天界でいじけてる
ご厚意に甘え、一泊させてもらったエマたちは翌日朝早くに出発した。
悠々と泳ぐ白いクジラの背に乗って海を駆ける。
朝日を浴びた海は幻想的なほどキラキラと光り、なんとも優雅な海中散歩を堪能し、昼前には岸へとついた。
楽チンだったうえ、大幅な時間短縮だ。
「色々とありがとうございました」
見送りにきてくれた人魚たちに深々と頭を下げる。
「お礼を言うのは私たちだわ。また来てね」
「旅は大変だろうけど気をつけて」
「元気でねー」
口々に言葉をかけて手を振ったり、尾びれを揺らしてくれる人魚たちにエマたちも笑顔で手を振り返す。
白クジラがお別れを言うみたいに潮をピューと噴き上げてくれた。
キュキュッと音が鳴る白い砂浜を歩きつつ、ルーシェルたちの姿が見えなくなったところでエマは両手でほっぺをむにっと掴んだ。
「う~……ほっぺたが変に突っ張ってる……」
「ずっと愛想笑い浮かべてたもんな」
「あんな恋する乙女全開なルーシェルさんに下手なこと言えないじゃない」
今日も今日とてルーシェルのエアリス熱は相変わらずだった。
恋する乙女は話題をエンドレスリピートできるものなのだ。
憧れ多めにエアリスの話題を振ってくるルーシェルに笑顔をキープしていたせいで頬が微妙にお疲れなのです。
なぜかと言えば……。
「だって私のエアリスに対する評価とか態度って……ちょっとアレだし」
「自覚はあるんだな……」
ぶっちゃければ、レオンたちから呆れた視線をもらった。
「でも実際、世の中の人たちが思い描いている神様像とかなり乖離してるんですもん!」
エマだって前は信仰心がまったくなかったわけではないのだ。
けど……実物を目にしてイメージはガラガラと崩れた。
だからこそ恋する乙女・ルーシェルの憧れを壊さないように笑顔キープで無難な回答をし続けたのだ。
「実際はどんな感じの方なのですか?」
「わりと俗っぽい兄ちゃん」
「……エマ」
「だって本当ですもん!お人よしでちょっと押しの弱い、気のいい兄ちゃんですよ!威厳とかないし!そもそも出会いが出会いだったしなー」
「そーいやどうやってエアリス神に会ったんだ?」
「神殿でチートがマヨビームって発覚して、それに伴って前世の記憶が流れ込んできたわけ。キャパオーバーしちゃってさ、「ふざけんな、コラッ!!責任者出てこいぃぃ!!」て叫んだら天界に召喚された」
「マジか……」
全力で引かれた。
現場を目撃してたハリソンは額を押さえている。
「エマ嬢、信仰心が篤い方々もおられます。特に神殿関係者の前などでは取り繕ってくださいね」
真面目な顔をしたハリソンに注意されてしまった。
ごもっともなお言葉だし、エアリスと会ったあとで神官たちに取り囲まれたのが怖かったので素直に「はぁ~い」とお返事した。
必要な場では取り繕うとして、いまこのメンバーには普段の対応バレてるし……と気軽に話を続ける。
「そんなノリの出会いだったし、あっちも気安かったからね。なんかイマイチ偉い神様って実感がなくなっちゃって。ある意味クルトと同類。やっぱ初対面って大事だわ。それで対応決まるっていっても過言じゃない」
「確かにマヨラー発覚して一気にキャラ崩れたしな、お互い。まぁ、堅苦しいより楽でいーけど」
一回崩れてしまうと立て直すのは難しいのです。
「でも外見はルーシェルさんのイメージを壊すどころか覆すほどの美形だよ。めっちゃ神々しい」
「そんなにですか?」
「うん。あれはビビるわ。あの顔で黙ってたら、さぞ慈愛に満ちて見えると思う」
「それなのにあの対応ってすごいな。さすがエマ」
どういう意味だ、と突っ込みたいが……たしかにあの美貌を前にしたら大抵の女の子はしおらしくなっちゃうんだろうなと納得したエマだった。
初対面で胸ぐら掴もうとした自分にそんな反応求められても無理だけど。
反論できないエマは話を逸らすことにした。
「そういえば昔はエアリスって地上に降りたりしてたんですよね?神殿の石像とか結構似てますし」
もっとも、色んな芸術家たちが作っているので中には「これ誰だ?」的なモノもある。
「神殿の記録によるとそのようだな」
「へー、やっぱ神力の関係なんかな?」
「恐らくは……」
「ならいつかみんなも会えるかもですね。最近、呟きも増えてますし」
先日の屋台でも『いいなー、楽しそう』とか、ちょいちょいどーでもいい呟き受信が増えてたりするのです。
きっと神力が余裕に出てきた証拠だろう。




