていたから、シェリファスあたりがちょくちょく姿を見せるだろうが……それ以外でも困ったことがあればそれを鳴らすといい。必ず駆けつけ、力になると約束しよう」
まるで騎士の誓いのようなそれにエマはちょっぴりときめく。
エマだけでなく、ミレーヌの頬も淡く色づいている。
普通に恰好いい。
少なくとも、マヨ目当てにどっかの勇者に跪いて求婚されたときよりよっぽどときめく。
あのときは絵面はともかく、会話の内容がひどかった。
「君たちの行く先に光あらんことを」
最後まで恰好よく、男前なお姉さまは去っていった。




