商売人の血が騒ぐ
船酔いというものは、陸に降りたからといってすぐに治まるものではない。
地面が揺れる感覚というのはしばらく続くのだ。
「完全復活っ!」
しばらくバタンキューしていたエマたちだが、ようやくベッドから起き上がれる状態になり港へと訪れていた。
賑わいのあるそこへと足を踏み入れれば、あっという間に取り囲まれ漁師さんたちをはじめお礼を言われる。
「いやぁ~、さっすが勇者さまたちだぜ。まさかあんなバケモンを倒しちまうとわなぁ!」
もってけ、もってけ!と至る所で新鮮な貝だの魚だのをもらい、大量の魚介類GET!
「そーいえばおっちゃん、あのクラーケンどうしたんだ?」
倒したクラーケンの頭部は海に沈んだが、切った足は漁師のおっちゃんらが数本持ち帰っていた。
「食えっかなと思って持って帰ってみたが、味は普通のイカと変わんねぇぞ。まだまだいっぱいあるから持ってくか?」
「いいのか?」
「ああ、もちろんだ。なんせ倒したのは兄ちゃんらだからな!」
ガハハハハッと豪快に笑ったおっちゃんは巨大な足をまるまる1本持ってくると「ほらよ!」とクルトに渡す。
「こんなにいらない……」そう言いかけたクルトの言葉と伸ばした手もそのままに、おっちゃんは忙しそうに船へと戻ってしまった。
巨大な足を手にしたクルトが困ったように仲間を、そしてエマを見る。
「どうする、エマ?」
「どうするもこうも……それそのまま鞄に入れるのやだ。保管するならクルトお願い」
「俺だってやだよ」
状態保存機能もある魔法の鞄なら鮮度の問題はない。
だからこそ新鮮な魚介類もぽぽぽいっと頂いては放り込んでいるエマたちだが……でっかいクラーケンの足がそのまま入っているのはなんか、やだ。主に気分的に。
その想いはいっしょなのか、自分に振られてはたまらないとレオンたちもそっと顔を逸らす。
「そうは言っても、そんなに食べられないしなー……あっ」
どうするべきかと腕を組んだエマは、何気なく浜辺の方を見て声をあげた。
クラーケンが退治され、海が解禁になった浜辺は多くの人でにぎわっている。
そしてそこにはいくつかの屋台もあった。
「あっちのあれ、お休みの屋台かな?」
疑問をもらしたちょうどその時、船と漁港を往復し荷運びをしていた兄ちゃんが足を止めて教えてくれた。
「あれは貸屋台だよ」
「貸屋台?」
「そ、料金を払って時間単位で貸し出してんの。人手が多いときとかいい小遣い稼ぎになんだよな」
その言葉にエマが食いついた。
心なしか、瞳がキラキラと光っている。
「それって私たちも借りられますか?!」
とびっきりの美少女に身を乗り出されて尋ねられた兄ちゃんの顔が薄っすらと赤らむ。落としそうになった荷を慌てて抱え直しながら「あ、ああ」と頷く。
「あれを借りたいのか?ちょっと待ってろ。これ置いたら俺が交渉してきてやるよ」
「ありがとうございますっ!」
輝く笑みを受けた兄ちゃんが小走りに船へと向かい、荷を置いて貸屋台の方へと向かうのをホクホクの笑顔で見送る。
「なにをする気だ?」
「食べれないなら、売ればいいんですよレオンさま。ほら、ちょうど旅の資金も減ってきたって話してたじゃないですか」
潤沢な旅の資金。
それでも使えばお金は減る。
別に減ったとはいえ、資金繰りが怪しくなっているわけでもないのだが……お金はあればあるに越したことはない。
「だからって……」
乗り気じゃないレオンにエマはずずいと詰め寄る。
「自分でお金を稼ぐ。いい経験だと思いません?王族として広い意味で経済をまわすことはあれど、直接お金を稼ぐなんて体験、貴重ですよ?」
「それは……たしかに……」
よし、釣れた。
エマはひそかにほくそ笑む。
王子として城で品行方正に生きてきたレオンは、意外と好奇心旺盛だし、民の暮らしを知るという点に弱い。
「いまこそ私はレオンさまを必要としています!その顔で女性客を根こそぎ落としてください!」
「……その必要とされ方は微妙過ぎる」
自分の存在を認められたかった、そう話していた先日の会話を茶化せば、心底微妙な顔をされた。
「つか、なんでエマそんなヤル気なんだよ?」
「だって楽しそうじゃない?」
絶対、大繁盛させてやる!その決意も露わにエマは拳を握る。
「まぁ、たしかに」
「ってことで、みんなも客引きお願いしまーす!」




