立場をきっちり示しましょう
そしていま、エマはプロポーズされていた。
「結婚して!!」
「だが断る!!」
両手を握りしめ迫るクルトに、きっぱり拒絶を返すエマ。
「君のことは絶対に俺が守るから!命をかけて守るから!!」
「守ってくれるのは有り難いけど、結婚は断固拒否!!」
「なんで?!」
「なんでもなにも、マヨ目的の男とかお断りですけど?」
「一目惚れ、一目惚れしたんだって!俺、好きな子は大事にするタイプだよ?!」
「うわっ、嘘くさっ!!一目惚れとか絶対嘘でしょ?マヨビーム発言までそんな態度ぜんぜんなかったじゃん」
「可愛い子だなとは思ってたし!」
場所も忘れてエマとクルトは半ば叫びあう。
まるでコントなその光景を周囲の人間たちはただあんぐりと見つめる。端的にいえば、状況についていけない。
出会って10分でプロポーズ、実にスピーディーな展開。
お相手はかなりのイケメンで、同じ転生者でもあり、おまけに勇者。
かなりの優良物件といえば優良物件だが、エマはちっともときめかない。
マヨ愛が露骨すぎる……。
そんなときめき皆無の乙女の憧れもへったくれもないプロポーズだが、激しく反応した人物が1人だけいた。
「……でっ」
わなわな震えながら零された声。
次いでダンッ!と硬質な床が荒々しく踏みしめられた。
「なんでっ!!勇者さま、どうしてそんな女をっ……!!」
顔を真っ赤にしてかんしゃくを起こしたのはぽっちゃりしたお姫さま。
ドレスの裾をぎゅっと握りしめながらエマを睨む瞳には見覚えがあった。
その瞳に宿るのは嫉妬。
「だいたい看板娘ってなんですの?!意味わかりませんわ。そんな子連れて行ったって勇者さまの足手まといになるだけだわ!」
わめき散らすお姫さまを兄王子たちが宥めるも、お姫さまは暴れて叫ぶのをやめない。
そんな姿を眺めながら……エマの心は冷めきっていた。
きっとこのお姫さまは爽やかイケメンのクルトに恋をしたのだろう。
それは別にいい。
そんな相手が他の女を口説いているのだ、嫉妬するのも当然だ。(この状況はエマにとってはなはだ不本意だが……)。
お姫さまの罵倒だって、エマ自身が思っていること。
ただ…………。
望んだわけでもないエマをこの場に連れて来たのは誰だと思っている?
「発言の許可を頂いても?」
王に対し静かにエマは問うた。
「私はお役御免と捉えてよろしいでしょうか?」
「なにを……?」
「王命により、私はこの場におります。ですが王族の方が不要と判断なさるのならこの場を辞させて頂きたく。もとより私が望んだわけではありませんので」
王も宰相たちも言葉を失う。
エマの言葉の内容にも、町娘に相応しくない言葉づかいや落ち着き、豹変した雰囲気、その全てに圧倒されパクパクと口を開く。
「ま、待ってくれ……」
「なによっ!役目を放棄する気ですのっ?無責任なっ!!」
慌てて口を開いた王の言葉をさえぎるようにお姫さまが叫んだ。
「足手まといと、そう仰ったのはあなたでは?」
「そ、それは……」
「私はそれを否定しません。私には攻撃手段も、身を守る術もない。ただの無力な小娘です。そんな小娘にあなたたちは「世界を救え」そう求めてるんですよ?」
「だって……でも、エアリス神様が……」
「ええ、ですから望まずとも私はここに居ます。ですがあなたはその神の判断すら疑ってらっしゃるのでしょう?つまりは私は死を望まれているのでしょうか?「なにも出来ないだろうが拒否は許さない。旅に出て、魔物に襲われ無残に死ね」と」
淡々と言葉をぶつければお姫さまの瞳が大きく揺れた。
小さく首を振りながら「違っ……そんなつもりじゃ……」と弱々しい声で涙目になる。
ちょっとイラッとはしたが、エマは本気でお姫さまに怒っているわけではない。
むしろいかにも甘やかされて、言いたいことはなんでも言っちゃう!なお姫さまより、腹の中に溜め込む奴の方が面倒くさいと思っている。
足手まとい判定でお役御免してくれるならいい。
だけど役目は押し付けつつ見下されるのは非常に腹立たしい。
だから、
お互いの立場はきっちり示しましょう。
「国王陛下、私は彼らに同行すべきか否か、ご決断を」